《 一億分の一の恋人 》
朝からツイてなかった。
起き抜けにベッドから転がり落ち、歯磨きのチューブを踏んづけ
コンタクトを流し、ブラウスにソースをこぼし
マンションのエレベーターは故障中。
階段を下りきったところで、定期を忘れた事に気付き
最上階まで取りに戻ったら、期限が昨日で切れていた。
今日は電車一本遅らせよう・・・
もう何もないことを祈りながら、ぼやけた視界の中
駅へと向かった。
“ママ”というのが、子供の頃のあだ名。
当時かけていたメガネが、教育ママっぽかったせいだ。
それが嫌でコンタクトにしてから、メガネを人前でかけたことはない。
とにかく・・・なんとか無事に会社まで頑張らなくちゃ・・。
歩き慣れた道は、駅までわずかに5分程度。
ラッシュを避けた通勤時間のせいか
人の流れもさほどではなかった。
券売機で切符を買うために、頭上の路線図に目をこらし
集中しながら近づいていくと・・・・
ドンッ!!
切符を買い終わって、おつりをしまいながら
うつむいて歩いてきた人と正面衝突・・・おまけに転んだ。
『ご・・・ごめんなさい!!』
『すいません、僕の方こそ。大丈夫ですか?』
ん・・・・??僕・・・??男の人か・・。
『はい、大丈夫です。ほんと、ごめんなさい。』
途端に顔が火照ってくるのがわかった。
ぶつかった拍子にばら撒いた荷物を、慌ててバッグに押し込み
あたしはなるべく顔を見られないように、その場を離れた。
すれ違いざま・・・コロンのいい香り。
声、話し方、そして・・・この香り・・・。
きっと、素敵な人なんだろうなぁ・・・。
想像の彼が、声や香りとともに
その時はっきり脳裏に焼き付けられた。
ツイてない朝の、小さなラッキー♪
それは・・・“パ・イ・ナ・ツ・プ・ル!”で
一番に歩道橋を上りきった小学生のような・・そんな気分。
一話読みきりのラブストーリーのエンディング。
でも・・・・
お話はそれで終わらなかった。
相変わらずぼやけている視界の中を、足早にホームへ向かうと
静かに電車が滑り込んできた。
あたしは電車とホームの間だけには落ちまいと
慎重に、ゆっくりと、電車に乗り込んだ。
・・・・と、その時
バッグの中の携帯が聞き覚えのないメロディーを奏でた。
♪♪♪♪♪♪♪♪♪
【着信 090○×□▲▽#$★】
ん???どっかで見た事ある番号だなぁ・・・
ぬあ―――――っ!!!!!あたしの番号だ!!
で・・・でも・・・なんで??
かすんだ目をこらしてよ〜く見てみると、なんだか様子が変。
確かに機種や色は一緒なんだけど、ストラップが違う。
なんだコリャ??カッパ?
小さなカッパがギターを抱えて、ピースしている。
『クスッ・・・・・』思わず小さく声がもれてしまった。
あっ!電話、電話!!
『はい。もしもし?』
『もしもし?君・・・さっきの子?』
『え?』
『ほら!さっき券売機の前で!』
『あ―――――っ!!はい、そうです。』
『携帯、間違えて持って行ったやろ〜(笑)』
『・・・・ごめんなさい・・・どうしよう・・・』
『はっはっは・・・俺、ここ!!』
どうやら彼らしき人影が、反対のホームから手を振っているように見える。
『今、手振ってます??あたし・・今日、コンタクトしてないんで・・・見えないん
です。』
『うん、振ってる振ってる。そっちまで行くから、とりあえず電車降りてくれへん?
(笑)』
『あっ、はいわかりました〜。』
あたしは電話を切るとバッグをつかんで席を立った。
あれ???
『キャ―――――ッ!!』
穿きなれないロングのスカート・・・裾を踏んでいた・・・。
バタッ!!!
四つん這いになったところで、無情にもドアは閉まり
電車は赤面するあたしを乗せて、走り出した。
またやっちゃった・・・・(T▽T)
《 第二話 》
ガタン・・・ゴトン・・・ガタン・・・ゴトン・・・
電車の音が、
“ドジ・・・マヌケ・・・オタンチン・・・”
と、聞こえる。
周りの空気の冷たさに、顔を上げる勇気が・・・ない。
あ〜、やっぱりツイてないや。
『はぁ・・・』と、ため息をひとつついてゆっくり立ち上がると
慌てて知らん顔してくれている人達に
心の中で軽く会釈して、あたしはスゴスゴと隣の車両に移った。
彼・・どうしたかなぁ〜。
電話しようにも電車の中だし・・
この電車、通快だからまだまだ止まんないんだよな〜。
あっ!!メールがあった!
