「古い手縄」からの「縄抜け」は、できるっ!(2)






 前の項では、LRVの路上での最高速度・車両の最大長について、私なりの「縄抜け術」の様なものを思いつくままにお話ししてみましたが、いかがでしょうか? もっと良い「縄抜け術」を思いつかれた方はお知らせ下されば幸いです。
 でも、お話ししなければならない「古い手縄」からの「縄抜け術」はまだあります。もうちょっとがんばって行きましょう。
 さてお次は、よく問題になるLRVの「登坂性能」についてお話ししたいと思います。仙台市内では、「LRTは急坂が苦手なので『東西線』への導入はムリ」という声がしばしば聞かれますが、それは技術的にも法的にもホントとは言えません。それを今からお話ししたいと思います。
 まずは技術的な面から見ていきたいと思います。海外のLRVは80〜110/1000の急坂を安全上問題なく登り降りしており、登坂性能については技術がかなり確立しています。
 もちろん、ただ登り降りするだけではなく、坂の途中で停止したときにも最発車できるだけの能力もあります。それができなければ危険ですので、もし坂の途中で最発車ができなければ、いくらLRTが普及している欧米といえども運営の認可が下りていないはずです。
 でもこう聞くと、「我が国の鉄道は急坂もクリアできないほど技術が遅れているの?」と言う声もあるかも知れません。でも待って下さい。我が国は山が多いので、厳しい地形を克服している鉄道の例は、意外に多いんです。
 有名なのは、「長野行新幹線」の開業と共に平成9年9月で廃止になったJR信越本線の横川〜軽井沢間の「碓氷峠」が代表的でしょう。今はもう見ることができませんが、距離は11.2km、区間の最大勾配は66.7/1000と、かなりの急坂路線でした。
 この区間は、JR線では最も急な路線でした。坂がかなり急なために、普通の特急電車などは単独では登り降りできないため、その区間専用の電気機関車に補助してもらって通過していました。その電気機関車は、急坂にも対応できるように高出力で、ブレーキも急坂に対応できる特殊なものを採用していました。
 私も一度乗ったことがあるのですが、線路を見上げるとゾッとするくらい急だ、という印象がありました。「碓氷峠」の列車にお乗りになった経験のある方も同じ印象をお持ちの方も多いかと思います。
 電気機関車と特急電車、合わせて約500トンもの「鉄のかたまり」が高速道路よりも急な坂を、何の問題もなく登り降りしているのです。私の知る限り、急坂を登り降りすることで大きな事故や問題が起こったという話は聞いたことがありません。よくよく考えてみれば、スゴいことやってたんだなーー
 「急坂の実例」はこれだけではありません。先にも触れましたが、神奈川県にある「あじさい電車」で有名な「箱根登山鉄道」では、なんとタネも仕掛けもない普通のレールで最大80/1000もの急坂(我が国の普通鉄道では最も急な勾配)を平気で登り降りしています。
 こちらの路線で使われている電車はJRの電車よりも小振りで身軽なものになっており、サイズ的にLRVに近くなっています。もちろん、この路線も何ら問題なく運営されています。
 地形の険しい我が国では、これらの例をはじめ急坂を克服している例は少なくありません。技術的には我が国でも、タネも仕掛けもない普通鉄道でも急坂を登る技術は大分以前から確立されており、技術的には実用上問題がないと言えます。
 (左)現在はもう運行されていないJR信越本線の横川〜軽井沢間「碓氷峠」。写真は「碓氷峠」廃止前の横川駅の模様。「碓氷峠」は、急勾配(最大勾配66.7/1000)が連続していた区間であり、特急電車単独では越えられなかったため、「碓氷峠」専用の電気機関車(EF63型)が補助していた。

 特急電車と電気機関車、合計で数百トンもの「鉄のかたまり」が高速道路よりも急な坂を、安全上問題なく登り降りをしていた。

 (右)神奈川県にある「箱根登山鉄道」の車両。車両のサイズはJRの電車より小振りで、サイズ的にLRVに近くなっている。この車両は、普通鉄道ではあるが、80/1000もの急勾配を何の問題もなく登り降りしている。

 これらの例をはじめ、LRTと同じ走行方式を持つ普通鉄道でも急勾配を克服している例は、急峻な地形を走行する我が国の鉄道において少なくない。普通鉄道の登坂技術のレベルは高いと言えよう。

