−全国の都市交通関係の方々におたずねします−
仙台市の「LRTは道路交通をマヒさせる」はホントですか???

(2001/10/7)





 LRTというのは、道路だけでなくて、場所によって専用線・地下線・高架線をうまく組み合わせて電車を走らせるシステムです。この点が、今までのいわゆる「路面電車」とは違うところです。(LRTについて、詳しくは本文をご参照下さい)
 建設費をなるべく抑えながら、それでいて電車を速く走らせる工夫をして便利な鉄道にできるLRTの良いところが、いま世界中で注目されています。便利にできるから、クルマからの乗り換えが進みます。それが道路の渋滞や環境悪化の解決につながっています。これは全国のみなさんがご存知の通りです。
 ところが、LRTをめぐる世界中のいまの流れと全く違うことを言っているんじゃないのかな?? と疑わせるようなパンフレットが、最近仙台市から発行されました。それをここでご紹介したいと思います。21世紀の都市交通の流れにマッチしたものかどうか、みなさんと考えていきましょう。
 それは、「地下鉄東西線についてお答えします」という、仙台市都市整備局が発行したパンフレットです(平成13年7月発行)。このパンフレットは、「Q&A」方式で「リニア地下鉄東西線」に関する疑問に答えているというものです。
 この中で、「LRTはなぜ東西線に採用されないのですか?」というコーナーがあります。それに対して
「仮に東西線を路上に建設した場合は、電車と自動車が互いに交通を遮断し、道路交通が麻痺することが特に懸念されます」
※文字強調は著者
と答えています。世界中の実例からして、本当にそうなのでしょうか?
 LRTというのは、先にお話ししたとおり「道路だけでなくて、場所によって専用線・地下線・高架線をうまく組み合わせ」ます。それに、便利にすることで、1人あたりもっとも道路のスペースを取ってしまうクルマからの乗り換えが進みます。それで渋滞が改善されるのです。
 仮に仙台市のこの言い分が正しいとしましょう。だとしますと、LRTを導入した世界中の都市では今ごろどうなっているでしょう?国内でも、広島や長崎など、道路を走る割合の多い市街電車がある都市ではどうでしょうか?
 「電車と自動車が互いに交通を遮断し、道路交通が麻痺」していることになります。国内でも海外でも。でも実際はどうでしょうか?それはみなさんがご存知の通り、そんなことにはなっていないでしょう。
 だいたい、「道路交通をマヒさせる」ものを、合理性を重く見る欧米の都市がこぞって導入するでしょうか?仙台市の言い分とは逆に、都市の中での道路交通を改善する効果が大きいからこそ、LRTが注目されているのです。広島や長崎などでも、市街電車が大切にされるのです。
 このパンフレットで仙台市は、LRTについて、私が知る限り勉強した全国・世界中の見方と全く違うことを他にも話しています。ただの「解釈や見解の違い」といったものでかたづけられるものでしょうか?これも見ていきましょう。
 本文でお話ししているとおり、地下鉄にするかLRTにするか、それともバスを整備するかを決めるのに大事な基準はなんでしょうか?みなさんご存知の通り「輸送力」で決めますね。どれだけの輸送力がもっとも良く見合うかで、どれにするかを決めるわけです。
 仙台の東西線の場合、必要な輸送力は仙台市によると「開業時は1時間あたり9千人。将来は最大で1万5千人/時」なのだそうです。「1時間あたり9千人」の最低ラインをクリアするのでさえ、『平成22年の「東西線」沿線の人口が平成4年のときよりも約6万人増える』という仙台市の予測が当たらなければムリです。ところが、平成4年から平成11年ではわずか3800人しか増えませんでした※。
※読売新聞H12.2.10記事より
 8年もかけて3800人しか増えなかったのに、残りの10年で5万6千人も増やすのいうのは、至難のワザでしょう。しかも仙台市全体の人口は、平成13年に入ってから減っている傾向がある※というオマケもあります。
※平成12年8月1日推計人口は100万6,880人(仙台市による)だが、平成13年3月現在の人口は981,398人(平成13年3月現在の人口:「週刊東洋経済」2001.9.29号より)
 仙台市のいう必要な輸送力の値も疑問ですが、「高々1万人/時」程度の需要で「リニア地下鉄がベスト」というのも疑問です。旧建設省のパンフレットには「(LRTの)輸送力は5千〜1万5千人/時」とあります※し、実際にその程度の輸送力は海外で実現されています。
※旧建設省パンフレット「路面電車の活用に向けて」平成10年1月発行。同資料では、LRTを「路面電車」と記載
 一方、リニア地下鉄の輸送力は2〜4万人/時です※。地下鉄というのは、都市の地下にトンネルを掘るわけですから、地上に線路をひくより多くの建設費が必要です。ですから、何万人/時というたくさんの需要がなければ、地下鉄は割に合いません。
※新谷 洋二「まちづくりとLRT」都市地下空間活用研究1998年4月号より
 仙台市が必要な輸送力ならば、旧建設省の言うことに従ったらLRTが最適ということになります。これは単に「電車を地上にひくか地下にひくか」の問題ではありません。
 市の借金に当たる「市債残高」が約6642億円※にもなる仙台市にとって、この事業による負担は大きな問題なのです。なるべく負担を軽くして、投資に対する効果を最大にしなければなりません。ですから、建設コストが割高な(リニア)地下鉄を「ベスト」とは言えないのです。
※平成12年度決算。前年比2.3%増。参考までに、同年の市の歳入は約4187億円。(以上データ:河北新報H13.8.28記事より)
 仙台市以外の全国的な各資料からは、「輸送力が数千人〜1万数千人/時程度ならLRTが最適。リニア地下鉄でも数万人/時の需要がなければ割に合わない」と言うことができ、これが一般的な認識だと言えます。ところが、仙台市のこのパンフレットを見ると、「一般的な認識」とはだいぶ違うことが述べられています。下の図を見てみましょう。