他人の携帯を勝手に使うのは、なんだか気が引けたけど・・・
この際しょうがないか!
あたしはニコニコと揺れているカッパ君を、手のひらに乗せて呟いた。。
『ご主人さまの携帯、ちょっと借りるね♪』
カッパ君は
『かめへん!かめへん!』
とでも言っているかのように、ニコニコ顔でピースしていた。
《勝手に使ってごめんなさい。また、転んじゃって・・降りられなかったの。
これって・・・どうしたらいいんでしょうね。(/_;)》
・・・・送信・・・・っと・・・・
1分が過ぎ・・・5分が過ぎ・・・
でも、彼からの返信はなかった。
『はぁ・・・ご主人さま、怒っちゃったのかなぁ〜?
呆れてるのかなぁ〜?ねぇ、カッパ君・・』
ぶつぶつ独り言を呟いていると、
やがて窓の外には見慣れた駅のホームが姿を現した。
電車を降り、今度は電話をかけてみる。
・・・おかけになった電話は、電波の届かない場所にあるか・・・・・
はぁ〜・・・通じないよ〜!どうしよう。
連絡があるかもしれないし・・・とりあえず会社へ行くとするか・・。
相変わらずニコニコ揺れているカッパ君に、あたしは
『また後でね♪』
と、挨拶すると、携帯をバッグにしまいぼやけた世界を会社へ急いだ。
月曜日のオフィスには仕事が溢れ、おまけに休日のトラブル処理も手伝って
慌しいままに時間が流れていく。
あたしはどんどん仕事の山に埋もれてゆき、いつしか携帯の事を忘れていたが
昼休みになり、やっとひと息ついたところで、彼の事を思い出した。
あっちゃ―――――っ!!(@▽@)
《 第三話 》
そこには・・・・・
何件もの着信と、何通ものメールが溢れていた。
《あのなぁ・・充電くらいしとけよ(笑) あれからすぐに電池切れたやんけ。》
《何処行ったんやぁ〜?あっ、会社か(笑) 》
《おぉ〜い!どないしたんや!返事してくれよ〜》
《困ったなぁ・・・頼むぅ〜返事してくれ〜!》
《これから地下に潜ります 気がついたら連絡下さい》
《俺のも充電切れか〜?頼むよ〜、返事してくれ〜》
《あかんなぁ・・・・・。とりあえず待ってるから、頼むでぇ。》
どうしよう・・・きっと困ってる。
メール・・・いや、電話しなくちゃ。
心なしか震える指先で、間違えないようにボタンを押していると・・・
♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪
突然、けたたましく着信音が鳴り響いた。
『はい、私です。私・・・私・・あの・・ごめんなさい。』
『へっ??・・・もしもし?』
『だから・・・あの・・・私・・・ほんとにごめんなさい。』
『あのぉ・・・君、誰?これって、ヒロユキの携帯だよなぁ・・・』
『えっ?ヒロユキ?・・・って誰ですか?』
『はぁ?君、どなた?』
『あのぉ〜・・・あなたどなた?』
『ガハハハハハハハハ・・・・・・・・・・(爆)』
うわっ!耳痛〜い!なんだぁ??この人?
困ってるあたしの事なんかそっちのけで、ただ爆笑してヒーヒー言ってる。
それにしても・・・声でかっ!
それから、『もしもし!もしもし!』っと、何度叫んだ事だろう。
さんざん笑い転げた挙句、コホン!っと一つ咳をし、
息を静めてその人が話し出すまで、いったい何秒待ったことか・・・。
『ごめん、ごめん。悪かったね、笑ったりして。クスクス・・・』
(まだ笑ってるじゃん!)
