「2本の線」は「道しるべ」





 よく、「電車もバスも同じ平面を走るから一緒さ」という話を耳にすることがあります。一見この話は正しいように聞こえますが、実は同じ「平面を走る」でも、LRV等の「電車」と「バス」とでは決定的な「違い」があるのです。
 それは、LRVはレール(「軌道」という)上を走る、言い換えれば「軌道以外の場所は絶対に走らない」ということです。
 こう言うと、「当たり前じゃないか!」という声が聞こえてきそうですが、この「当たり前の違い」は、実は「すごく大きな違い」なのです。
 バスターミナルの乗り場案内図(左)とバス停の路線案内図(右)。乗り場や経路がたくさん書かれている。バスは、道路さえあれば自由に路線が設定できるという大きな利点があるが、その自由度が裏目に出ることがある。それは・・・  

 写真:(左)仙台駅西口バスターミナル、(右)「電力ビル前」バス停で撮影

 上の写真は、バスターミナルの乗り場案内とバス停の路線案内図です。ある目的地に行きたい、と思ってその目的地に行くバスを探そうとしたら、路線が多くてどれに乗ればいいのが分からない、乗り場が多くてどこから乗ればいいのか分からない、たとえ乗っても今乗っているバスが目的地に行ってくれるか不安・・・
 こんな経験のある方は多いでしょう。バスは、道路さえあれば自由に路線を設定できる、という大きな利点がありますが、街が大きくなるほど、当然路線数が多くなります。ターミナルでは、当然乗り場の数が増えます。
 そうなると、どこから乗ればいいのか、どれに乗っていいのかが分からなくなることが、どうしても多くなってしまうのです。普段バスに乗り慣れている人も、ちょっと違う路線のバスに乗ろうとするとやはり迷ってしまいます。
 自由な路線が設定できるのはバスの特長なのですが、路線数が増えるとその「自由度」が裏目に出てしまうのです。
 その点、LRTはどうでしょう。「軌道以外は絶対に走らない」という「利点」を活かすと・・・
 フランス・ストラスブールのLRT。当然のことながら、LRVは軌道の上しか走らない。電停も軌道上の決まった所にしかない。つまりこれらは、「見える線」でつながれた「道しるべ」になっている。ということは・・・

写真:「平成10年度運輸白書」(運輸省編集) P129より抜粋

 上の写真はフランス・ストラスブールのLRTですが、LRVは軌道の上を走っています、というより軌道以外の場所は走れません。電停も、軌道上の決まった所にしかありません。これは、一見当たり前のことなのですが、大きな利点なのです。
 それは、これらの設備が「見える線」でつながれた「道しるべ」になっている、ということです。LRTなら、ある目的地に行くのに、どこから乗ってどこで降りればいいか、どこを通っていくのかが誰にだって一目瞭然なのです。
 ですから、バスのようにどこから乗ればいいのか分からないとか、乗っているときも「本当に目的地を通るんだろうか?」なんて不安になることも、ほとんどありません
 LRTの「道しるべ効果」は、なにも乗客にだけ働いているわけではありません。LRT路線の沿線にも、その効果は絶大なのです。
 例えば、店を開いている人が自分の店の位置をお客さんに教えるとき、「LRT△△線○○電停のすぐそばですよ」と言えば、お客さんにすぐに覚えてもらえるでしょう。
 これが、「○○バス停そばですよ」と言っても、よほど大きなバス停や有名な施設(役所や大病院など)の名前が付いているバス停以外は、お客さんから「そのバス停って、どこ?」なんて聞き返されてしまうでしょう。
 軌道だって、沿線の人にとって立派な「道しるべ」なのです。やはり「LRT○○線沿い」と言えば、分かってもらえること請け合いでしょう。
 また、道に迷ったときは、「道しるべ」である軌道の通っている道や場所を探せば、自分のいる位置がある程度把握できます。観光客や引っ越して来て間もない人など、土地勘のない人にはうれしい「装備」でしょう。
 この特長は、地下鉄と違って道路上や地上に軌道が「見える」LRTならではで、バスにはない特長です。

 「当たり前の違い」は、「すごく大きな違い」なのです。

 
 (写真左)平成11年5月より仙台市内で運行をはじめた路線バス「るーぷる仙台」。
 仙台駅を出発し、仙台市内の主な観光地を巡回して仙台駅に戻るルートで運行している。ご覧の通り、このバスの車体はオシャレでかわいい「目立つ」デザインだが、このバスの経路を正確に言える人は仙台市内でも何人いるだろうか? いや、市内でも、このバスの存在を知らない人さえいるのでは?
 バスは、道路さえあれば自由な路線設定ができるがその反面、路線の経路は鉄軌道と違って「一目で分かる」ということがなく、路線の存在を示す「アピール度」が弱いという決定的な弱点がある。停留所に路線図が書かれているとは言え、バスのこの「路線の目立たなさ」が、バスを「誰にとっても使いやすい『足』」にさせていない面があるのは否定できないだろう。
(仙台市内で撮影)

 (写真右)広島市の中心部。「道しるべ」としての軌道が見える。この「道しるべ」のおかげで、広島市の地理に全くうとい私でさえ、街中の移動が分かりやすくてラクだった。電車に乗ったときも、街中を歩いたときも・・・ 市内のほとんどの人は、路線がどこを通っているかをかなり正確に言えるだろう。ましてや、広島市内で電車の存在を知らない人は、まずいないだろう。

 軌道の「道しるべ効果」を決して軽んじてはいけない。この「道しるべ」は、「地理の分からない人」にさえも「目立つ路線」をアピールをするだけの威力があるからである。この威力は、「路上を走る電車」を「誰にとっても使いやすい『足』」に仕立てているのに大きな役割を果たしている。
(写真右:広島市内で撮影)

 まだまだあるLRTの利点、次のページに続きます。




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