「リニア地下鉄東西線」は「つみ木の家」??





 今までのお話から、世間では建設費が安いと言われている「リニア地下鉄」でさえ、建設費が1kmあたり300億円を超えて普通の地下鉄と変わらないくらい高くなってしまっている前例があり、そんな中「台所事情」の悪い仙台市で「リニア地下鉄」を造ったらどうなるか、はみなさんご想像できると思います。
 現在、この「東西線」計画を担当している仙台市都市整備局総合交通政策部東西線推進室(以下「市」「推進室」等と略)という部署では、「リニア地下鉄」を想定して建設費などを計算しています。
 多額の費用のかかるこの「東西線」計画ですが、市側は「採算の面でも問題ない」と主張しています。そうかぁ、大きなお金がかかるからきちんとモトがとれるかどうか心配だったんだが、実は大丈夫なのかぁ・・・
 などと安心するのはまだ早いです。市側のこの「採算も大丈夫」という主張に対し、最近になって「『リニア地下鉄東西線』はとても採算に合わない計画だ」という報告書を出している「市民の声」もありますので、それを紹介しましょう。
 それは仙台高速市電研究会(以下「高研」等と略)という市民団体で、私もこの研究会主催の定例会に勉強に行ったりします。定例会は奇数月の第3土曜日を基準に行っていますので、仙台の交通問題に関心のある方はどなたでもどうぞ・・・
 と、話はそれましたが、この研究会は平成11年9月に、「仙台市東西交通軸 リニアモータ式地下鉄に関する問題」というタイトルの報告書を公表しており、それには、「『リニア地下鉄東西線』はいかにソロバンが合わない計画か」ということが綴られています。
 現在、市側は、「お客様」にとって一番気になる利用運賃すら公表していません。ですから、運賃など分からない事項については、現在の地下鉄南北線のデータを基に計算している、とのことです。それを見てみますと・・・
 市側の発表によりますと、「東西線」の1日の利用者数は13万2千人とのことです。「高研」の報告書によりますと、現在の南北線の運賃で計算すると・・・
例え利用者数が予想通りでも採算がとれない
と報告しています。つまり、市側が「採算がとれる」と主張しているということは、運賃を現在の南北線よりも割高に設定している可能性が極めて高いということです。ということは・・・
「リニア地下鉄東西線」開業後は「南北線」も値上げ
 することも想定しているのではないか、と考えられます。現在の南北線の運賃は、利用者からすると安い感じはしません(初乗り3kmまで大人200円、以下3km毎に240円、290円、320円、350円)。実際、この「運賃の高さ」対する不満の声も少なくありません。
 こんな中、新しい路線が出来たからといって、従来の南北線の運賃まで値上げになってしまったとしたら、みなさんどうでしょう? こうなったら、「クルマから乗り換えてでも使いたい」と思うでしょうか?
 むしろ、値上げによって利用者は減ってしまい、その分クルマの利用が増えて道路はクルマであふれ返ってしまう、なんてことになったら、何のための「東西線」計画なのか分からなくなってしまいます。もちろん、「リニア地下鉄東西線」を造った借金だけはきちんと残りますのでお忘れなく・・・
 地下鉄仙台市営南北線。
 「高研」報告書によると、現在の南北線の運賃設定で「リニア地下鉄東西線」の採算性を計算すると、1日の利用者数が市側発表の13万2千人としても採算がとれないという。

 つまり、市側が「採算は大丈夫」と主張しているということは、運賃設定を現在の南北線より割高にして計算している可能性が極めて強いと考えられる。

 もしそうならば、「リニア地下鉄東西線」開業後は、今の段階でさえ割安感のない「南北線運賃」も値上げに・・・ ということも考えられる。こうなれば利用者数減少の可能性は避けられず、何のための鉄軌道建設なのか分からなくなってしまう恐れも充分に考えられる。

 「情報公開」は、「東西線」計画の成功のためには決して欠かせないだろう。

 さらに「高研」報告書は、つぎのうちのどれかひとつが起こっただけでも「リニア地下鉄東西線」は採算がとれなくなってしまうと試算公表しており、「『リニア地下鉄東西線』計画は予想しうるリスクに対する弾力性が極めて乏しい計画である」と結論づけています。 」
     