『いいえ。』
あたしは少し呆れた口調で答えた。
『・・・っで?君はどなた?(笑)』
『あの!失礼ですけど、普通はかけてきた人から名乗るものでしょ?』
『おぉ、そうかそうか。それは大変失礼いたしました(笑)
俺、カゲヤマっていいます。ヒロユキの友達。っで?君は?』
『ですから、ヒロユキって・・・・あっ!ヒロユキってあの・・・あの人?』
『そうそう・・・って(爆) わかんないよ(笑)』
『あたし、今朝、○○駅で男の人とぶつかって・・・
それで携帯が入れ替わっちゃって・・彼がヒロユキさんなのかな。
でも、わかんなくて・・・』
あたしの話は支離滅裂のしどろもどろだったが、どうやらカゲヤマさんという人は
頭のいい人だったようで・・・とりあえず理解できたみたい。
『うんうん。どういう事かはわかったよ(笑) 多分、そいつはヒロユキや。
特徴のある口元に(笑)、ほくろがあったやろ?』
『それが・・・見えなくて。あたし、今日コンタクトを流しちゃって・・・
全然見えないんです。』
『そっか(爆) あっ、そうや!そこにカッパが居てるやろ!(笑)』
『カッパ??あっ!!居ます!居ます!!ピースしてる!』
『間違いない!ヒロユキや!(爆) そのカッパ、俺のおみやげ(笑)』
『あはははは・・・・・そうなんだ〜よかった〜、カッパ君のおかげ。
あの、それで・・・ヒロユキさんは?』
『あのなぁ・・・(爆) それを知りたいから電話してんねん(笑)』
『そっか・・・。そうですよね。どうしましょ。』
『おもろい子やなぁ(笑) そんなら、ヒロユキは君の携帯を持ってるってことやな。
番号は?』
『えっ?』
『だから、番号や。君の携帯の番号(笑)』
『そ、そ、そんな!知らない人に教えられませんよ!』
『ガハハハハ・・・・・それじゃあ、どうすんだよ(爆)』
『・・・・そうですね(笑) じゃあ、言いますからメモって下さい(笑)』
あたしが自分の番号を告げると、カゲヤマさんはまた爆笑しながら電話を切った。
はぁ・・・・・。疲れた。
今、かけてもきっとあの楽しいお友達と話し中だろうし・・・。
あっ!昼休みが――――――っ!!!
あたしが笑われている間に、時計の針は無情にも残りわずかな時間を刻んでいた。
急いでなんか食べなくちゃ〜!!!
ひとつの事が頭の引き出しに入ると、たちまちひとつの事が抜け落ちる・・・。
そんな人間なんです、あたしって・・・。
たちまちカッパ君はロッカーの中に戻され、
あたしは財布を握って更衣室を飛び出した。
知〜らない!知らない!っと。
《 第四話 》
頭を抱えていた。
自分のドジ加減に、ほとほと嫌気がさしていた。
只今の時間・・・・午後4:30。
あぁ・・・・・・もう・・・・だめだ。
ヒロユキさんは絶対呆れてる。怒ってる。当然だよな・・・。
デスクの上には、カッパ君。相変わらずピースして笑ってる。
でも、なんだかその顔さえ怒ってるように見えてくる。
どうしよう・・・・。すっかり忘れてた。困ったなぁ・・・。
・・・っと、その時【メールを受信中】の文字が浮かんだ。
送信者は・・・「カゲやん」
「カゲやん」??カゲヤマさんだ!
あの人がここにメールを送ってくるってことは・・・きっとあたし宛だ。
あたしは恐る恐るメールを開いた。
《結局、名前も聞かなかった君へ(笑) ヒロユキは今日スタジオに缶詰です。
多分、帰りは深夜になると思う。俺はもうフリーになったし、もしよかったら
俺が君の携帯を届けるよ。場所は○○駅前の喫茶店「LAZY」 午後7:00に
待ってます。じゃ、後で。》
『ななな・・何?これ。かなり強引よねぇ。』
自分のドジを棚に上げ、あたしはカッパ君に呟いた。
カッパ君は『行ったらええがな♪』と、半ば呆れ顔。
このままじゃお互いに困るし・・・行くしかないよね。
午後5:30。定時に会社を後にすると、あたしは指定された喫茶店へと向かった。
○○駅前 午後6:30
私鉄がひとつ乗り入れるだけの小さな駅。
改札を抜けると、ぼやけたあたしの視界でさえはっきりわかるくらい、
派手で大きな「LAZY」の文字。
ここね・・・。入口の重い扉を押すと同時に、ハードロックが耳を突き刺した。
うわっ!うるさ〜〜い!!!
そのけたたましさに、あたしは思わず開きかけたドアを閉じた。
こんなところで・・・ひとりで待てって??冗談じゃないわよ。
30分も早く来た事を後悔した。
あぁ・・・どうしよう。表で待つにも、時間があり過ぎるし・・・・
周りを見回しても、ファーストフード店はおろか、店というものが・・・ない!
