ACT.1
12月24日・・・・クリスマス・イブ・・・。
街に吹く冷たい風に反比例するように、恋人たちが熱い想いを抱き、
いっしょに過ごせなければ、まるでこの世の終わりのように落ち込む日・・・。
【1+1=2】
それが天国と地獄を分ける方程式だった。
それはもちろん、あたしにとっても・・・・・。
その時期、彼の仕事は多忙を極め、もう大人になってしまった恋人同士は
物分りのいい振りをして、なんでもないよ、と微笑みあうほかはなく、
彼がすまなそうにすればするほど、あたしは大人を演じてしまうのだった。
いつもの帰り道・・・。昔、一人だった頃には気にならなかった街路樹の電飾が、
彼という存在を得たあたしの心を一層淋しくさせた・・・。
そうして迎えた、何度目かのクリスマス・イブ・・・。
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その朝早く、一通のメールが届いていた。・・・・・彼からだった。
【時間が取れそうです。会わないか?
今夜11時、いつものところで待っててください。】
「・・・・・」
彼に会える・・・。わずか1時間でも、彼とクリスマス・イブを過ごせる。
それだけで、幸せだった。
さっきまでの憂鬱が嘘のように、あたしは元気になっていた。
とりあえず、家の中の用事を済ませ、買出しに行かなくっちゃ。
ずっと考えていたことがあったんだ・・・。
もし、彼とクリスマス・イブを過ごせる日がきたら、
そのときは彼のために、クリスマスケーキを作りたいって・・・・。
急いで身支度を整え、近所のスーパーへ行こうと外へでた。
ふと見上げた冬空は、この季節には珍しく青空が広がっていた♪
ACT.2
「こんなもんかな???(^^)」
小さなスポンジケーキに、雪のように真っ白な生クリームと、
イチゴを飾ったクリスマスケーキ。
決して華やかじゃないけど、彼のことを思いながら作ったケーキは
それだけで、とても愛しく思えた。
そっと箱に入れ、リボンをかけて、紙袋に収めた。
「彼に会う前に壊さないように気をつけなくちゃね(^^;)」
なにしろあたしは他に類をみないドジなのである・・・。
「そうだ、ナイフとフォークも持っていかなくっちゃ・・・。」
(・・・・・この女はそんなものもってどこへ行く気だろう(爆)・・・作者)
待ち合わせの店に着くと、11時にはもう少し余裕があった。
店に入ろうと、ドアノブに手をかけた時、
背中でエンジン音が聞こえた。振り返ると、彼がウインドウ越しに笑っていた。
「乗って。」
彼に言われるままに、助手席へ乗り込む。
彼はすぐに車を発進させた。
「どこ行くの???」
運転している彼の横顔を見つめながらあたしが聞いた。
「いいとこ♪」
彼はちらっとあたしを見て、微笑んだ。
30分程走っただろうか・・・。彼が車を左折させ終えたとき、
目の前に、無数の電飾が散りばめられた大きなゲートが現れた。
「ここは・・・・・。」
あまりにきれいな光の洪水に、言葉が続かなかった。
「そう、遊園地♪」
彼はパーキングに車を止め、エンジンを切った。
「ほら、行くぞ!」
彼に促され、車から降り、ゲートに向かって歩き出す。
彼はポケットから2枚のチケットを取り出して、係員に手渡した。
ゲートをくぐると、彼はあたしの手をつかんで歩き出した。
「こっち♪」
「え?・・・」
なんだかあっけに取られて、されるがままになっているあたし・・・。
連れて行かれたのは、観覧車乗り場だった。
「ほら、足元、気ぃつけてな・・・。」
「あ・・・うん。」
観覧車って動いてるのに乗り込むから、結構ドキドキするんだよね・・・。
って・・・え????かっ観覧車ぁぁぁぁっ???
