「古い手縄」からの「縄抜け」は、できるっ!






 さて、その「抜け道」ってなんでしょう? それをお話しするために、まず、LRTに関わる法規はどんなモノがあるかをお話ししましょう。
 JR線や地下鉄などは、原則として「鉄道」ということで「鉄道事業法」という法律の管轄(管轄省庁は運輸省)になっています。
 それに対して、同じ「レール」でも、路面電車のように路上を走るレールは「軌道」として「軌道法」という法律の管轄(管轄官庁は建設省と運輸省の両方)になっています。2つもあって、あーややこしいー・・・・・
 しかし、先にお話しした「古い手縄」と言える項目は、「軌道法」で直接決められているわけではありません。この法律の下にぶら下がっている規則等で具体的な事柄が決められています。
 前の項で問題にされている規制はいずれもそうです。LRTなど「路上を走る電車」の最大の長さや最高速度等運転に関する事項は「軌道運転規則」という規則で、軌道の最大勾配や敷設道路幅等軌道の建設・構造に関する事項は「軌道建設規程」という規程で決められています。またまたややこしいー・・・・・
 前の項の規制を見ると、あらためて「外国で高品質なLRTが普及している今の時代では、時代遅れなんじゃないの?」とお思いになることでしょう。私だって同じ気持ちです。
 実際、これら規制の「古さ」を問題視している声が多く聞かれます。参議院議員である櫻井充さんは、「軌道法」はじめこれら「古い」規制の問題点を指摘し、LRT導入について国の見解を質した質問主意書※1)を提出され、それに対する内閣の答弁書※2)が示されました。
※1)櫻井充・参議院議員:「ライト・レール・トランジットの国内普及に関する質問主意書」:「官報」号外(平成11年10月12日号)P10
※2)内閣参質一四五第二十八号:「官報」号外(平成11年10月12日号)P12
 ところで、「軌道運転規則」や「軌道建設規程」をじっくり読んでみますと、実は、それら規制にはきちんと「抜け道」があるんですっ。それを今からご紹介しましょう。ジャジャァーーーン!!
  • 路上における電車の最高運転速度・車両編成の最大長等の「抜け道」
      「特別の事由がある場合には、運輸大臣の許可を受けて、この規則の定めるところによらないことができる」(軌道運転規則第2条第1項但し書き、文字強調は著者)

