仙台市長さんへの質問文(1)



 仙台市「まちづくり提案制度」に則り、「仙台東西線」計画に関する質問等を平成11年9月1日に仙台市長さん宛にお送りいたしました。以下に本文を掲載します。
******** 本文 ********
仙台市長 藤井 黎 様

前略

 現在我が市では「東西線」計画が進行しており、市側からは同計画に関する情報として、ルート案や想定機種・建設費・収支計画等が公表されていますが、一納税者・一利用者そして海外の公共交通整備の動向を多少なりとも存じている者の立場からは、これら情報の他にも詳細な情報が公開されて公に議論されるべき事項があると考えており、現計画に対する疑問も少なからずあります。「東西線」が大多数の利用者に支持され、後世の批評に耐えうる交通機関に仕立て上げるためにも、当計画に関してさらに多くの事項が公に公開され、それぞれの事項において検討・議論される必要があると思います。当計画に関して現在小生が抱いております以下の疑問・質問につきまして、以下の通り申し上げます。

 まず、建設費の問題について質問申し上げます。現在、「東西線」計画担当部署である都市整備局総合交通政策部東西線推進室(以下「推進室」と略)は、想定機種をリニアモータ推進式地下鉄道(以下「リニア地下鉄」と略)としての総工費は2710億円、路線1kmあたりの建設費を約190億円と公表しております。ところが、同じリニア地下鉄である東京都営12号線環状部や神戸市営海岸線の建設費はそれぞれ約340億円/km(※1)、約300億円/km(※2)と、従来型地下鉄と実質上差がないほど上昇している前例があり、それら価格を「東西線」計画に当てはめると、それぞれ約4760億円、約4200億円となりいずれにしても現在の公表価格と大差が生じています。
(※1)毎日新聞平成11年5月30日記事の掲載データより算出
(※2)社団法人日本地下鉄協会「平成10年度地下鉄事業計画概要」データより算出

 当「東西線」計画においても、既に平成8年度価格の2410億円より上昇しており、そして仙台駅以東には地盤の軟弱性が指摘されている地域があり、さらにリニア地下鉄の建設費の高騰も前例が有るにも拘わらず、現在の公表価格・2710億円で完成できるというのはいかなる根拠によるのでしょうか。「リニア地下鉄の前例」との大きな価格差は、果たして地域差だけで説明できるのでしょうか。

 次に、現在のルート案についてお伺い致したいと存じます。現在市によって公開されているルート案は、仙台駅東側の卸町地域では人口密度の低い地域をわざわざ通過させており、仙石線の乗客が延長線である青葉通り沿線に行くのに仙台駅で遠距離移動を伴う乗り換えを強いており、さらに、仙台駅西側の東北大学や八木山地域でも地形の関係で駅まで歩いて利用できる人は極めて限られ、バスで結節するにも駅で遠距離移動を伴う乗り換えを強いていることから、大多数の利用者にとって利便性は極めて低いと考えられ、実際に現ルート案については利便性の面で多数の疑問が指摘されています。それにも拘わらず市側は、現ルート案を採算上最善として変更の考えはないという見解を示しておりますが、問題点が多く指摘されている現ルート案を採算上最善と見解しているのはいかなる根拠によるものか、是非御回答頂きたいと存じます。

 次に、現在想定されている運賃についてお伺い致したいと存じます。現在収支計画が公表されていますが、収支計画が立てられるためには、当然予想収入・想定運賃が設定されているはずです。もし運賃が割高な設定になっていれば、「東西線」が設備的にいかに優れていても利用者の支持は得られなくなってしまいます。仙台市の都市計画の「目玉商品」と言えるこの計画で、利用者が支払う運賃という最も基本的で利用者の関心が高い情報すら開示されておらずその運賃額の妥当性が市民に問い掛けられていないのはなぜでしょうか。 運賃に関する具体的データを是非御回答頂きたいと存じます。

 次に想定機種について質問申し上げます。現在、推進室は想定機種としてリニア地下鉄を挙げており、LRT(ライトレールトランジット・地下鉄等に準じた高速性能を持つ街路鉄軌道システム)を輸送力・登坂性能の不足を主な理由として不適とする見解を示しております。「東西線」計画において、リニア地下鉄は「実際の利用者」そして「納税者」にとって最も有利な機種となり得るのか、LRTが最適とするデータが少なくないにも拘わらずLRTを不適として切り捨てたままでよいのか、大いに疑問があります。

