「リニア地下鉄」≒「ミニ地下鉄」の値段も「ミニ」?





 「リニア地下鉄」・・・なんか名前がカッコイイですね。特にこの「リニア」って言う言葉の響きに、なんか未来がすぐそこにあるって感じが体にビリビリって来るような気が・・・ している方もいらっしゃるかも知れません。
 でもシビレている場合ではありません。まず、「リニア地下鉄」とはどんな物でなぜ安いと言われているのか、なぜ私が「『仙台東西線』にふさわしい」と思わないかを、これからお話ししたいと思います。
 「リニアモーターカー」と聞くと、「磁力の力でフワッと浮いて高速で突っ走る」タイプのモノを思い浮かべる方も多いと思います。確かにそういうのもありますが、ここで言う「リニアモーターカー」とは、下のタイプのモノを指します。


 (左上)リニア地下鉄。写真は、大阪市営地下鉄・長堀鶴見緑地線の車両。車体の寸法は仙台地下鉄南北線など”普通の”地下鉄より小さい。ちなみに、「リニア地下鉄」でなくとも車体寸法を小さくしている地下鉄はある(京都市営東西線)。「リニア地下鉄でなければ寸法が小さくできない」ということはないと思うのだが。

 (左下)同線のリニア地下鉄のレール。 レールの真中に見える灰色の線状のものは「リアクションプレート」といわれる金属板。走行機構は特殊。

 (右)どう特殊かを示しているリニア地下鉄車両の概念図。普通の「回る」モーターはない。リニアモーターとリアクションプレートの間に発生する磁力の作用で動力が発生する、というのが特徴。



 レールの真ん中には、「リアクションプレート」という金属板が延々とつながっています。また、電車の台車には、このリアクションプレートと、わずか1cm程度のすき間を経て、電磁石の平らな「モーター」が張り付くように設置されています。
 この「平らなモーター」から発生する磁力がリアクションプレートに作用して動力を発生させます。普通の「回るモーター」はこのシステムにはありません。
 車軸を直接回して走る電車と違って、「平らなモーター」とリアクションプレートの間に発生する磁力に引っぱられる形で動くわけです。一般には、「急坂に強い」と言われているのはこのことによります。また、カーブを急な設定にできたりして自由な路線設定ができる、とも言われています。
 足周りを低くできてトンネル断面を小さくできるのでコストが安くできる、と一般には言われています。また、トンネル断面が小さいことから「ミニ地下鉄」という言葉が使われることもあります。
 ところで、「ミニ地下鉄」って、コストも「ミニ」なのでしょうか? ちなみに、市側は平成10年11月現在、「東西線」の建設費を約190億円/kmと公表しています。
 これだけを見てても、この「お値段」って、安いんだか高いんだかよく分かりません。それを見るために、比較的最近開業した地下鉄の、お値段とやらをちょっくら覗いて見ましょっか?


都市名 路線名 開業年 1kmあたりの建設費(億円)
札幌市 東豊線 1992 227
福岡市 1号線 1993 218
京都市 東西線 1998 352
※運輸省・建設省「路面電車活用方策検討調査報告書」(平成10年3月)P80より


 ふーん、こう見れば確かにこれら「非リニア地下鉄」よりは建設費が「ミニ」って感じがしないでもないなー。上の2つの路線だって、建設費の上昇を考えれば、今開業したとしたらこの値段で済むかどうか分かんないしなー
 でも、一番下の「京都市営東西線」の電車なんて、車体をJRの通勤電車より「ミニ」にしているんですよ。やっぱりトンネルの断面を小さくして建設費を抑えようとしたのでしょう。それでも、目んタマがひっくり返るような値段だ。
 おっと、ここで「リニア地下鉄」は「安い」、なんて言うのは早合点ですよー。
 それはどういうことか、これから最近建設中のリニア地下鉄の「先輩」の建設費を見てみましょう。
 「先輩」は、東京都営12号線(平成11年7月現在環状線部は工事中)、神戸市営海岸線(平成11年7月現在工事中)等があります。
 それらの建設費は、神戸市営海岸線が約300億円/km(※1)、東京都営12号線(環状部)に至っては、なんと約340億円/km(※2)、!!
(※1)社団法人日本地下鉄協会「平成10年度地下鉄事業計画概要」データより算出
(※2)毎日新聞平成11年5月30日記事の掲載データより算出
 どっひゃーーーーーんっ!! これ、上の表の「非リニア地下鉄」の数字と見比べても、「建設費が安い」といわれている「リニア地下鉄」だからといって値段が「ミニ」だなんて、とても思わないよーー!!
 仙台市側は、「仙台では地盤が頑丈なので他都市のように高騰することはない」と主張しています。しかし、これら「先輩」の実績を見ていると、果たして今の予想の範囲内に収まるか、私には疑問に思えてなりません。すでにはじめの予想建設費・2410億円(平成8年度価格)より上がってるし・・・
 えーーーっ! たったの2年間で300億円も上がっているのーー!?
 これまた大したたまげたモンだー!! 何でこんな短い期間でそんなに上がるの?