(a)

(b)

(c)
(写真(a)〜(c))仙台市発行のパンフレット「地下鉄東西線についてお答えします」より

(d)

(e)
写真(d):旧建設省パンフレット「路面電車の活用に向けて」(平成10年1月発行)より。同資料では、LRTを「路面電車」と記載
写真(e):箱根登山鉄道 佐藤茂氏(仙台高速市電研究会)のご厚意により掲載

 (写真(a)〜(c))仙台市発行のパンフレット「地下鉄東西線についてお答えします」の内容の一部。LRTについて、現在の全国・世界的な導入の流れと逆行するのではないか、と疑わせる説明がなされている。

 LRTは、今や世界の先進国の都市に普及しており、我が国でも全国的にも導入の動きがある。それは、現在の自動車中心の交通体系が起こす問題を「大幅に解決できるツール」として認識が広がっているからである。

 それに対し仙台市は、LRTを東西線に導入不可能な理由として「電車と自動車が互いに交通を遮断し、道路交通の麻痺が懸念されるため」としている(写真(a))。これが事実なら、世界中のLRT・市街電車を導入している都市は今ごろどうなっているか?少し考えれば、この主張の真偽がお判りになると思う。

 また仙台市は、LRTの輸送力について、旧建設省が公表している数値(写真(d))よりかなり矮小化していると窺わせる説明を、図(写真(b))にて行っている。仙台市の同図では、リニア地下鉄の輸送力が東西線に最適でLRTが不適であるかのような記載がなされている。旧建設省が公表しているLRTの輸送力と矛盾しているのがお解りいただけよう。旧建設省の広報を否定できるだけの根拠は何か?

 全国的な各種資料からは「輸送力が数千人〜1万数千人/時程度ならLRTが最適。(リニア)地下鉄は数万人/時の需要がなければ割に合わない」と結論できる。少なくても、建設費が割高な(リニア)地下鉄を「1万人/時程度の需要ならベスト」とは言えない。仙台市の人口増加が当初予測より鈍くなっていることから、「東西線では1万人/時の需要」も怪しい。輸送力は最適機種を決定するのに最も重要な項目である。仙台市のこの広報を見た市民は、「輸送力の面から、東西線にはリニア地下鉄が最適でLRTは不可能」と誤解する恐れが充分に考えられる。

 さらに仙台市は、「LRTは長い急勾配を登れない」ことも東西線への導入が不可能な理由としている(写真(a))。しかしながら、神奈川県にある「箱根登山鉄道」(写真(e))をはじめ、LRTと同じ走行メカニズムを持つ普通鉄道においては、長い急勾配を安全に昇降する長期の実績がある。それに対し、特殊な走行メカニズムを持つリニア地下鉄の急勾配に於ける安全性は、未知数である。リニアモータ式の鉄道が長区間の勾配を昇降する実例は、世界的にも無いからである。

 21世紀になってもなお、機種選定の重要な点で、市民に誤解を与える恐れが極めて高い情報が仙台市の名において流布されているのが現状と言える(写真(c)、画像は一部加工)。全国とのこのギャップは、単に「見識・見解の違い」で済まされるものだろうか?

