Birthday〜待ち焦がれた夜に〜
ACT・1
彼との逢瀬はいつも突然。
それも、片方の手のひらで受け止められるくらいのわずかな時間・・・。
それでも、あたしはうれしかった。
逢っている間は、その時間が永遠に続くような気がしていたから。
でもね・・・けして満足している訳じゃない。
本当は毎日、会いたくて、逢いたくて、仕方なかった・・・。
けれど、哀しいことに、あたしは気づいてしまっていた。
その想いを口にすることは、
多忙を極める彼を、苦しめるだけだと言うことを・・・。
だから、連絡はいつも彼からで、あたしはただ、
いつでも飛んでいけるように、できる限り時間を空け、そして待ち続ける。
『待つ女』なんて、一昔前の男のエゴと言う人もいるかもしれない。
でも、あたしは彼に『待たされている』とは思わない。
『待つ』ことは、今のあたしの生きている証・・・。
待つことさえ許されないこともあると、大人になって気がついたから、
待ちつづける時間の中に、彼への距離は感じなかった。
だけど、寂しくないといったら嘘になる・・・・・。
逢いたくて、あいたくて、眠れない夜だって数え切れないほどある。
それでも待ちつづけられるのは、
いっしょにいられる、わずかな時間に彼がくれるあたしへの想い・・・、
熱く激しい彼の想いが、あたしを支配するから・・・。
そしてあたしは、彼に似合う女で有り続けようと努力さえする・・・。
・・・・・これもなんだか封建的かな?(笑)。
でも、そうすることで逢えない時間を、
彼への想いで溺れてしまいそうな時間を、なんとか正気でいられるのだ。
もうすぐ・・・・彼の、誕生日・・・。
ACT・2
どうしてだろう?
その日が近付くと、あたしはまるで遠足前の子供みたいに、
眠れないほどソワソワしてしまう。
おそらく・・・ううん、絶対に、あたし自身の誕生日だってこんなに
待ち焦がれたりはしない。
彼が好きだと言っていたトワレ。彼が好きだと言っていた色の服。
そして彼が好きだと言っていた、とびきりの笑顔を鏡に映して、
後はひたすらその日を待つだけ。
毎晩、毎晩カレンダーに向かっては、その日までの日付けを塗りつぶし
ながら待っていること・・・それは彼にも話していない。
『今年も一緒にお祝いさせてね』
『ありがとう・・・うれしいよ』
もう何年も、同じ会話が繰り返されて来た。
ワンパターンと言ってしまえばそれまでだけど、いつしか2人の間で
出来上がっていたこんなルールも、今のあたしを支えてくれている。
そんなセリフが許される自分の立場が・・・ほんのちょっぴり誇らしくて。
ただ待っているだけじゃない、あたしからのアクションが許される
彼の誕生日!!
・・・ねぇ、彼に会ったら、まず何て言おう?・・・
・・・ねぇ、ヴィンテージワインとシャンパン、どっちがいいかな?・・・
・・・ねぇ、やっぱりお花も必要かしら?・・・
ひとり、何度も舌の上でそんな言葉を転がしてみる。
一度は答えが出て、それがまた消えて。
だから答えのない自問自答をえんえんと続けているようなものだ。
いろんな言葉や物を用意したところで、彼にあった瞬間、うれしさがこみ上げて
何もかも忘れてしまうことも分かっているのに。
いとしい人の誕生日が、こんなにたくさんの密かな喜びを教えてくれることを、
あたしは彼に出会って初めて知った。
ACT.3
指折り数えるうれしさの中、とうとうその日はやってきた。
もう、着ていく服も、それにあわせたローヒール(笑)も決まっていたのに
朝から鏡の前でアレコレやっているうちに、
あたしの中に、ちょっとしたイタズラ心が浮かんできてしまった。
・・・・・髪型変えたら、彼はなんていうかな・・・・。
ここ何年か、あたしは彼の髪の色・髪の長さに合わせた髪型をしていた。
それはいつも、さして代わり映えはしなかったけど
自分なりに気に入っていた。
彼も、特に何も言わなかったけれど、
肩にかかる髪を、何度となく指先で遊んでいたから、
気に入ってくれていたのだと思う。
それを、不意に切ってみたくなってしまったのだ(笑)。
久しぶりに逢った、あたしの髪型が変わっていたら
彼はどんな反応をするんだろう・・・。
それだけが見たくって(^^;)、
彼に逢いにいく前に、美容院に寄ることにしてしまった。
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シャギーの入ったサイドは、耳たぶが半分覗くほどの長さ・・・・。
ちょっと切り過ぎちゃったかな〜(^^;)?
