私が今まで経験した思い出に残る火災現場

なにぶん田舎なものですから火災の件数も都会とは比べようがありませんが、 今まで経験した火災現場で思い出に残っているのを幾つか載せたいと思います。


全身泥だらけ!
火災現場で使用する器材の項目にもちょっと書きましたが、あれは印象に残っ ています。私は筒先員(ホースで水を掛ける人)としてホースを伸ばしながら火 災建物の近くに構えました。
その時には既に炎は屋根の上まで吹き上げており、早く消火しようと筒先(ノ ズル)を向けました。
通常だと、そろそろ水がポンプ車から送られてきて水が吹き出す筈でした。
しかし、なかなか水が出てきません。
そうこうしている内に火災が急激に拡大してきました。(フラッシュオーバー )
そしてそれまでいた場所には強烈な輻射熱が降り注いできて、近くの植木から 白い煙が吹き出し、今にも燃え上がりそうです。
私達の防火衣も我慢できないほどに熱せられてきました。
私達は決して筒先から手を放すなと教え込まれます。それは放水の反動でノズ ルが暴れだして凶器となるからです。
そこで急いでノズルをシャットアウトし、水が来ても暴れないように措置する と急いでその場から飛び出し、すぐ隣の水田に逃げ込みました。
ところが輻射熱はまだそこにも追いかけてきます。
そこで体を低くし、泥の中に体を伏せるとようやく熱から逃れることが出来た ので、その姿勢のまましばらくじっとしていました。
そしてようやくホースが膨らんで水が送られてきたのが確認できたので、泥の 中から這い出ると放水を開始、程なく火勢は弱まり、鎮圧することが出来ました 。
メデタシ メデタシ。
後で点検してみると、私より少し前にいた先輩の防火帽の一部(顔面を保護す る透明プラスチック)が熔けちゃっていました。
よく火傷せずに済んだと感心したものです。


池にはまった!
火災現場は大量の水を使用するので、あたり一面水浸しになり小川が出来るほ どです。
放水した水は火災で出来たススを大量に含んでいるので真っ黒になり、その下 にある物を隠してしまいます。
あの時は夜間の火災でただでさえ見にくいのに、水が15センチ程溜まってし まい、とても歩きづらくなっていました。
自分の所の火が一段落したので別の燃えている所へ移動している時です。
ドボン!!
突然胸のあたりまで沈んでしまいました。
一瞬何が起きたか判らなかったのですが、水溜まりに隠れてそこに小さい割に は結構深い池が在ったんですね。
苦笑いしながら抜け出し、少し先で消火を開始しました。
しばらくすると消防団の人が、伝令か何かで走ってきました。
そして注意する間もなく、またドボン!
移動するにはどうしても通らなくてはならない場所だったので、その後も続々 とハマル人が出ました。
注意する人をその場に配置したにも関わらず、結局多数の人がその池にはま ってしまったのです。
その内の数人は消防署の偉い人でした・・・(^^;


私は消防長?
あれは消防署に採用になって間もなくの、初めての火災の時でした。
消防の知識など全く無く、ただ、休日でも火災が起きれば駆けつけなくてはい けないという知識だけはあった頃の事です。
休みなので家でくつろいでいると、有線電話から火災の速報が流れてきました 。
「近い!私も消防職員になったのだから駆けつけて仕事をしなければ!」
そう思った私は、車に飛び乗ると火災現場に向かいました。
当然私服のままです。
本当は消火用の作業着を着て、ヘルメットを着用して駆けつけなければいけな いのですが、そんなことは知らずに・・・

消火活動をしないでうろうろしていたちょっと偉そうな消防職員を見つけると 、私は
「非番駆けつけに来ました!何をすればいいでしょうか?!」
と、聞いてみました。
すると

「何だおまえは!作業衣も着ないで!ヘルメットはどうした!?」

「え?・・・持っていません・・・」

「ばか者!ヘルメットも無しに活動できるか!向こうの車のトランクにヘルメ ットと防火衣があるからそれを着用して注水の補助をしろ!」

「はい!」

わたしはいわれた通りに少し先にあった車の後ろのトランクを探しました。
ところがいくら探してもヘルメットも防火衣もありませんでした。
しばらく探してふと目線を上げると、後部座席の上にヘルメットがあるではあ りませんか。
ああ、これの事だと解釈した私は、そのヘルメットを被ると火災現場で注水し ている人のところにいって補助をするよういわれた事を告げ、しばらく手伝いを しました。
しばらくすると

「ここから先は防火衣の着ていない君を使う訳には行かない、現場本部に戻っ て指示を受けてくれ」

といわれました。
私は現場本部というのを探して歩いたのですが、どうしても見つかりません。
仕方が無いので最初に指示をした偉そうな人がいた場所に立って、火災の現場 を見ていた時です。

「今回の火災の原因は何ですか?」

と、新聞記者のような人がメモを片手に私に尋ねてきます。

「え?・・・私には解りませんので別の方にお願いします。」

「え?ああ、そうですか・・・」

その人はそう言うとその場を離れていきました。
しばらくして現場が落ち着いてくると、私の知っている顔もちらほら見掛ける ようになりました。
すると、

「おい!おまえ、なんて物をかぶっているんだ!?」

と、見たことのある人から言われました。

「え?さっき車の後ろに積んであるヘルメットをかぶっていろと言われたので ・・・」

「ばか!!おまえのかぶってるのは消防長のヘルメットだぞ!!」

・・・そうなのです。私は知らずに消防長のヘルメットをかぶって現場活動を していたのです。
新聞記者が私に事情を聞いてきたのも、消防長のヘルメットをかぶっていたか らなのでした。

あの時は私の他にも非番駆け付けをした人がいて、その人が車の後ろに積んで ある筈の現場活動用のヘルメットと防火衣を持っていってしまっていたのでした 。

消防長とは消防組織の頂点に立つ人で最高権力者です。その人のヘルメットを 現場でかぶるという事は、国会で新米議員が総理大臣の席に座るようなものです 。

知らぬ事とはいえ大胆な事をやった物だと、いまだに自分で感心してしまいま す。
その時の現場写真には消防長のヘルメットをかぶった私が現場で注水の補助を している姿がしっかりと写っています・・・

 

工場火災は怖いぞー

ピピピ・ピピピ・火災信号を受信しました。こちらはコード番号○○○、○市○番○○○○です・・・

久しぶりに自動火災通報が入りました。

発信源は結構大きな工場です。

 




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