 リニア地下鉄などの地下鉄道は、建設費がLRTに比べて極めて高額(LRTの路上軌道の建設費は諸外国実績で10〜30億円/kmと格安)である割に、利用者に駅構内の昇降移動による身体的負担・移動時間を強いてしまう大きな欠点があります。駅構内の昇降移動による身体的負担は、特に身体障害者や高齢者にとっては例えエレベータ等を使用したとしても極めて重く、地下鉄道はこれからの高齢化社会のなかでモビリティ向上の主役になり得るか疑問であります。さらにリニア地下鉄は、従来鉄道と推進方式が違うためにJR線等と相互運行ができず、将来仙石線の西側への路線延長の需要が生じた場合に障害となり、将来の路線網発展の阻害すら懸念されます。そんな欠点を持つリニア地下鉄の特長は、最大輸送力が2〜4万人/時(※3)と大きいことで、つまりリニア地下鉄の導入が正当であるためにはそれだけの需要が見込まれることが最低限必須である、ということです。
(※3)新谷 洋二「まちづくりとLRT」都市地下空間活用研究1998年4月号より

 しかし、地下鉄ほどの需要が見込まれる明らかなデータは認められず、それどころか、平成11年7月17日に行われた市民団体「仙台高速市電研究会」主催の定例会(以下「定例会」と略)の中において、高橋秀道・仙台市都市整備局総合交通政策部長は「東西線では最大需要は1万人/時」旨のデータを示しておりました。これだけの需要ならばLRTで充分対処でき、海外でも多数の事例があります。(LRTの輸送力は5千人〜1万5千人/時(※4))
(※4)建設省発行パンフレット「路面電車の活用に向けて」(平成10年1月発行)内のデータ

 さらに、「東西線」の現在のルート案における最急勾配は、定例会内で高橋氏が示されたデータによると60/1000 (1000m進んで60m登るだけの勾配)です。LRTの登坂能力は、諸外国では80〜110/1000ほどの急勾配の登坂が技術的に可能で、国内法規においても最大で67/1000の勾配まで認めております。つまり、LRTにおいても充分に対処しうるということで、輸送力・登坂性能をもってLRT導入を否定するだけの根拠は認められません。それにも拘わらず、輸送力・登坂性能をもってLRT導入を不適というのはいかなる根拠によるのでしょうか。

 推進室は、LRTを不適とする理由として、他に速達性・定時性の問題、自動車交通との競合、それによる市民同意の不形成を挙げておりますが、それらの指摘はLRTの性能を過小評価しており、かつ、行政が自動車交通に対して公共交通機関をどう位置づけた上で計画を進めようとしているのか疑問符を付けざるを得ません。以下に質問申し上げます。

 まず、速達性・定時性をもってLRTを不適とする点についての疑問点について申し上げます。確かに、現行法では路上軌道における車両の最高速度は40km/時、平均速度(出発点から目的点までの距離を純粋に所要時間で除した速度値)の最高値は30km/時と規制がありますが、これらをもってLRTが速度不足と結論づけられるでしょうか? 現在の地下鉄南北線の平均速度は30km/時強であり、リニア地下鉄想定下における東西線の平均速度は、市広報による所要時間と推定される距離から30km/時付近と考えられます。つまり、地下鉄にしたからといって平均速度が路上軌道の最高値より著しく速くなっていないのです。むしろ地下鉄の場合、駅構内における移動時間も考え合わせなければならないので所要時間の点で路上軌道より不利であると言え、さらに現ルート案ではクランク状の急カーブが多いために、地下鉄であるにもかかわらず高速性が確保できないと考えられますがいかがでしょうか。

LRTの場合、交差点における優先信号などにより平均速度の向上が期待でき、現に諸外国ではLRTが地下鉄並みの平均速度を実現している例(米国ロサンジェルスなど)や、普通鉄道に近い定時性を確保している例(ドイツ国カールスルーエ)もあります。工夫次第でLRTが地下鉄に劣らない所要時間が実現できる実例があるにもかかわらず、以上の点を勘案・研究することなくLRTの速達性・定時性を云々することには甚だ疑問を抱いておりますが、この点についてはどのようにお考えでしょうか。