彼の好みが、大人っぽい女だと言うことはわかっていた。
この髪型だって、それなりの人がすれば
きっと大人っぽいに違いない。だけど・・・・・。
どうやらあたしの顔が幼すぎたらしい(爆)。
自分的には気に入ったけれど、
彼の反応が怖い・・・という結果になってしまった(><)。
だけど・・・、やってしまったものは仕方がない(苦笑)。
あたしは気を取り直して、彼の仕事先へと向かった。
そう・・・・・。
毎年今日と言う日には、彼の誕生日を祝おうと、
沢山の人がライブハウスに詰めかける・・・。
最近じゃ、このライブのチケットはプラチナチケット・・・、
なんて噂も聞かれるほど、たくさんのファンで溢れかえる。
彼はチケットを用意してくれるって言うけど、
なんだかそれはしちゃいけないような気がして
毎年、自力でチケットを手に入れていた・・・・・。
あたしは、いろんなものである前に、
ずっとずっと、彼のファンでいたいと思っていたから・・・。
ACT.4
最初は、できるだけ彼の近くにいるつもりだった・・・・・。
ステージの上の、彼の瞬きや、仕草、そして何よりあの声が
あたしの心の琴線を震わせるから・・・。
そして、そこから流れ出したメロディは、
やがて心を体を熱くさせ、その感覚に溺れるように、
あたしはステージの彼に惹きつけられるから・・・・。
だから・・・・できるだけ近くで見ていたかった・・・。
しかし、入口にある大きな鏡に写った自分を見た時、
彼を驚かせたいというイタズラ心と、
彼に見られることの気恥ずかしさがぶつかり合い、
あたしは、ほんの一瞬、躊躇してしまった・・・・・。
その刹那の戸惑いが、
ステージに近づくタイミングを外させた・・・・・。
人波があたしの横を走りすぎてく。
-----もう向こうは無理ね・・・(^^;)。
気を取り直し、一番奥のバーカウンターの端に陣取ると、
ステージに向かって止まり木に腰を下ろした。
そこは多少ステージから距離はあったものの、
カウンター横に設置されたモニターで、
彼の表情を見ることが出来た・・・。
開演時刻・・・場内が暗転し、ステージ上に彼が登場する。
割れんばかりの歓声と拍手に迎えられ、
彼は照れくさそうに笑いながら、椅子に腰掛けギターを抱えなおす。
そしていつものように、会場を見回す・・・・。
そこで彼はあたしを見つけ、微笑んでくれる、
・・・・・はずだった・・・・。
確かに彼とあたしの視線は交差した・・・。
彼はあたしを見つけていた(と思う)。
そう・・・いつもならほんの一瞬でもお互いを確認し合い、
何度となく交し合う視線・・・・。それが・・・。
交差し、行き過ぎてしまった彼の視線。
-----あれ?気がつかなかったのかな?
はじめはそう思っていたけど、
時間と共にものすごい不安感があたしを襲いだした。
結局ライブ中盤、あたしは耐え切れなくなって
ステージを見るのをやめてしまった。
ライブが終わるまでただ、モニターを見つめ続けていた。
モニターの中の彼は、いつもと変わらなかった。
あたしだけが取り乱し、胸が締め付けられるように苦しかった。
ライブ後は、いつもの仲間と、
打ち上げを兼ねた、彼のバースディパーティーだった。
会場に着くと、彼はもう飲み始めていた。
「よぉ・・・。」
あたしと目が合うと、そう言って少し微笑んだ。
その微笑のおかげでさっきまでの胸の苦しさが少し和らいだ。
彼の隣りに座り、傍にあったグラスを手に取った。
「うわぁーーーっ髪、切ったんだねーーーーっ」
「ずいぶん思いっきりだね♪でも似合うよーーー!」
「えへへ・・・ありがとう・・・」
友達の声に答えながら、そっと彼のほうを窺うと
黙ってグラスを口に運んでいた。
-----やっぱりこの髪型、気に入らなかったのかな・・・・。
彼はいつもよりずっと口数が少なく、話が続かない。
なんだか隣りに座っていても落ち着かず、
居たたまれなくなって、そっと店の外へと抜け出した・・・。
店の入口の壁に寄りかかり、前髪を指先でもてあそぶ。
-----切らなきゃ良かった・・・・・。
「帰ろっと・・・・。」
駅に向かって歩き出そうとした瞬間、不意に肩を抱かれた。
「????」
「俺のこと置いて帰るわけ?」
「あっ・・・。」
「今日は映画見に行く約束だったろ?」
「うん・・・。」
どうしても時間が取れないからと、この日のデートは
オールナイトの映画に行くことにしていたのだった。
二人で映画館に向かって歩き出す・・・。
でも、やっぱり彼は黙って歩きつづけ、
あたしは耳にあたる冷たい風に、ものすごく後悔しながら、
彼の後に、やはり黙ってついていくしかなかった。
ACT.5
今夜の彼は絶対に違う!・・・あたしは言いようもない不安感で、
泣き出したい気分を抑えることに必死だった。
彼の気持ちをのぞくことができたら、どんなにラクになるだろう?