『ここの駅、LAZYって名前に変えたらいいのよ、ねぇ!』
いささかお疲れ模様のカッパ君を手のひらに乗せ、あたしはまたポツリと呟いた。
その時・・・・ガチャッ!
寄りかかっていた店のドアが勢いよく開いた。
『うわっ!!!』
言うまでもなく・・・尻もち。
『ご・・ごめんなさ〜い!大丈夫ですか?』
見上げると、髪の毛が真っ赤な女の人が心配そうにあたしを見下ろしていた。
『はは・・・大丈夫です。すいません。いたたた・・・』
『あの・・・カゲヤマさんのお知り合いの方?』
『へっ?あ・・・あ・・・まぁ・・・そんなもんです。』
あたしは、お尻の痛さをこらえ、なんでもないように立ち上がった。
『どうぞ!中で待って♪お客さん居ないからって、音大きくし過ぎちゃってて(笑)
びっくりされたんでしょ?もう平気ですよ。小さくしましたから。どうぞ♪』
『は・・はぁ・・・。それじゃ、失礼します。』
あたしは、薄暗い店内を髪の赤い彼女に続いて奥へと進んだ。
『ここ、昼間は喫茶店なんだけどね、夜はバーなの。
その辺に座ってて♪なんか作るわね。お酒は強い方?』
『まぁ、人並みって感じかな・・・。』
『そう♪じゃあ、任せといて!おいしいカクテル作ってあげるから。』
『ど・・どうもすいません。』
初対面なのに、とても気さくに話してくれる彼女。職業柄かなぁ・・・。
でも、なんだか居心地がいい場所・・・。LAZYはそんな店だった。
『あっ、カゲヤマさんね、少し遅れるからって。だめねぇ、彼女待たせて。』
『あの、あたし・・・カゲヤマさんとは・・・別に・・・
あの・・・・会った事もないし。』
『えっ?』
リズムよく振られていたシェイカーから、綺麗なブルーのお酒がグラスに注がれ
あたしの前に差し出された。それを静かに口元に運ぶと、
『実は・・・・』
あたしは今朝からの一部始終を、彼女に話し始めた。
《 最終話 》
『アハハハハ・・・・ごめんなさい。でも、アハハハハ・・・・』
『やっぱり、おかしいですよね。』
『ごめん、ごめん。クスクス・・・そんな事ってあるのね。
それでまた・・・店の前で・・・クスクス・・アハハハ・・・
ごめ〜ん、だめだ!おかしい!アハハハハハ・・・・。』
『もう、いいですよ。笑って下さい(笑)』
どうやら、彼女はかなりツボにはまったらしい・・・。
カウンターの中で、二つ折りになって苦しんでる。
あたしの人生って・・・はぁ・・・・こんなんばっかり。
その時、店の電話が鳴った。午後8:00。
楽しくて感じなかったけど、ずいぶん時間が経ってたんだぁ・・。
彼女のおかげだなぁ。笑われても・・・まぁ、良しとするか。
『うん、うん、はぁ〜い、おっけ〜♪わかったよ〜。じゃ。』
親しそうなやり取りの後振り向くと、
『カゲヤマさん、あと5分くらいで着くって。』
そう彼女は言った。
そのとたん、忘れかけていた緊張が蘇り、心臓の鼓動が若干早めになった。
この店の常連っぽいし、スタジオがどうのこうの言ってたし、
いったいどんな人なんだろう。
きっと・・・髪なんか長くて、ごっつくて、皮ジャンに皮パン・・・
タトゥなんかもしてて・・・手にはジャラジャラ痛そうなアクセサリーしてて、
ハーレーかなんかに乗って登場するんだ。きっと・・・
考えれば考えるほど、あたしの頭の中のカゲヤマさんは、
得体の知れないアメリカ人のロックンローラーになっていった。
こ・・・こ・・・怖い!怖すぎる!!
