ストックに思う


議題「烏帽子岳滑落事故」=登山者情報第1100号


2007年07月26日 JF7HZU

 私は20代の頃はストックを使用した記憶はない。ただ74cm木製のピッケルを持ち歩いていた。小玉川の熊狩りは、石突きのついたナメ棒を利用しており、今も救助作業で一緒に行動する時は雪の有無に限らず持参してくる。山菜採りは現地で杖を作り、入口に置いてくる。次に行く人はそれを利用していた。
 私達がストックを持つようになったのは、故前田治二先輩の影響による。彼は稀代の熊狩りであり、同時に小国山岳会の会員でもあった。彼は温身平の取水口に勤務していたので、冬期間はジャンプ用のスキーに自作の金具を着け、長靴で通勤していた。当然ながらストックを使用しており、これをスキーなしの時も使って驚異的な山歩きをしていたのである。当時、国体に選手を送り出していたが、縦走競技で速度上げるために前田先輩の4WD走行を真似たのが始まりであったと記憶している。
 その後、これまで私は子供が使い古したスキー用のストックを使用してきた。今では身体のバランスを保ち、快適に登降するのに欠かせない道具となっている。
 ただ藪を漕ぐ時は邪魔以外何物でもない。そこで伸縮できるストックが欲しいと考えていたが、この度ようやく購入することにした。
 購入して最初に戸惑ったのが、先端に着いていたゴムのキャップである。ゴムのキャップはよく抜け落ちてごみになっているし、小さいとは言えリングが木の根の間に挟まって苦労することもあるので、このキャップとリングを外して使うことにした。
 さて今回(2007年7月18日)の遭難事案で気になった点があった。それはストックの先端に付けるゴムキャプである。中高年登山者が多くなるにつけて、ストックを使用する割合が爆発的に増加している。
 早川輝雄氏は、「山と高原地図web」のコラムで「尖ったストックを地面に突き刺して歩くことにより、登山道に土が帯状に掘り起こされ、雨が降れば土が流されてしまい、登山道荒廃の主要な原因になっている。これを防ぐためにゴムキャップを取り付けることにより相当程度問題を回避できるだろう」と指摘し、ゴムキャップを取れないようにビニールテープで固定する方法も勧めている。
 一方、木太久千宏氏は、「先端のゴムキャップを使うことは間違いである。ゴムキャップはストックを使わない時に周囲のものを傷つけない為のもの、ストックを使う時にキャップをつけたままでは、先端の超硬チップが泣く、ただし木道などでは、歩行面を傷つけないよう、キャップをする配慮も」と記載している。
 両者とも、登山用として市販されているストックが岩場での使用を前提として作られていることを指摘している。そのストックを土の上で大勢の人間が使用するのは好ましくなく、便宜上ゴムキャップをつけて使用する方法もあるのではないかと提案しているのだろう。
 しばらく前に手にしたピッケルの先端が、プラスチック状のもので覆われており、これでは使い物にならないと驚いたことがあった。その後これは単なるキャップだと気づいて苦笑いをしたことがある。
 ストックにゴムキャップをつけて使用するのは、ピッケルにキャップをつけたまま使用するのと大差ないと思う。
 遊働館のホームページにはこのように掲載されていた。「購入したてのストックの先端にはゴムのラバーがついています。ストックは、本来はこのゴムをはずして使いますが、自然保護のため木道や自然を傷つける場所ではラバーをつけ、なるべく使用を控えるようにしたいものです。一人二人ならいいかもしれませんが年間何万人も来るような山の場合、ストックは山にダメージを与えかねないからです。また、たまに電車などで見かけるのですが、ザックを背負ったまま、剥き出しのストックをザックの外側に付けている方がいます。ザックを背負ったままですと、後ろは見えません。もしも下に子供がいたりしたら怖いです。電車内でもラバーやカバーはつけておきたいものです。」
 なるほど、これで合点がいった。早川氏は大勢の登山者が列をなして歩いている蔵王での観察から指摘しているのであって、一概に全ての山、どんな時でもキャップをすべきだとは言っていないと考える。
 先日「全図解レスキューテクニック(堤信夫氏著)」という本の中に、芯抜きロープは強度を弱めるから行うべきではないと記載されていた。芯抜きロープは、ロープの直径差によって使用が可能になるプルージックを、少ない直径差で効果を得るために編み出された方法であって、基本となるロープの太さが異なるのであるから、多少強度が落ちてもそれはカバーできるのである。問題は何故に芯抜きが必要であり、どのような場面で使うべきかを把握しないで使用すべきではないということだろう。(堤氏は芯抜きをしないでもエーデルワイス社のプルージックロープで、彼が考案したブリッジプルージック結びを用いることにより、9〜11mmロープに対し7〜8mmロープで対応することができるとしている。この方法を提案できるから、芯抜きは必要ないということだろう)
 ストックのキャップも同じことで、キャップをすることの危険性とキャップをしないことによる土壌流失のデメリットを熟知した上で、臨機応変に変えていくことが大切なのである。