だけどあたしには、『今夜は変だよ。どうしたの?』って笑いながら
尋ねられるような勇気もない。
映画が始まっても、あたしはただぼんやりとスクリーンを眺めている
だけだった。大好きなシーンやセリフも、何も頭の中に入ってこない。
隣にいる彼・・・今夜は少し様子が違う彼・・・を思うだけで精一杯なんだもの。
ふと気付くと、すぐ前の席に座っているカップルは、時折、こそこそと
内緒話をするような仕草をしては、お互いの頭を寄せ合う姿勢で
ストーリーを楽しんでいる。それに対してあたしたちは、2人とも
シートに腰掛けた瞬間から、ずっと同じ距離を保ったままだ。
映画の佳境にさしかかってもその距離に変わりはなく、
そんなよそよそしさが、あたしの気持ちを余計に重くさせていく。
映画が終わって、また彼と向き合わなくてはならなくなった時、
あたしは一体どうしたらいいんだろう?
そう思うと、このストーリーが永遠に終わってほしくないような気がしてくる・・・。
『出ようか・・・』
1本目の【卒業】の上映が終わると、彼は不意に立ち上がった。あたしは
慌ててコートを羽織ながら、また彼の後を黙ってついて行く。
深夜を回った外の空気はさらに冷たく、まだ外気に触れ慣れていないあたしの
耳は、次第に感覚をなくしてしまいそうなほど、冷たさが痛みに変わっていく。
『寒いよなぁ・・・何か、あったかいモンでも飲もうか』
そう言いながら、彼は、すぐ近くの自販機で2本の缶コーヒーを買って来た。
プルリングを開けた後、1本をあたしの手に押し付けてくる。
『・・・その髪、すっげぇ、似合ってるじゃん』
缶コーヒーを一口飲むと、彼は突然、そんなことを言った。
『えへへっ・・・ちょっと切り過ぎちゃったかもしれないよね』
あたしはとっさに片方の耳の辺りの髪を押さえながら、そう答えた。
『いや・・・そんなことない。ま、今までと雰囲気は違うけどな』
『そう?・・・少しは変わったかな?』
『少しなんてモンじゃないよ。何ていうか・・・ヤバいなってカンジ』
ヤバい、という言葉が何を指すのか分からなくて、
あたしは次の言葉を失ってしまった。
『ヤバいよ、マジで・・・』
彼は一瞬、いたずらっぽく笑いながら、またしても同じ言葉を繰り返した。
『気に入らないってこと?・・・』
あたしはずっと聞こうかどうかためらっていたことを、おそるおそる口にしてみた。
『バーカ、違うよ。その反対だよ・・・あんまり大人っぽくなったから、
かなり焦ったよ』
『??・・・じゃあ、ヤバいって何なの?』
あたしがそこまで言った時、彼はあたしの耳に素早くキスしてきた。
『こういうコト!・・・分かった?』
あたしの心臓は今にも壊れだしそうな勢いで、ドクンドクンと動き出した。
『さっきの【卒業】のさ、ダスティン・ホフマンの気持ち・・・なんか、今夜は
すごくよく分かるよ・・・』
タクシーを待っている間、彼は少しはにかみながら言った。
『打ち上げの時、アイツらみんなしてその髪型をほめてたじゃん?・・・あれさ、
俺、なんか悔しくってね・・・バカ野郎、俺がほめる前に絶賛するなよな〜って』
彼がそんなことを思っていたなんて、あたしにはとても意外だった。
『・・・こんなこと本当は言いたくないけどね。でも、今夜は・・・お前をどこかへ
さらって行きたいよ』
あたしは胸が一杯で苦しくなった。
何も言えずに、ただ黙って彼の腕に自分の腕をからませた。
『そう言えば・・・お前から、おめでとうも聞いてないぞ』
あっ、そうだった。今日は彼の誕生日だったんだ・・・(^
^;)
『さらってくれるんでしょ? 後でたっぷり言うことにするね』
彼はあたしの言葉にやさしい瞳でうなずくと、空車ランプをつけたタクシーを
片手で呼び止める。この後、どこへ行くのかは・・・あたしにも分からない。
・・・Happy Birthday,and I Love You・・・
ひと晩中でも、ずっと繰り返して言っていたい。
あふれそうな思いを込めて・・・
〜THE END〜
BY・sala(ACT.1*3*4)&QUEEN BEE(ACT.2*5)