 ちなみに、この2年間の建設費の上昇率は、計算するとなんと約12.5%!!

 ちなみに、私たちが、身の回りのモノを買うときの物価(消費者物価)はどのくらい上がっているのか、見てみましょう。

 「消費者物価総合指数」は、平成7年を100とすると、平成11年5月は102.5※です。ですから3年間で物価上昇率は2.5%となります。
※総務庁統計局:平成11.6.25発表「消費者物価指数・全国(平成11年5月分)」データ

 オー! アンビリーバボー!(おーっ! 信じられなーい!) こう見ると、この建設費の上がり具合はすごい「超インフレ」だ! もし身の回りのモノがこんなに値上がりしたら、私たちは暮らせなくなっちゃうよー。
 ちなみに、今あげた東京都営12号線の建設では、こんなスゴいエピソードがありましたので、ご参考までにお話ししましょう。 それは・・・
都営12号線、償還計画破たん

※東京新聞平成11年3月21日記事、文字強調は著者
 念を押しますが、都営12号線も「リニア地下鉄」です。「建設コストが安い」はずの「リニア地下鉄」を造った結果が償還計画破たん・・・ これはどういうことなのでしょうか?
 「建設費が当初予定より3000億円も膨張し、都交通局の償還計画が事実上破綻した」のだそうです。建設費が巨大になりすぎてはじめの計画では返せなくなったとのことです。
 ただでさえ財政がパンク寸前という東京都、この先建設費の返済はかなり大変な事でしょう。工期の遅れが建設費膨張の主な原因とのことですが、それにしても返済額が約1兆円とは・・・
 ここまでくれば、「リニア地下鉄」=「コストもミニ」が公式として成り立たなくなっている、ということのは誰にでも分かるでしょう。
 以上、「リニア地下鉄」だからといって必ずしも「コスト安」とは言えず、「ミニ地下鉄」といえども建設費が償還破綻になるほど膨張してしまっている1例を挙げました。
 「仙台東西線」は、1兆円とは行かなくても、都営12号線と同じように建設コストが今後も膨張する可能性は決して低くないでしょう。既に当初計画よりわずか2年間で増加しているのは先に触れたとおりです。
 その建設費が「仙台東西線」の場合、今後いくらまで上がるかは今のところ私には分かりません。一説には「(駅周辺の整備費など、地上整備の分他も含めると)約4000億円までは膨張するだろう」※という話まであります。
 ※「仙台高速市電研究会」による
 ちなみに、都営12号線の「約340億円/km」の数字を「仙台東西線」に当てはめて建設費を計算すると・・・
約4760億円!!!
 ・・・おいおい、この値段の開きっていったいなんなんだーー!? 本当に東京と仙台の地域差だけで説明できるのーーー? 疑問だなぁー
 誰か教えて〜〜〜っ!!
 でも、ここで話が終わったら先の話が続きません。頭の中のこの「ギャップの不思議」をグッとこらえて強引に先に進んじゃいましょう。ここで、1歩ゆずって、いや百歩、いやいや千歩ゆずって2710億円で何とか完成させたと仮定します。
 しかーし、ここで安心してはいけません。「支出」というモノが厳然としてかかってきます。内訳は、動力費、その他の電気代、修理維持費、人件費、時期が来れば車両や設備も更新しなきゃならないし、もちろん建設費の返済もお忘れなく・・・
 いろいろありますが、これらの額がシステムの維持に見合うものでなければトータルに「コスト安」なシステムとは言えません。リニア地下鉄ではどんなことが考えられるでしょう。
 まず動力費ですが、「運輸省のデータで、(リニアモーター式でない)普通の鉄道よりもリニア地下鉄は約3割高い」※というのがあります。リニアモーターの効率が良くないのだそうです。動力費は常にかかるので、これは無視できない話でしょう。
※「新しい都市交通システム」P105 都市交通研究会著 山海堂