  • 軌道の最大勾配や敷設道路幅等の「抜け道」
      「特別ノ事由アル場合ニ於テハ運輸大臣及建設大臣ノ許可ヲ受ケ前各条ニ規程スル設計ニ依ラサルコトヲ得」(軌道建設規程第34条、文字強調は著者)
 下の条文はカタカナで読みにくいとは思いますが、原文からの引用ですのでご辛抱を。それはとにかく、これらの条文はいずれも抜け道があることを示しています。えっ?「『特別の事由』がなければムリなんでしょ?」ですって? こんな疑問には、私から逆にお訊きしたいと思います。
「特別の事由」って、具体的に何ですか?
 「特別の事由」と聞くと、一見、よっぽど特別な理由がなければ「抜け道」を使えないような印象があります。しかし、「具体的になに?」という定義は、実はないのです。つまり・・・
「古い規制からの抜け道」の妥当性を合理的に説明できればLRTを実現できうる
 と解釈できる、ということです。これはどういうことなのか、もう少し具体的にお話したいと思います。
 ここで問題になっている「古い規制」はいずれも、現代のLRTの性能・技術に見合う代物ではないことは前の項でお解りかと思います。でも、いくら「抜け道」といっても、「いくらでも長く・速く・急坂に」というわけにもいきません。
 何事も、「行き過ぎ」というのは妥当ではありません。これら「古い規制」の緩和、といえどもやはり「限度」というものがあります。その「限度」を決めるものは・・・ 
LRVの性能とLRTの安全性
 です。LRVの性能を超えた勾配設定にしたり走行ダイヤを組むわけに行きませんし、歩行者・クルマ・自転車など周りの道路交通を完全無視してまで「速く・長く」ともいきません。どの程度までならば「古い規制」を越えることができそうなのでしょう? これから、みなさんと考えていきたいと思います。
 まず、路上におけるLRVの最高速度をどこまで高く設定できそうか、ということについて考えていきましょう。
 先の項でお話ししたとおり、路上での電車の最高速度は40km/hまで※と決められています。この速度に設定している根拠として、「内閣の答弁書」を見ると・・・
※軌道運転規則第53条
他の道路交通に比べ路面電車の制動距離が著しく長いこと、併用軌道(※著者注:路上を道路に沿って走るレールのこと)(中略)目視により車両間の間隔を確保する方式によっていること等を勘案し、道路交通上の安全性を確保する
 ため、としています。確かに昔の路面電車は、ブレーキ性能の問題で、現在のバスなどに比べて、ブレーキをかけてから停まるまでの距離(これを「制動距離」といいます)が「著しく長い」ことが多かったでしょうから、以前はこの規制は合理性があったのでしょう。
 でも、この「根拠」をもう一度よく読んでみますと、「路上での電車の速度は40km/hまで」と決めているのに、「路面電車の制動距離が他の道路交通に比べて著しく長い」ということを大前提にしています。つまり・・・
 路面電車の制動距離が「他の道路交通に比べて著しく長く」なければ、「路上での電車の速度を40km/h以上に」してもいいよ!
 と言っているのと同じことなのです。現在のLRVはこの点についてどうでしょう。クルマ、バスなど「他の道路交通に比べて制動距離が著しく長く」なければ、LRVが道路上でも「速く」走れることが期待できる、ということなのです。
 現在のLRVは、加速・ブレーキ性能とも現在のバスに劣らないほど向上しています。もちろん、他の道路交通に比べて制動距離が著しく長い」なんてことはないのです。
 でも、LRVの加速・ブレーキ性能がいくら良いからと言っても、急発進をしたりブレーキを強くかけすぎたりすると、今度は中に乗っているお客さん特に立席のお客さんにとって危険になります。「加速・ブレーキもほどほどに」ということです。
 バスは、路線によって時速50〜60km/時のスピードで運転されています。それでもバスは、運転手さんの「目視」による運転でも他のバスやクルマ等とぶつかることがほとんどなく、なおかつ中に乗っているお客さんにも危険を及ぼすこともほとんどなく、実用上安全に運行されています。
 つまり、立席のあるバスでも、時速50〜60km/時のスピードで、我が国の公道の上で安全性に実用上問題なく運行できているのです
 ということは、LRVだって、バスとほぼ同じ程度の加速・ブレーキ性能で運行することにより、最高速度を50〜60km/時に上げたとしても安全性が確保できると考えられます。
 これで、LRVの路上における最高速度を自動車の法定速度並みに上げても実用上問題ない、と説明でき、「抜け道条文」を適用でき得るのではと思うのですが、みなさんいかがでしょうか?
 次に、電車の長さの制限についてお話ししたいと思います。先にお話ししたとおり、路上を走る電車の長さは30mまで※と決められています。この長さに設定している根拠として、また内閣の答弁書を見ると
※軌道運転規則第46条
併用軌道が道路上に施設され、他の道路交通に影響を及ぼすことから、交差点等において他の道路交通の進路に支障を来す時間が著しく長くなること等がないよう定められた
 と書いてあります。そしてそれに続いて、「併用軌道における連結車両の長さの制限は、(中略)路面電車が他の道路交通に影響を及ぼすことを考慮すれば、道路交通の円滑化を図ること等のために適切なものであると認識している」とも書いてあります。
 確かに、LRVの長さが長くなればなるほど、「他の道路交通に影響を及ぼし」て「他の道路交通の進路に支障を来す時間が著しく長くなる」というのは解るのですが・・・
 ここで、発想をちょっと変えてみましょう。LRVの長さが30mをちょっとでも越えたら、「他の道路交通に影響を及ぼし」て「他の道路交通の進路に支障を来す時間が著しく長く」なって、危険性が急に増すというのでしょうか??
 路上における電車の長さを30m以内に規制している理由が「他の道路交通の進路に支障を来す時間が著しく長く」ならないため、としているのなら、逆を言えば、「他の道路交通の進路に支障を来す時間が著しく長く」ならずに安全性が確保できる範囲内ならば「30mまで」にこだわる理由がない、と言えるのではないでしょうか?
 「著しく長い時間」とはどのくらいで、LRVの長さがどのくらいまでなら安全か、ということを一概に言うのは難しいと思います。しかし、LRVの長さが30mを越えていても周りの道路交通と実用上問題なくLRTが運営されている実例が、海外にあります。
 例を挙げると、ドイツのマンハイム市のようにLRVの長さが約40mでも街中を問題なく安全に走行しており、同じドイツのケルン市では、約30mのLRVが2組連結したもの(全長約60m!)が市街地を頻繁に走っています。
 実例は、ヨーロッパだけでなく「自動車大国」の代表と言える米国にだってあります。ロサンジェルスのLRVも、2組連結で約53mと、30mをゆうに越えても何の問題もなく運行されています。これよりももっと長いLRVが走っている都市だってあります。


