「巨大ローン怪獣」と闘う仙台地下鉄南北線






 「東西線」論議が華やかな(「すさまじい」かな?)仙台市ですが、この計画に「リニア地下鉄」(≒「ミニ地下鉄」)を導入したとしたら、前項で挙げた、「ミニ」とはとても言えない莫大な資金をかけなければならない、ということがお分かりと思います。
 ご存知の方も多いと思いますが、仙台市には既に地下鉄が1路線(南北線)があります。この地下鉄を建設するのにかかった費用も莫大で、この費用の返済は現在も相当な負担になっています。
 つまり、今現在「巨大ローン」という「怪獣」と闘っている最中なのです。ここでは、それについてお話ししましょう。
 昭和62年7月、約6年の歳月と約2400億円の費用をかけて、仙台市に我が東北地方初の地下鉄南北線(八乙女(やおとめ)〜富沢間13.6km)が開業しました。
 「街はクルマで便利になるさ」との御旗の下で過去の遺物のように見捨てられながら姿を消した仙台市電の発展型とされ、地方中枢都市の起爆剤・シンボルとしての颯爽(さっそう)のデビューでした。


 昭和62年に開業した、東北地方初の地下鉄仙台市営南北線。
 この地下鉄ができて沿線人口が増え、開発は進み街は発展した。それは確かに評価できるのだが・・・


 この「中枢都市のシンボル」への地元の期待は小さいものではありませんでした。私も当時は、「これで東北さも地下鉄があ。東北も発展すんべなー」などと思ったものです。その後の経過はどうでしょう。
 確かに、開業してからはバブル経済期に入り、地下鉄沿線の住宅建設が増え、沿線人口も増加し、北に延伸され、北の終点・泉中央駅周辺に「仙台副都心」とも言える大規模開発も行われました。
 我が国の経済がまだ右肩上がりだった時代、この地下鉄により仙台市が発展の道を歩むことができたことは、うん、私も評価しましょう。
 沿線開発に決して小さくない貢献をしたこの南北線でさえ、開業してかれこれ11年以上経つのですが、そのツケも決して小さくはありません


 (左)地下鉄南北線の朝のラッシュ風景。たくさんの人が利用(平成9年現在1日約16万7千人)している。ラッシュを見ると経営状態は一見「左うちわ」のように見えるが、建設費の返済に伴う負担が重くのしかかっている。
  (八乙女駅で撮影)

 (右)北の終点・泉中央駅付近の建物の群。開業前はほとんど田畑だった土地だったが、延伸開業後は発展が著しく新しい建物が軒を連ねている。経済成長が旺盛だった時代だからここまで開発できたのでは?



 一番大きな問題となっているのは建設費の返済の問題です。どんなものか、もう少し詳しく見てみましょう。
 地下鉄やその他の交通機関は、「お客様」に乗っていただく事で得られる「運賃収入」や車両・駅の広告等による「運賃外収入」で「収入」を稼いで維持しています。しかし、「収入」だけで済むほど現実は甘くありません。交通機関を運営するには当然「運営経費」がかかります。
 運営経費にはどんなものがあるかを見てみると、主なものには人件費、電車の動力費、施設の修繕・維持費などがあります。仙台市営南北線の場合、純粋に「収入」から「運営経費」を差し引いたらどのくらいでしょう。
 当然、この段階で「運営経費」が「収入」より多ければ利益は出ず、長く続けば「赤字の雪だるま」が膨らみ続けることになるのですが、いかに?
 収入:131億円 ― 経費:63億9千万円 = 67億1千万円の利益

※平成9年度決算。百万円の位で四捨五入。「平成10年度事業概要」(仙台市交通局)による

 おお、南北線って意外にたくさん「稼いで」るんだーー もしこのまま「利益」が出続けるとしたら、地下鉄は「金の卵」になること間違いなし、なのですが・・・
 ところがドッコイ、そんなにスムーズに行くほど世の中は甘くありません。「支出」は「運営経費」だけではないのです。他にはいったいどんな「支出」があるのでしょうか?
 地下鉄をはじめ、鉄道の車両や設備は、時間が経ったり使っていくうちに、導入したばかりの「おニュー」の状態に比べて、当然「資産」としての価値が目減りします。同じ車種のクルマでも、新車と10年落ちの中古車では値段が違うことを見れば、お分かりになると思います。
 鉄道の車両や設備は耐用年数が設定されているわけですが、耐用年数までの「資産価値」の目減り分の金額を、ある一定期間に区切って(普通1年間)「経費」として計上します。この経費を「減価償却費」といいます。では、この「減価償却費」を上の「利益」から差し引くと・・・
利益 ― 減価償却費= 3億1千万円の利益