 また「その他の電気代」とは、空調費も含まれます。「地下鉄」東西線はほぼ全線が地下になるとのことですから、全駅が地下になると思っていいでしょう。いくらリニア地下鉄が「小型化」しているとはいえ、それなりの広さの地下ホームやコンコースがあるのです。
 ということは、それだけの空間の空調が必要ということになります。自分の家で、部屋のクーラーやヒーターのスイッチをちょっと入れただけで、電気代の請求書の金額にビックリ・・・ という経験のある方は多いと思います。それだけで、空調にはどんなに莫大な電力がかかるかが想像できるのではないでしょうか?
 また、各駅には、エスカレーターやエレベーターもあります。これらも、当然電気を使って動きます。稼働時間は一日のうちの長い時間ですから、これらの動力費もかなりのモノになるのではないでしょうか?ご存知の方はお知らせ下さい。
 最近は、電力生産に伴う二酸化炭素の発生が大きな問題になっているのは御存知の通りです。我が国では、電力生産のうち約6割は火力発電で約3割は原子力発電です。
 火力発電は石油やガス・石炭などを燃やしますから当然二酸化炭素を発生します。二酸化炭素による地球温暖化が世界中で大問題になっているのは今更言うまでもありません。また、原子力発電も「核のゴミ」を発生し、その処分が大きな問題になっているのはみなさんもご存知でしょう。
 それらの代償を払って、私たちは電気を使っているのです。電力生産の大部分をこれらの方法に頼っている現状では、電気は「限られた資源」なのです。
 そう考えると、「地下鉄は電気で動くから」という理由だけでは「環境に優しい」とは単純には言えないのです。消費量も大きな問題なのです。
 「地下鉄は電気で動くから」「環境に優しい」という声を耳にすることがありますが、都市環境が地下鉄導入に見合っている状況になければこの言葉は成り立たないと私は思うのですが、いかがでしょうか?
 また、さっきのリアクションプレートなんですが、「平らなモーター」とのすき間の間隔は常に一定になるように、厳しく管理しなければなりません。そうしないとモーターの性能が落ちるからです。
 もともとリニアモーターは特殊なシステム、特殊だからコストがかかって、さらにその維持管理でもかなりのコストがかかることは、誰でも予想が付くことでしょう。
 建設費がちょっとばかり「ミニ」だからって言っても、今ここに挙げた話だけでその「ミニ」なんて言葉、すぐ吹っ飛んじゃうんじゃないかなー?
 また、高い建設費・維持費は当然高い運賃に跳ね返ってきます。仙台地下鉄南北線の運賃は、初乗り3kmまで200円、以下3km増える毎に240、290、320、350円と、「地下鉄運賃が高い」と思うのはみなさんもほぼ同意見でしょう。
 ここにもう一本「コスト高な地下鉄」が完成し、運賃値上げなんて話にでもなれば、この「割高感」は「お客様」の心の中で増幅されていくことになるでしょう。
 そうなったら、利用客増・渋滞解消など「絵に描いた餅」に。「百年の大計」とも言える大きな買い物で買ったモノが「絵に描いた餅」じゃ、我々市民は泣くに泣けない・・・ トホホ・・・
 えっ? 「急カーブや急坂はリニア地下鉄でなければクリアできないんじゃない?」ですって? 大丈夫! あとでご紹介する「LRT」というヤツだって充分できますから。それはどういうことか、と言いますと・・・
 まだひ・み・つっ! お読みになっていけば分かります。ご注目を!
 これからやってくるのは高齢化、就労人口の減少、経済成長の鈍化、それらに伴う税収や運賃収入の減少・・・
 これから「大事業」を行うには厳しい条件ばかりです。ですから、これからは、これからの時代や実状にあった考え方やシステムが必要なのです。このような事業には厳しーい目をこれから注いでいきましょう。私たち市民は、「決して安くない税金」という形でこの事業に出資している「株主」なのですから。
 みなさん、「ミニ」という言葉には、ご注意を・・・



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