ACT.3
「は〜ぁ、なんとか間に合った。」
彼が遊園地の時計塔を見ながらつぶやいた。
「・・・どうしてそんなに急いでたの?」
「見てたらわかるよ(^^)、ほら・・・。」
そういわれても、あたしは向かい合って座った彼の膝から
視線をはずことが出来なかった・・・。
大事に抱えた紙袋を持つ手が微かに震えだしていた。
「・・・サラ???え?もしかしておまえ・・・・?」
窓の外へ視線を促しても身動きひとつしないあたしを見て
彼も気がついたようだった・・・・・。
「もしかして、高所・・・恐怖症???」
「ん・・・・・」
やっとの思いで彼の顔まで視線を上げた。
その瞬間、彼の肩越しに小さくなっていく風景が見えてしまった。
「いやっ・・・・・」
またうつむき、硬く目を閉じる・・・。
「・・・・まいったなぁ(^^;)。知らんかった・・・」
せっかくのクリスマスイブなのに、あたしなにやってるんだろう・・・。
大好きな彼と、こんなにきれいなところに来ているのに。
あたしは覚悟を決めて、目を開けた。
彼が心配そうにあたしを見つめていた。
「大丈夫?」
「・・・なんとか・・・まだ正気(^^;)。」
「ごめん・・・サラが高いところダメだったなんて知らなかったから・・・。」
「おかしいよね、この年になって観覧車が怖いなんて・・・・」
「だれにでも苦手なものはあるって・・・・。」
「一番てっぺんってさ、フレームも何もみえなくなるじゃない?
あの瞬間が一番ダメなの・・・。下りは大丈夫だから・・・。」
今ちょうど真横に来たあたりだろうか・・・。
「・・・動ける???」
「だめ・・・。」
泣き出しそうになりながら、ひきつった笑顔で答える。
「その荷物、貸して・・・・」
彼は固まって握り締めたあたしの手から紙袋を取り上げた。
そして自分の座っていた椅子に紙袋を置くと
立ち上がり、あたしの隣へ座りなおした。
瞬間、ゴンドラが揺れた・・・・。
「いやぁっっっっ(T0T)」
「ごめん・・・・」
次の瞬間、あたしは彼の腕の中にいた。
ACT.4
「ほら、こうしてれば大丈夫だろ?」
確かに、彼に抱きすくめられて、
あたしの視界からゴンドラの外の風景は見えなくなっていた。
しかし、別の意味で死にそうだった(爆)。
耳元で、彼の鼓動が聞こえた。
「ここさ、イブの夜はオールナイトでやってるって後輩に聞いたんだ。」
「それで、12時になると、イルミネーションがものすごくて
観覧車から見るとめちゃめちゃきれいやて・・・・・。」
「それで、後輩がチケット譲ってくれたから・・・・。
おまえといっしょに見たいと思って・・・。」
「なぁ・・・聞いてる?気分はどう?」
彼の鼓動と、彼の声を黙って聞いてて、恐怖心はずいぶん薄らいでいた。
「うん・・・・聞いてる・・・・。あたしこそごめん・・・。」
「仕事終わったばかりで疲れてるのに・・・・。ごめん・・・。」
「いいさ・・・それより、もう下りに入ったからな・・・。もうすぐ降りられる。」
「本当?下りはそんなに怖くないから・・・。まだイルミネーション見える?」
彼の胸から顔を上げ、窓の外を見ようとしたとき、
再び視界をふさがれた・・・。
彼の前髪があたしの頬に触れた・・・・。
「・・・・・・!?」
「ったく・・・せっかちだな・・・。まだ下り始めたばっかやで?