 (右写真):佐藤 茂 氏(仙台高速市電研究会)の御厚意により掲載。

 では、次に、よく問題にされている法的な問題点から見ていきたいと思います。
 先にお話ししたとおり、LRTなどの「軌道線」の勾配については「最高で40/1000まで、特殊な箇所については67/1000まで」※と規定されています。この中で、但し書きの「特殊な箇所」について、先の内閣の答弁書では・・・
※軌道建設規程第16条
 「橋りょう取付部等の特殊な箇所における勾配を対象としたものであり、短い区間を想定したものである。
 と見解しています。さらに「仮にこれを全線に適用した場合には、車両に連続して過大な負担を課すこととなり、連続した勾配における登坂等に支障を来す恐れがあることから、(中略)現在の基準を御指摘のように同項ただし書きの規定によらず、最大60/1000※とすることは適切でない」とあります。
※著者注:質問者は、現在の基準を一般市街道路の最大勾配とされている60/1000に引き上げる事の是非を質問したので、それに対する返答として記載されています。
 そうかぁ、「比較的急な坂」を造れる箇所は、「橋りょう取付部等の特殊な箇所」で、「短い区間を想定」していて、「全線には適用できない」のかぁ・・・
 と、ここであきらめてしまっては、「仙台東西線」など勾配が問題になっている路線へのLRT導入は、難しくなってしまいます。うーーん、なんとかならんものか・・・ そこで、もう一度上の文章を読み返してみましょう。そうすると、あれれぇ・・・
 まず、「特殊な箇所」を「橋りょう取付部等」と見解していますが、ここで「」という文字に御注目下さい。これは何を意味するか、そう・・・
「橋りょう取付部」に限定していない
 ということです。答弁書には、「『橋の取付部以外の他の部位』には適用できない」などとはどこにも書かれていません。ということは、「『特殊な箇所』と判断できる箇所ならば場所を問わない」とも解釈できる、ということです。
 でも、いくら「特殊な箇所なら場所を問わない」といっても、LRVに過大な負担がかかりすぎないように「短い区間」を想定している、とクギを刺しているとも答弁書の見解から読みとれます。
 ところで、その「短い区間」とはどのくらい短い区間のことを指すのでしょうか?どこを見ても、「何mまで」「何kmまで」などという具体的な距離は書いてありません。それに
仮にこれ(最高勾配67/1000)を全線に適用した場合は、車両に連続して(中略)登坂等に支障を来す恐れがあることから(中略)但し書きの規定によらず、最大60/1000とすることは適切でない
 という記載は、「『全線』に適用した場合は不適切」と解釈できます。しかし、「仙台東西線」をはじめほとんどの路線は、急坂が問題となっているのは・・・
「全線」ではなく、むしろ路線全体から見ると「短い区間」
 と解釈できます。路線の始めから終わりまでずーーっと「全線」に「但し書き67/1000」を適用するわけではないのですから、「但し書き」適用の可能性がある、ということです。
 それに「仙台東西線」計画の場合、「路線の一番急なところ(仙台駅の西約3kmにある「青葉山」区域)で 60/1000」というデータ※が既に示されています。法規の但し書きの67/1000よりもゆるいのです。
※高橋秀道・仙台市都市整備局総合交通政策部長:平成11年7月17日「仙台高速市電研究会」主催定例会内での発言
 つまり、「青葉山」区域は高低差があると言われている「特殊な箇所」であり、その区間は路線全体から見ると「短い区間」であって決して「全線」ではありませんから、「答弁書」の文章から、勾配が大きな問題になっている「仙台東西線」においても「但し書き67/1000」は適用可能と解釈できます。つまり・・・
 「『仙台東西線』では法的に急勾配が設定できないからLRTはムリ」ということはない
 ということになります。もちろん、「抜け道条文」を使えば、安全性が確保できる範囲でもっと急坂な設定ができることも期待できるのは、言うまでもありません。
 仙台市の航空写真。「仙台東西線」の路線として候補に挙がっているのは上の黄色い線。このルート案については、利便性について問題視する声が多いにもかかわらず仙台市側は「変更の考えはない」とのこと。「実際の利用者」のための計画であるから、もっと「市民の声」を反映させていくのは当然のことであろう。

 ここではそれはさておき、この計画への「LRT導入論」が議論される際、「『青葉山』区域の急坂が問題になるからLRTができない」旨の「情報」が市側から出されるときがある。しかし、今までお話しした事項を考えれば、技術的にも法的にもそんなことはない、と言える。

 ということは、このまま「LRTは急坂が問題だから『東西線』には導入できない」という「情報」を流し続けることは、LRT等普通鉄道の登坂技術の現状を隠すことになり、そして「軌道建設規程」の「抜け道条文」適用の可能性をもむざむざと殺していることになる。みなさんは、この現状をどう解釈されますか?・・・

 写真出典:「仙台市政だより」1998年11月号 P4〜5 より抜粋し、一部を加工


 この項では、しばしば問題にされる「LRTの急坂問題」は、「仙台東西線」の場合も技術的に問題はなく、法的にも、法規の「抜け道」、いや、この場合は「抜け道」によらなくても「LRTの急坂問題」は解決できるだろう事をお話ししました。みなさんいかがでしょうか?
 えっ?「さっきも今も、言葉の解釈の連続だから読んでいるのが疲れた」ですって? ええ、解ります。その気持ち。こうやってお話ししている私も疲れてきました。「連続した負荷がかかる」というのは、疲れるものです。お互いに。
 でも、私は行政のことは全くの素人なのですが、「解釈運用」って、こういうことを言うのではないでしょうか?「霞ヶ関」のお役人の方々は、政策を実行するために「解釈運用」に日々しのぎを削っている、なんて話を聞いたことがあります。
 これだけの話をするだけでも結構疲れますから、「霞ヶ関」のお役人の方々の御苦労ぶりはどれほどのものでしょうか、図りかねます。でも、世の中を少しでもよい方向に向かうための「解釈運用」はドンドンやっていただきたいと思います。がんばって下さい。
 今までお話ししたように、LRTが導入されるときにしばしば問題とされる「法的問題」も、LRT導入の妥当性や安全性が合理的に説明されれば、LRT導入の可能性が期待できると考えられる、ということをお話ししました。もっと素晴らしい「縄抜け術」を思いつかれた方は、御教示下さればと思います。
 しかも、内閣「答弁書」の内容を見ると、国はLRT導入に前向きなのが解ります。それは何かと言いますと・・・
**********疲れた方はお休みタイム**********
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