 仙台市のこの広報(上写真(a)・(b))は、LRTの実績・全国的な資料と照らし合わせると、根本的な点で矛盾があると言わざるを得ない。これは仙台という限られた土地で起こされていることではある。しかし、我が国でも自動車中心の交通体系の問題が注目されるようになり、その解決手段としてLRTというシステムが注目されてきている。LRTを普及させようと日々努力されている方々は、行政機関・都市交通学界においても全国的に増加している。

 仙台市のこの広報は、それら大勢の方々の努力や今後の活動に大きく水を差す可能性はないだろうか?心配されるところである。その意味で、仙台市のこの問題は全国的な問題を含むものと言えないだろうか?

 平成13年10月24日〜28日、熊本で「路面電車サミット」が開催される。これは、単なる「路面電車趣味」の集まりではない。国土交通省をはじめ全国の都市交通関係の方々が集まり、都市におけるLRT・市街電車のあり方や活用法を真剣に討議する立派な「学会」である。

 願いが叶うならば、私は仙台におけるこの問題を「路面電車サミット」で訴えたいところである。国土交通省の方々や全国の都市交通関係の方々に、仙台における現状の妥当性を問いたいところである。しかし、残念ながらできない。そこで、このサイトを通して世に問いたい。

 LRTに対する正しい認識が全国に確実に広がるようにするためにも・・・・・・

 いかがでしょうか。パンフレットの内容をご覧になると、全国・世界的なLRTの認識・実績とだいぶ違うことを述べているのがお解りかと思います。大事な項目である輸送力からして、「1万人/時程度ではリニア地下鉄が最適」というデータは、私の知る限り、仙台市の広報以外ではお目にかかったことがありません。
 輸送力やLRTの道路交通に対する効果、これらを市民に正しく理解してもらうことが、市民に正しい選択をするのに欠かせないはずです。正しい選択ができなければ、間違った方向に事が転がってしまう恐れも少なくありません。
 「LRTは長くて急な坂を上れない」ことも東西線に導入できない理由に挙げています。しかし実際はどうでしょうか。神奈川県にある「箱根登山鉄道」は、LRTや市街電車と同じように、普通のレールを持っています。でも、長くて急な坂を安全に登り降りしています。世界中のLRTも同じです。
 それに対して、リニアモータ式の鉄道が長い坂を登り降りしている実績は、世界的にもないのが実状です。長い間に渡ってリニア地下鉄が安全に坂を登り降りできるのか、実績がないので誰にも判らないのです。
 輸送力やLRTの道路交通に対する効果、それに坂の登り降りの性能。仙台市は、21世紀に入ってもなお、全国・世界的なLRTの認識・実績と全く違う内容を市民に流していることになります。仙台市のこの広報は、LRTの実績・全国的な資料と照らし合わせると、根本的なところで矛盾があると言わざるを得ません。
 このギャップは、単に「見識・見解の違い」で納得できるものでしょうか?
 確かに、これは仙台という限られた土地での出来事ではあります。でも、仙台のローカル問題として片づけてしまっていいのでしょうか?
 我が国でもクルマ中心の交通の問題がクローズアップされるようになり、それを解決するためにLRTというシステムが注目されています。LRTを普及させようと日々努力されている方々は、国をはじめ各行政機関や都市交通の学界においても全国的に増えています。
 仙台市のこのパンフレットは、それら大勢の方々の努力やこれからの活動に大きく水を差してしまうことにはならないでしょうか?たいへん心配です。そう考えますと、仙台市のこの問題は全国的な問題でもある、とは言えないでしょうか?
 平成13年10月24日〜28日、熊本で「路面電車サミット」が開かれます。まもなくです。このサミットは、ただの「路面電車趣味」の集まりではありません。国土交通省をはじめ全国の都市交通関係の方々が集まり、LRTや市街電車をどうやって活かしていくかを真剣に話し合う立派な「学会」です。
 本当でしたら、もし願いが叶うならば、私は仙台におけるこの問題を「路面電車サミット」で訴えたいところです。一市民の素朴な意見として。国土交通省の方々や全国の都市交通関係の方々に、「今の仙台ではこんなことがなされています。全国の流れと照らし合わせて、これで良いのですか・・・・・・」と。
 でも、残念ながらそれはできません。私がいまここでできることは、このサイトを通して全国のみなさんに訴えることです。今までお話ししてきたことを。この訴えがきっかけで、全国のみなさんがこの問題に注目して下さって
 「どうすれば、正しい情報・知識を広めて正しい判断を全国で行えるようになるか」を考えるきっかけになれば、と思います。LRTに対する関心が全国的に広がっていますが、LRTを正しく理解してもらうには正しい情報が欠かせません。
 そんな中、仙台市で行われているこの広報は、いかがなものでしょうか?ただの一市民ながら、素朴な疑問に思います。
お知らせ:現在、本文を一部書き換える作業を行っております。完成・更新には時間がかかると思います。本当に申しわけございません。お待ち下さい。