※平成9年度決算。百万円の位で四捨五入。「平成10年度事業概要」(仙台市交通局)による

 減価償却費を入れたらだいぶ手元に残るカネが少なくなってしまいましたが、それでもこのくらいの「利益」が残ります。今後も「利益」が残るようになればラクとは思いますが、ここで問題の「建設費の返済」という「怪獣」が出現してきます。これを入れて計算すれば、1年の「赤字」額は・・・
ざっと83億1千万円!※

※平成9年度決算。百万円の位で四捨五入

 うーーん、一気に苦しくなってしまった。でも、返済が計画通りに順調にいけば、そんな「怪獣」だって、計画通りにしぼんで最後には消えてくれるのですが、返済が順調であるためには、収入、つまり乗客数がはじめの計画に近くなっていることが当然必要なのです。仙台地下鉄南北線については、この点ではどうでしょう?
 仙台地下鉄南北線の1日の目標乗客数は、開業当初22万人と見積もられていました。この数字は大きすぎる、という疑問の声も少なくなかったようですが、実際はどうなったのでしょうか?
 実際、開業当初の1日の乗客数は約11万人、その後沿線人口が増加したにも拘わらず、平成9年度でもまだ約16万7千人と、今のところ当初目標の数字に及ばない状況です。
 しかも1日の乗客数は、平成6年度からは16万3千〜16万7千人の間※で伸び悩んでいるのです。
※「平成10年度事業概要」(仙台市交通局)より。百人の位で四捨五入
 この乗客数の「少なさ」は当然収入に影響します。収入が予想より下回れば、当然返済のための負担が増えたり、返済までの期間が延長することになります。 ということは、乗客数が予想より減って収入も減れば、「怪獣」はさらに手強くなってしまうことになります。
 「怪獣」さえいなければ順調と言える地下鉄経営も、多額の建設費をかける以上は「巨大ローン」という「怪獣」と闘わなければなりません。しかも、今現在、仙台地下鉄南北線は「手強い怪獣」と闘っている最中なのです。
 こんな状況で、「東西線」に莫大な費用のかかる機種が投入されることになれば、もう一匹巨大な「怪獣」が出現することになります。当然、「怪獣」は大きければ大きいほど、倒すのが難しくなります。しかも、「2匹の怪獣」を一度に相手にするのは、今の仙台市の「ふところ具合」にとってはかなりの重荷でしょう。
 それはどーゆーことかと言いますと、仙台市の台所事情は、「市債(つまり市の借金)は約637億円、市債の残高は約6418億円」※と、決してラクではないのです。しかも、市債残高という「借金の山」はここ数年ふくらんでいる一方なのです!
※仙台市平成11年度決算:朝日新聞H12.8.24記事より。色彩強調・括弧内文章は著者
 しかも、これからは全体人口の伸びの低下、高齢者人口の増加が来ることは分かり切っており、経済成長率の低下、雇用情勢の変化で住宅需要や都市発展が今まで通り旺盛かは、保証の限りではありません
 「東西線」の利用者は現在のところ1日13万2千人といわれていますが、先の南北線の「予想はずし」や今後の社会情勢の変化を考えると、今後も「1日13万2千人」という数字をうのみにして、果たしていいのかどうか・・・?
 もし、「東西線」の建設費が今より膨らんだり利用者数が予想よりも下回るようなことがあれば、「怪獣」は手強さをさらに増すことになるでしょう。タダでさえ「ふところ具合」の悪い仙台市、もしそうなったらこの先に待っているモノとは果たして・・・
 そんな一市民の心配をよそに、仙台地下鉄南北線と「ローン怪獣」との闘いは今日も繰り広げられているのであった。もう一匹「巨大な怪獣」が出現したらこの結末はいかに?・・・ 




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