次に公共交通と自動車交通の位置づけに関し質問申し上げます。

現在の仙台市における交通問題の根本は、有限である道路・駐車設備空間を過剰数の自動車に事実上自由に浪費させている点にあり、この点にメスが入らない限りは現在の交通問題の改善はあり得ません。一方地下鉄は、その構造上道路空間を自動車に従来通り自由に使わせる形態となっており、自動車に道路・駐車設備空間を自由に浪費させている現状に手を下していない交通機関と言えます。従って、地下鉄ほどの需要が見込めない中での地下鉄導入は、自動車交通問題の改善手段としての公共交通整備の方向性として誤りである、と言えると思いますがいかがでしょうか。
諸外国のLRTは、道路と同一平面上にあることによる乗降の容易性、軌道占有・交差点での優先信号等による速達性・定時性、低建設費・低維持費による低運賃の実現等で集客力を上げて利用を促進させることにより、過剰の自動車交通の軽減・道路空間の有効利用に成功している例が多く、さらに、多くの高齢者・身体障害者のモビリティ向上にも寄与しています。

 世間ではしばしば、LRT等路上軌道の自動車交通との競合を問題視したり、軌道敷設を広幅員道路に限定している法的規制のためにLRT導入は困難という旨の発言が聞かれます。しかし、LRT等路上軌道の自動車交通との競合を問題視する発言は、以上に挙げたLRTの特長・実例そして現在の自動車交通優位思想の矛盾を把握・理解していない現れであると思います。また、敷設道路幅の規制に関しては、俗に言われている「27m幅道路説」は法的根拠が無く、むしろ、付帯規則である「軌道建設規程」第八・九条条文からは、10m程の比較的狭い道路でも敷設可能旨の解釈ができ、実際に10m程の道路に軌道が敷設されている例もあります(広島電鉄市内線など)。軌道敷設が広幅員道路に限定されているというのは法的根拠がありません。

 推進室の「LRT導入は不可能」旨の見解を聞くに付け、市側はLRTの特性・諸外国における実例をどれだけ調査・把握しているのか、公共交通を自動車交通に対してどのように位置付けようとしているのか、甚だ疑問に思います。それに市側からは、友好姉妹都市である米国ダラス市など諸外国におけるLRTの実例を踏まえ、その特長や我が市に導入した場合の効果を啓蒙した上でLRT導入の是非が市民に問い掛けられたことが、今まで全くと言えるほどありません。東西線など仙台市ではこれ以上の地下鉄は不要であることを指摘し、諸外国でLRTが活躍している旨を紹介している地元学者の発言が以前よりあった(※5)にもかかわらず、LRTの有用性・自動車交通に道路空間を自由に浪費させている現状の矛盾点・そして公共交通を自動車交通に対して優位性を持たせる施策の有用性や必要性の啓蒙がなぜ現在までほとんどなされてこなかったのか、市長御自身におかれましては公共交通を自動車交通に対して今後どのように位置付けるべきとお考えで、公共交通を自動車交通に対して優位性を持たせる手段の一つとしてのLRT整備についてはどのようにお考えなのか、是非お訊きしたいと存じます。
(※5)福田 正・東北大学工学部教授(当時):平成4年7月14日河北新報「ゆとり持った都市計画を」記事

 当「東西線」計画については、情報公開の面からみてもその取り組みに不充分な面を感じざるを得ない面があります。

今まで、仙台市主催の「21世紀のまちを育む東西線シンポジウム」は、平成10年11月24日と平成11年7月10日に、合計2回行われました。いずれも「はじめに地下鉄ありき」旨の論調が主流を占め、特に第2回シンポジウムでは、具体的かつ合理的な根拠もなく「東西線にLRT導入は不可能」旨の発言がありました。LRTを導入不可能と発言するには、各種データを全て公開した上で導入不可能とする根拠を具体的かつ合理的に説明するのが行政として正当な態度と思われますが、この「説明無き門前払い」と言える発言を聞くと、当計画に関する情報公開の重要性について市側はどれだけ重みを持って考えているのか、大いに疑問があります。