『あの・・・トイレは?』
とっさに逃げる体制に入り、駆け込んだトイレの鏡の中には、
引きつった顔の情けないあたしがいた。
大丈夫!携帯さえ返してもらえば、さっさと帰るだけよ!うん。
5分後・・・自分で自分を励まし、意を決してトイレを出た。
明るいトイレの照明に目が慣れてしまっていたのか、
薄暗い店内がより一層暗く感じられた。
店にはまだ客はいなかったが、カウンターにひとつの人影があった。
カゲヤマさんだ・・・・。が、しかし・・・・
ぼんやりとしか見えないあたしの目にも、その人影は
ごついアメリカ人ではなく、ごく普通の日本人に見えた。
その瞬間、緊張がほぐれアルコールが回ってくるのがわかった。
『よっ!ごめんな、待たせて。』
『いいえ別に。彼女が相手してくれましたから。』
『別にって言う割には、なんか冷たくない?(笑)』
『そうですか?普通です、普通。はい、携帯。』
あたしは事務的な口調で話しながら、携帯をカウンターの上に置いた。
『おぉ、さんきゅう。ほな・・・はい、これ君の携帯な。』
んんん??なんじゃこりゃ?カッパ??
あたしの携帯に・・・カッパが付いてる。
『ななな、なんですかこれ!』
『見てわからんか?カッパや(爆)』
『そんら事わかってまふよ!なんれカッパが付いてるのか聞いてるんでふよ。』
あれ?ロレツがまわってない・・・。
『これは〜、記念や、記念。それより、喋り方おかしいで(爆)』
『ほっといてくらはいよ。もう、今日は朝からついてなくて
さんざんらったんだから〜。』
そう言って、少し高めのイスに腰かけようとした・・・が・・・
ドタッ!!!甘かった・・・・。着地失敗。見事墜落。
『お―――――い!(爆) 何してんねん!しゃあないなぁ・・・もう(爆)
俺、送って行くからこれ飲んどいて。』
何やら、店の彼女と会話を交わしているみたいだけど・・・
あたしの目の前はクルクルと回り、手足は完全にコントロール不能に陥っていた。
次の瞬間・・・ふわりと体が宙に浮き、温かい体温があたしの胸に広がった。
おんぶされたらしい・・・・えっ?おんぶ?だめだめ!!
『嫌ら、嫌ら!ハーレーなんかに乗せないれ〜!』
『ハーレー?なんやそれ?(笑) 車や、車。ほら、行くで。』
『カゲヤマはんに誘拐される〜。たふけて〜!お姉さ〜ん!』
『あほっ!カゲやんちゃうわ。俺や俺!(爆)』
『えっ?誰?』
あっ・・・・・この香り・・・・・。
よく聞いてみたら、この声・・・・。
カゲヤマさんじゃない・・・彼だ・・・ヒロユキさんだ。
『君、ほんまに目悪いねんな(笑) いい加減に気付けよ(笑)』
『・・・・・・・・・・・』
『どうした?急におとなしなったやん。クスッ・・ごめんな騙して。』
『・・・・あたしこそ・・・すいませんでした。
あの・・・もう大丈夫ですから、降ろして下さい。』
一気に酔いが醒めた。
恥ずかしくて顔から火が出そう・・・穴があったら入って蓋して冬眠したい。
あたしは、そんな気分でヒロユキさんの背中から降りた。
『じゃ、改めて・・・はじめましてヒロユキです(笑)』
『はじめまして・・・・ごめんなさい。』
『クスクス・・・変わった挨拶やな。心配したがな。』
『すいません・・・・』
『でもな・・・・はじめましてじゃないねん、ほんまは。』
『えっ?』
『毎朝、すれ違ってた(笑) 駅で。』
『・・・・・・・・』
『いつも見てた。いつか声掛けようと思ってた。』
彼の声が、少しマジになった。
『あの・・・・言ってることが・・・よくわからないんだけど・・・』
空気の変化に、そう言うのがやっとのあたし。
『偶然の確率って知ってる?一億分の一やで。俺なぁ、それを待っててん。
今朝、そのチャンスが来た。一億分の一がやってきたんや。』
急に彼の足が止まった。次の瞬間、あたしの肩には彼の両手が置かれ
ぼんやりかすんだ世界から、徐々に近づく彼の顔。
焦点が合ったのは、顔の前何センチだろうか・・・・。
確かに口元には、キュートなほくろがある。
そして、なにより素敵な笑顔だった。
『これで見えるか?(笑) 見えたら答え・・・聞かせてくれへん?』
だめだ・・・・また酔いが回ってきた!!
ヒロユキさん・・・あなたは・・・・
突然現れたあたしの一億分の一の恋人。
静かにそっと目を閉じた・・・それがあたしの答え。
ハードロックが微かに聴こえる、最悪な日のHappy
end♪
ふたりの手に握られたそれぞれの携帯には
カッパ君が『よかったね♪』と、笑顔でピースしながら
仲良く揺れていた。
おしまい