「目立つ看板」も「場所くい虫」には無力



 「うーーん、分からなくもないんだけど、やっぱり立派な道路を造ったり幅を広げたりすればクルマの流れが良くなるんじゃない?」という方もいらっしゃるでしょう。そうおっしゃる気持ちは分からなくもないのですが・・・
 でも、仙台市のような中〜大都市の場合、実際はどうでしょうか? みなさんがお住まいの都市でも、「道路は良くなったんだけど渋滞はちっとも良くならない、それどころかひどくなったような気さえするよー」なんて経験はないでしょうか?
 道路、特に郊外から中心部へ向かう「幹線」道路では「道は良くなったが渋滞は良くならない」ということがよく見られることがありますが、これはなぜなのでしょうか? 大金をかけて道路を広げても、どれだけの「場所くい虫」であるクルマが通れるようになるのでしょうか?ここではそれを検討してみます。
 ここ仙台市内でも、新しい道路の建設が計画されていながら未だ着工されていない箇所が少なくありません。下に挙げる箇所もその一つです。今はまだ狭いままの道路(写真左)なのですが、将来工事が進んで完成すれば、さぞかし(写真右)のように立派になって、「目立つ看板」になるでしょう。


 (写真左)仙台市内の道路拡張工事の予定地。将来は郊外と中心部を結ぶ「幹線道路」になることが期待されている。今はまだ1車線しかなく狭い道路となっているが、工事が行われた後は(写真右)のように、さぞかし立派で「目立つ看板」になるだろう。

 さて、これだけ「目立つ看板」でどれだけのクルマがさばけるか、ということを考えると・・・
(仙台市内で撮影)



 さて、これだけ道路が広くなって立派になったことで、どれだけのクルマがさばけるようになるのでしょうか?道路が広くなればたくさんさばけそうな気がするのですが・・・
 ここで前の項の「車列の長さ」を思い出してみて下さい。『クルマは電車やバスよりもずっと「場所くい」だ』ということを考えると、「クルマで動く人」の数はそんなに多くなくても「クルマがとるスペース」は大きくなってしまうことはもうお分かりですネ。
 「クルマはいかに『場所くい』か」ということは大変重要ですので、クドいようですがここでもう一度復習しましょう。
 クルマ1台あたりの平均乗車人数を、先の1.25人として計算すると、地下鉄南北線電車1本(定員570人)の乗客をクルマに「分乗」させて1列に並べると車列の長さは約2.7km となる、ということは前の項で触れたとおりです。
 その車列をこの「目立つ」道路に並べてみたらどうなるでしょう。この道路は片側2車線なので、この道路に車列を当てはめると、渋滞の車列の長さはその半分の約1.35km となります。たとえ道路を広くしても、たった1本の電車の乗客分だけでこの長さ・・・
 ということは・・・ 道路が広くなったからといってもすぐにクルマであふれかえってしまうじゃないですかー!?せっかく苦労して用地を取得して、さらに道路建設という手間ヒマまでかけて造ったのにこれじゃー・・・
 えっ?「ただクルマを並べているだけからそんなに長くなるんじゃないの? 実際はクルマは流れて行くわけだから、流れ出したらたくさんのクルマが通れるんじゃないの?」ですって?
 ちょーっと待ったっ! たとえクルマが流れ出してもそんなにたくさん通れるワケじゃないんですよー。

 実は、こんなデータがあるんです。

 3mの幅(約1車線分の幅)で運べる人数は、乗用車では1時間あたり約620人※です。
※天野光三:「都市交通のはなしJ」技報堂出版、括弧内文章は著者
 ちなみに、同じ3mの幅で運んでいる人数は、現在の仙台地下鉄南北線のダイヤでは定員で約1万人/時です。同じ幅で運べる人数は、クルマと電車ではこんなに違うんだなーー
 ということは、現在の仙台地下鉄南北線の定員分だけの輸送力をクルマだけで稼ごうとすれば、どれだけの車線が必要なのでしょうか? 逆に計算してみると、なんと・・・
片側16車線!!!
 実際は1車線あたりの幅は3.25 〜 3.5m ですので、両方向32車線分の道路の幅は車道だけで、
な、なーんと104〜112m!
 ・・・みなさん、世の中にこんな道路があったらどんなモノになるか、想像つきますか?
 ここまで来たらとても「目立つ看板」なんてレベルじゃない、まるで運河だーっ!!
 道路1車線分の幅で運べる人数は、クルマでは1時間あたり約620人という。現在の仙台地下鉄南北線(左写真)の輸送力(定員で約1万人/時)をクルマだけで稼ごうとすると、「運河」のようなとてつもなく広い道路(右図、なんと片側16車線!!)が必要という計算が成り立つ。

 いくら何でも、「これだけ道路を広げてくれ」と言う人はいないのではないか? まとまった数の人を同じ方向に運ぶには、クルマはいかに非効率かがお分かり頂けるかと思う。 

 クルマだけでたくさんの人を同じ方向に運ぼうとすれば、「運河」のような「超目立つ看板」ぐらいのモノを造らなければ運びきれない、ということはもうお分かりのことと思います。
 ここまでやろうと思ったら「街を壊す」ぐらいの覚悟がないとできませんなー。

 ねえ、みなさん。ここまでして「渋滞を解決したい」と思いますか? 私だったら、それはイヤだなー 

   こんな運河みたいな道路を造ろうとするのはムリな相談、ということはもう分かりました。では、郊外から中心へ向かう「幹線道路」を上の写真のように片側2〜3車線で建設すればどうなるでしょう。  


   道路拡張工事の予定地(写真左)が、工事の後は立派で「目立つ」道路(写真右)になるだろう。

 これだけ「目立つ看板」でも、さばけるクルマの台数(クルマで移動する人数)は電車に比べたら全然少ないことはお分かりになったかと思う。では、この「目立つ看板」を目指してたくさんの人がこの道路を通ろうとしたら・・・
(仙台市内で撮影)

 片側2〜3車線の「立派な」道路が新しくできたら、その「目立つ看板」のアピール度は決して小さくないでしょう。そして、今までお話しした事情を考えない人は「道路が広くなったから渋滞が良くなりそう。今度そこを使おう」と思うでしょう。
 なかには、今まで他の道路を使っていた人も、「渋滞回避」を目論んでこの道路を使う人も少なからず出てくるでしょう。また、「スピードアップ」を期待してバスからクルマに乗り換える人も出ることでしょう。
 そんな人がたくさん出れば、せっかく手間ヒマかけて造った「広い道路」と言えどもその結末やいかに?
 仙台市の世帯数は約40万7千世帯(平成11年7月現在)のうちの、わずか1%の世帯が「この道路を(通勤などで)使おう」と思って、通勤時間帯に一斉に集中したとしたら、1世帯あたり1台のクルマを使うとして計算すると、その台数は・・・
約4000台!!!
 こうなれば、たとえ片側3車線の「広い」道路といえども限界を超えているのはもうお分かりでしょう。「目立つ看板」のアピール度は決して小さくないと思いますので、実際はこの台数はもっと増えるかも知れません。そうなればどうなるかは、「推して知るべし」でしょう。
 「目立つ看板」は、その宣伝効果の割にはさばけるクルマの台数(クルマで移動する人数)は電車などよりずっと効率が悪いわけですから、以上のシナリオは容易に想像がつくのではないでしょうか?
 ここまでくれば、いくら広い道路といえども「クルマの場所くいパワー」の前には無力であることは、もうお分かり頂けるでしょう。




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