ちなみに、市内では『「路面電車」と聞いて思いつくのは「旧仙台市電」が78%』(※6)というアンケート結果があります。現在、国内外でLRTの利便性・有用性が認識されている中で、我が市でのLRTに対する認識の低さを示すこのデータは、市側からのLRTに関する情報公開・広報の不足の一端を示すものではないでしょうか。近年は国内においてもLRTの有用性が認識されつつあり、特に運輸省・建設省はLRT等路上軌道について前向きに捉えている動向があるにも拘わらず、LRTに対する正しい知識・認識が未だもって普及していないと言える我が市の現状を、市長におかれましてはどのようにお思いでしょうか。
(※6)大内秀明・東北科学技術短大教授ら調査結果:読売新聞(平成10年3月16日)記事

 また定例会の中で、高橋氏に対して、現ルート案の根拠、想定運賃、同じリニア地下鉄である都営12号線との建設コストとの大きな格差、そして利用客数や建設費が予想に反した場合の採算性や財政への負担、という「利用者」「納税者」に知らせるべき基本的質問も出たのですが、いずれの問に対しても明快な回答はありませんでした。推進室側のこれら行動を見ると、情報公開、市民との議論・対話についてどれほど重要視しているのか、同室編集のパンフレット「21世紀のまちを育む仙台市東西線」内に記載されている「市民との『協働』により進めます」という決意を達成する意欲がどれだけあるのか疑問であり、今までの広報を見聞したことから、推進室・都市整備局に対して情報公開を求めてもどれだけ叶えられるのか疑念を抱かざるを得ません。つきましては、市行政の最高責任者である市長御自身に対して以上事項について質問申し上げます。

 「東西線」計画では、需要の面から見てリニア地下鉄ほどの交通機関を導入する意義はなく、むしろ**氏から公表された需要・最大斜度、さらに「実際の利用者」にとっての利便性から判断するとLRTが最適と考えられ、諸外国実績も踏まえての導入・利便性向上の研究や市民への啓蒙が急がれるべきであり、現ルート案も大多数の利用者にとって利便性が極めて低いと考えられるため、抜本的に見直す必要があると思われます。また、LRT導入を自動車交通との競合を理由に否定することは、有限である道路空間を過剰の自動車に浪費させている現状の矛盾点・LRTがその矛盾点を改善せしめる機序・その結果としてのLRTの特長を充分考慮に入れていないことの現れであり、交通行政においてはこれらの点も考慮に入れた上で計画を進めることが市民の先頭に立つ行政として採るべき姿勢と思われますが、市長御自身におかれましてはいかがお考えでしょうか。

 さらに、当計画に関する情報公開はまだまだ進んでいないと言わざるを得ず、「利用者」「納税者」に知らせるべき基本的事項に関する質問に対する回答もほとんどないという現状は、甚だ理解しがたいものがあります。

 もし「東西線」計画が現案のまま実行され、現在の危機的な市財政の中で建設費が予想よりさらにかさみ、それ故高運賃となり乗降・ルートの不便性と相まって利用が落ち込んで収支が悪化し、建設費上昇・収支悪化により市財政が壊滅的状況に陥った上に効果が薄いという結果になって後世から痛烈な批評を浴びることになったとすれば、その責任はだれに帰するのでしょうか。このような「最悪のシナリオ」になる前に、公開・検討・議論されるべき事項が多数あると思います。小生が素人目で見ただけでも、当「仙台東西線」計画に関して以上にお話しした疑問点が指摘できます。以上質問・疑問に対し、市行政の最高責任者である市長御自身におかれましては明快で納得のいく御回答を是非とも宜しくお願い申し上げます。

 なお、以上質問の内容は、本来は公にされ、さらに、LRTの利便性・有用性について広報された上でLRT導入の是非が市民に問い掛けられるべきであると思います。小生は現在、都市交通において自動車交通を中心に据えて考えることの矛盾、LRTの有用性・「東西線」に「リニア地下鉄」を導入した場合の問題点等を綴ったインターネットホームページ「まちをこわすクルマ『中心』社会、まちをつくるLRT」を運営しており、この質問文も公開しています。よろしければ当ホームページもご覧下さればと思います。
ホームページのアドレスは http://www.ic-net.or.jp/home/takaiken/ です。宜しくお願い申し上げます。

草々

高井 憲司