LRTは「鉄道界の忍者」





 LRT車両は、ハイテク技術によって小型で身軽になっています。リニア地下鉄や新交通システムなんかと違って、JRなどとほぼ同じ普通のレールですから、やる気にさえなればJR線などに乗り入れて、より遠くのお客さんを中心地に運んでくることだってできます。
 ある時は路上、ある時は専用軌道、またあるときは地下線に潜り高架線を駆け抜け、はたまたある時は立体交差で道路を渡り、時にはJR線に乗って遠くの客をさらってくる・・・ いろんなところを走れるこの小型で身軽な「忍者」の「忍術」はこれだけではありません。他にどんな「忍術」を持っているのでしょう。
 ドイツ・ケルンのLRT。一見ただの路面電車、しかし、この電車が走るのは「路上」(写真左)だけではありません。なんと、JR線のように専用の線路(専用軌道・写真中)や地下(写真右)だって走ります。これから紹介しますいろいろなところを走れるこの「忍者」の忍術、とくとご覧あれ。
以上3枚の写真:佐藤 茂 氏(仙台高速市電研究会)のご厚意により掲載
 まず、身軽ですから急な坂を上るのが得意です。外国では80〜110/1000(1000m進んで80〜110m登り下りするだけの角度。高速道路は急なところで約40〜50/1000だから結構急なのはお分かりでしょう)の急な坂を平気に安全に上り下りしています


 (上図)坂の程度の表し方。前に1000(m)進んでy(m)登った(下りた)時の坂の程度を、y/1000と書く。当然、yの値が大きければ大きいほど坂が急になるのはお分かりいただけよう。
 諸外国の実績では、80〜110/1000の急坂を平気で上り下りしており、バスやリニア地下鉄にも引けを取らないと言う。我が国では一部で「LRTは急坂に弱い」という声があるが、技術的にはそんな事は決してない。

 (下写真)熊本市交通局のLRV。この車両は、国内の鉄道車両メーカーがドイツの車両メーカーのライセンスを受けて製造した。この車両の設計上の登坂性能は80/1000と、かなり「急な」坂でも大丈夫である。こう聞けば、「急坂に弱い」どころか、急坂に「強い」ことがお分かりいただけよう。
下写真:「平成10年度運輸白書」(運輸省編集) P130より抜粋



 LRTではありませんが、日本でも箱根登山鉄道(神奈川県)は、何とタネも仕掛けもない普通のレールで急な坂(80/1000)をホイホイ! 「LRTは急坂に弱い」という言い分はとてもホントとは思えません

 名付けて「坂登りの術」

 LRTは(我が国に現存している大部分の路面電車もそうですが)、軌道上のクルマの走行は原則禁止、特に中心部など交通が集中するところほど厳禁!交差点でも電車が優先的に通行できるように信号を設定したり、とにかく電車が速く走れるようにします。
 また、場所によっては高架線や専用軌道、地下線も組み合わせます。これらの術があればクルマになんか負けません。速くなって便利になって、みんながクルマから乗り換えてくれる道が開けるでしょう。

 名付けて「速抜けの術」

 身軽ですから、消費電力は地下鉄より少なくて済むでしょう。LRVの車体は「身軽」だし、リニア地下鉄のように動力メカニズムの効率が悪いわけではないし、全駅の空調が必要なわけではないし・・・ 今はやりの「環境に優しい」交通機関と言えるでしょう。パート2で触れたように、電気は「限られた資源」なのです。

 名付けて「少食の術」(「少食」って「術」かいな? ま、いいか!)

 また外国のLRVの速さはバスに劣らず、加速度や最高速度だって負けません急カーブだって大丈夫です。(熊本市交通局LRVの設計では、最小回転半径は18m。)
 また海外のLRTは、郊外の専用線で70〜100km/hの高速で走っています。街中を走る速度で「騒音で困った」という話は、聞いたことがありません
 鉄道界の「忍者」と呼ぶにふさわしいフットワークではありませんか?
 「小型」だからといってバカにしてはいけません。
 1つの編成は2〜3両(約15〜30m)ですが、2つ以上の編成が合体するとたくさんのお客さんを運ぶことができます。(最大輸送力は一方向で最大5000〜1万5千人/時※)時間帯に合わせて編成を長くしたり短くしたり、需要に応じて自由自在。
※建設省発行パンフレット「路面電車の活用に向けて」(平成10年1月発行)内のデータ。同資料では、LRTを「路面電車」として掲載。

 名付けて「合体・伸縮自在の術」

 えっ?「1時間で最大1万5千人の輸送力」だって? なーーんだー さっきの市当局の方のコメント「1時間で約1万〜1万2,3千人」の数字より大きいじゃん!
 輸送力だって、LRTで足りるのでは? ダイヤや車両の乗車人数などの条件により変わるでしょうが、LRTは「仙台東西線」の輸送力にだって充分に対応できるのではないでしょうか?

 LRTは需要に応じて編成を自由に変えられる。効率的な運用も容易だろう。外国では行っている都市もある。


 これらの「忍術」がそろって、システム全体で「早くて便利」であってはじめて「LRT」の称号が与えられます。「LRVが走っているから」というだけでは、「LRT」とは言えません。
 海の向こうでは、「路上を走る電車は遅くてうるさい」なんて言葉は
過去のモノなのです。
 この「忍者」さんの「忍術」はこれだけではありません。もう少しその「忍術」とやらを次のページでお話ししましょう。
 



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