見たら卒倒しかねないって・・・クククッ」
彼は笑いながら、あたしから窓の外が見えないようにずっと抱えててくれた。
結局そのまま、しばらく彼の鼓動と彼の声を聞きながら、
彼の上着のボタンを見つめていた。
「サラ、そろそろ見ても大丈夫だよ、君のアパートとおんなじ高さだから。」
うちは、1階である(−−;)・・・・。
一番下につき、そのまま、また上っていくんじゃないかという恐怖心から
慌てて飛び降りて、コケた・・・・・。
「おっと・・・・。」
彼が腕をつかんで支えてくれて、辛うじて転倒は免れた・・・・。
「大丈夫か?歩ける?」
「地面に足がついてれば、大丈夫(^^;)」
それからしばらく、二人で真夜中の遊園地で遊んだ。
ゴーカート、メリーゴーランド、コーヒーカップ。低いところにあるものばかり(笑)。
売店でホットコーヒーを買い、両手を暖めながら
イルミネーション煌めく遊歩道を並んで歩いた。
「こうして見上げるイルミネーションもきれいやな・・・」
「・・・・ごめん、上から見下ろせなくて・・・。」
「いや、俺は見たから、サラの頭越しに・・・クククッ・・・」
「・・・意地悪っ・・・(><)」
「ははは、ごめん、ごめん・・・。でもふたりで見れたら、それが最高だよな・・・。」
「そうだね・・・それだけで・・・・(幸せ・・・)」
遊歩道を抜けると、メイン広場。入口ゲートの横に出口のゲートがあった。
「ああ、一周しちゃったんだな・・・。」
「そうだね(^^)」
「そろそろ車に戻ろうか?寒いだろ?」
確かに握り締めていたホットコーヒーも冷めてしまっていた。
12月の夜風はやはり冷たすぎる・・・。
「うん・・・・」
ちょっと名残惜しかったけど、あたしたちは車に戻ることにした。
ACT.5
「ところで、これなに?」
車に戻り、エンジンが温まるのを待っているときに彼が紙袋を指差した。
「あっ・・・・・。」
そういえば観覧車で彼に預けてから、ずっと忘れていた(^^;)。
「それ、クリスマスケーキ・・・・自分で焼いてきたんだ。」
「へぇ〜、見かけに寄らず器用なんだぁ(笑)。」
またいつものイタズラっぽい笑顔で、あたしのことを覗き込む。
「悪かったわね、ケーキつくりなんか似合わなそうで!(−−)」
「うそ、うそ!なぁ、開けてもいい?」
「いいけど・・・多分さっきの観覧車で、偏っちゃったと思う・・・。」
彼は、紙袋から箱を取り出し、リボンをほどいた。
「・・・・・」
思わず息を呑むあたし・・・・。
ケーキは、多少ずれてはいたが原型を留めていた。
(よかった・・・・まだケーキに見える・・・・^^;)
「へぇ〜、きれいに出来てるね。おいしそうだ♪」
「そう・・・かな?」
誉められれば、まんざらでもない気分になる。
「たべよっか?なんかおなか空いたし。あ・・・でもフォークもなんもないか・・・」
「紙袋の中に入ってるよ、フォークとナイフ!」
「準備いいなぁ〜!」
笑いながら、
「ちょっと持ってて」
あたしがケーキの箱を受け取ると、彼は紙袋から包みを取り出した。
ハンカチに包んだ、ケーキ用の小さなナイフ・・・・。
少しの間何か考えてた彼が不意に少しだけまじめな顔をした。
「まだそっち持ってろよ・・・右手貸して・・・」
「???」
右手を差し出すと、ナイフを握らせ、その上から彼があたしの手を握った。
彼も左手でケーキの箱を支えて、あたしのことを見た。
「いい?」
ナイフが静かにケーキの中に沈んでいった・・・。
「また来年のイブもいっしょにいような・・・。その次も、その次も、ずっと・・・」
大好きな彼の微笑みが、わずかに霞んだ・・・。
「泣かないで・・・ケーキが塩辛くなる(笑)・・・な?」
「うん・・・」
彼につられて、あたしも笑った。
多分彼は、来年もその次も、その次も、仕事に追われているだろう。
だけど、おなじ空の下で、おなじクリスマス・イブが迎えられたら
それだけできっとあたしは幸せだと思う。
でも・・・もしまた、クリスマス・イブをいっしょに過ごせる日がくるのなら
それまでに、高所恐怖症を治しておこうと思う・・・・。
今度こそ、光の洪水にふたりで飛び込むために・・・・。
〜FIN〜