 米国・ロサンジェルスのLRV。2組編成で約53mと、30mをゆうに越えているが街中を何の問題もなく走行している。ちなみに、このLRVは日本製である。

 欧米の「自動車大国」でも、「30mを越えても問題ない」実例は既に多くの都市にある。もちろん、それらの都市も仙台市など我が国の都市と同じように、道路を人やクルマやバスがたくさん行き交っている。

 そんな中でも安全に運行されているのだから、我が国にLRTを導入する場合、海外の各前例は良い「お手本」となってくれると思う。それを活かすのに必要なのは、私たちの発想の転換であろう。

写真:佐藤 茂 氏(仙台高速市電研究会)のご厚意により掲載

 色々と海外の実例を挙げましたが、ここで言いたいことは、「電車が30mより長い」ということですぐ「問題になる」と言えるのでしょうか?、ということです。
 外国のLRVは「電車の長さが30mより長いことで問題になった」という話は聞いたことがありません

 それどころか、ドイツでは併用軌道でも75mまで許している※例まであるのです。
※運輸省・建設省「路面電車活用方策検討調査報告書」(平成10年3月)

 ちなみに、我が国にだって「長い」電車が路上を走っている例はあります。それは京阪京津線という路線の電車です。


 路上を「長い」電車が走っている例。長さ約65m、JR通勤電車で言えば約3両分の長さの電車が路上を走っている。今のところ、これは「特例」となっている。でも、我が国でLRTを導入する場合、この長さと同程度でも十分安全は保たれるのではないか?
 少なくとも、「電車が30mより長い」ということは問題で電車の長さは1cmたりとも超えてはダメ、ということはないと思う。外国では実績があることだし、ドイツではこの電車より長くてもOKだし・・・

(京阪京津線・滋賀県大津市内で撮影)



 この路線は滋賀県大津市内の一部分で、電車4両約65mのまま路上を走っている例があります。これはいわゆる「路面電車」ではないのですが、我が国でも「やる気になればできる」1例ではないでしょうか。
 この京阪京津線の例は「特例」と言いますが、「長くても問題がない」ということが実証され、我が国の「本格的LRT」導入時にいい材料になってくれることを祈っています。
 ドイツだって米国だって、そして我が国ニッポンだって、街中の道路ではたくさんの人やクルマやバス等が行き交っているという現象がおこっているのは全く同じです。そんな中を、「30mより長い」LRVと他の交通が問題なく「共存」できている例が海外にたくさんあるのです。
 このことからすると、少なくとも「外国ではLRVを30mより長くできても、仙台など我が国の都市ではムリ」ということは言えない、と思うのですがみなさんはいかがでしょうか?




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