  1. 建設費が予定より5%上昇した場合  
  2. 一日あたりの需要が予測の9割に留まった場合  
  3. 建設費の財源の一つである企業債(つまり借入金)の金利が現在の2.1%から3%に上昇した場合
 これら3つの話は、建設費1日あたりの需要建設費の借金の金利、この中のどれかひとつが予想よりちょっと悪くなっただけで「事業」として成り立たなくなる、ということです。これは穏やかな話ではありません。どういうことなのか、もう少し詳しく見ていきましょう。
 まず(1)について見ていきましょう。これは、建設費が、予想価格2710億円の5%・約135億円上昇しただけで「事業」として成り立たなくなる、ということを意味しています。このことは本当に起こり得ないのでしょうか?
 先にお話しした、同じ「リニア地下鉄」である「都営12号線」は、はじめの予想建設費は約6800億円でした。ところが、現在は約9800億円と、3000億円も上昇してしまっています※。上昇率でいうと、約44%にもなります。
※毎日新聞平成11年5月30日記事の掲載データより
 「仙台東西線」の場合は、上昇率はここまで上がるかどうか分かりません。私は仙台市「まちづくり制度」に則って市長さん宛に「リニア地下鉄想定下の『東西線』の建設費を『2710億円』」としている根拠を質問しましたが、市側はその答えとして・・・
「地下鉄南北線や他都市の事業費実績などを参考に平成8年度価格で試算した2410億円をベースとし、さらに現在想定している工事期間に対応した物価上昇率等を加味した」
 としています。仙台地下鉄南北線は昭和62年に開業しましたが、その時の建設価格は約176億円/kmと、最近の相場より大分安めでした。
 ところが、その後の地下鉄の建設費の実例を見ると、年がたつごとに上昇している傾向があり、最近では、「都営12号線」や「神戸市営海岸線」のように、300〜340億円/kmベースにまで膨れ上がっているケースすらあります。
 それにもかかわらず、建設費が最近の相場よりも大分安かった時期の価格を基準にして現在の建設費を見積もっているのは、はたして正しいのでしょうか?
 建設費が最近の相場よりも大分安かった時期の価格を基準にしているとしたら、いざ工事が始まったら、建設費の上昇が5%で済むなんてとても思えません。そうなったら・・・
 つぎに(2)について見ていきましょう。1日の乗客数が予想よりちょっと下がっただけで「事業」として成り立たなくなる、ということを意味しています。これはどうでしょうか?
 前の項でお話ししたとおり、現在の「仙台地下鉄南北線」は、昭和62年の開業時、1日の予想乗客数は約22万人としていました。ところが、現状はどうでしょう? おさらいしてみましょう。
 開業のはじめの年は、1日あたり約11万人と、予想の約半分でした。「1割減」などというレベルではありません。現在は、開業して12年たつのですが、未だもってこの数字は達成されていません。しかも、ここ数年は乗客数の伸びは足踏み状態なのです。
 仙台市ではすでにこのような前例がありますから、「リニア地下鉄東西線」の乗客数が予想通りになるのか、非常に疑わしいと思います。むしろ、(2)のような「悪い予想」より更に悪い結果が出る恐れが高いのではないでしょうか?
 市側は、「公表ルートの1日あたりの輸送需要は、沿線開発などにより13万2千人が見込まれており・・・」※と主張していますが、雇用情勢の変化などで住宅のような「一生もの」の商品に手が出にくくなり、少子化による人口減少の危険性も問題となっている今の世の中、市側の考え方が以前のようにうまく行くかどうか、はてはて・・・
※谷沢晋・仙台市都市整備局長の発言:河北新報H11.9.10記事より
 最後に(3)について見ていきましょう。これは、建設費の借金が少し上がっただけでもやはり「事業」として成り立たなくなってしまう、ということです。これはどうでしょうか?
 先にお話ししたとおり、「東西線」の建設費2710億円のうち、880億円は借金でまかなっています。このお金は、借りたお金ですからきちんと返さなければいけません。
 お金を借りるときには、もちろん「タダ」というわけにはいきません。返すお金にはきちんと利息を付けなければいけません。
 「高研」報告書によると、建設費の借金(企業債)の現在の金利は2.1%ということです。つまり、「リニア地下鉄東西線」が「事業」として成り立つためにはこの金利は少しでも上がってはいけない、ということになります。
 今の世の中は、異常と言えるほど金利が安い、ということは言うまでもないでしょう。ご自分の預貯金通帳をご覧になると、預貯金金利の安さに不満をお持ちの方は決して少なくないと思います。
 つまり、「建設費借金の金利2.1%」という「異常な安さ」が今後も続いていかなければ「リニア地下鉄東西線」は「事業」として成り立たないということです。この「金利の異常な安さ」はいつまで続くのでしょうか?
 むしろ、長い目で見れば、この「金利の異常な安さ」が続くとは考えにくく、上がっていく可能性の方がはるかに高いのではないでしょうか? しかも金利というのは、市側の意向とは全く無関係に動きます。このシナリオが現実になったら・・・
 長々とお話ししましたが、以上3つの「負のシナリオ」は、決して「起こりえない事態」ではなく、むしろ「充分に起きうる事態」と考えられます。
 しかも、建設費・1日の利用者数・建設費の借金の金利の「どれかひとつが予想よりちょっと悪くなった」だけで、「リニア地下鉄東西線」が「事業」として成り立たなくなってしまう、というのです。「事業の成功を支える足」とするにはずいぶんと脆い足じゃないですか?
 今までの話を言い換えれば、「リニア地下鉄東西線の成功」という「家」を支えるためには、
     
  1. 建設費が予想より少しも上がらないこと  
  2. 1日の利用者数が予想より少しも下がらないこと  
  3. 建設費の借金の金利が現在より少しも上がらないこと
 という3本の「柱」がきちんと立ち続けることが必要、ということになります。しかし、これらの「柱」は、今お話ししたとおり、いずれもつみ木のように倒れやすいものであるといえます。
 「3本の柱」のどれか1本が倒れただけでも「家」が倒れてしまうというのですから、3本とも一気に倒れたら、「家」は・・・
どんがらがっちゃーーーーーん!!
 と跡形もなく崩れ去ることになります。これではまるで「つみ木の家」じゃないですか。数千億円もする大プロジェクトが「つみ木の家」並みの脆さだなんて・・・
 と、ここで問題にしている仙台市「リニア地下鉄東西線」の事業採算性について、このような試算も現在出されています。これでも市側が「リニア地下鉄にしても『東西線』計画は大丈夫」というのでしたら、この「高研報告書」をひっくり返すだけの合理的根拠がある、ということになります。
 それはいったい何でしょうか? 市当局の方々におかれましては、是非ともお答えいただきたいと思います。
 著者より:ここで紹介している「仙台市東西交通軸 リニアモータ式地下鉄に関する問題」は、「仙台高速市電研究会」のサイトに掲載されています。具体的にお知りになりたい方は同サイトをご覧下さい。




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