「古い決まり事」は、意外に「やわらか」






 さて、一休みしたところでお話を続けましょう。先の内閣の「答弁書」は、国がLRT導入に関して前向きな姿勢である、ということをこれからお話ししたいと思います。その前にお話ししておきたいことがあります。
 よく、「27m幅以上の道路で無いと路面に軌道が敷けない」と言う声を聞くことがあります。中には「路上に軌道を敷きたいのだが道路幅が27mもないからダメなんだよな」というような声まで聞かれることがあります。
 この法的根拠の質問に対し、「答弁書」の答えは・・・
 「LRT導入には道幅が27m以上必要であるとの説」については、承知しておらず、「27mと言われる根拠」について見解を示すことはできない。
・・・つまり、いわゆる「27m説」には法的根拠がないということを示しているに等しいのです。
 「せまい道路」に軌道が通っている。これは海外ではない、我が国の広島市の写真である。この道路はどう見ても「27mもある」ようには見えない。

 我が国でも「せまい道路」を電車が走っている実例があるのである。もしこの電車に乗っている数十人〜数百人の乗客をクルマに分乗させて、仮に軌道を撤去してこの道路を走らせたら結果はどうなるか? ヒントはパート1を御参照されたい。

 この写真は、「路上を走る電車」は、軌道を設置する道路の種別により条件が細かく決められているとは言え、「せまい道路」への軌道施設・走行が法的にも可能で、かつ独自の利点によって集客力を高めることで「客」を引きつけ、その結果「人」を運ぶのに必要な道路空間をずっとコンパクトにできる、という事をしめす好例と言えよう。

 LRTはじめ「路上を走る電車」がもつ特長を十分に発揮できるために、更なる公的援助が求められる。
(広島市内で撮影)

 軌道を敷く道路の条件は、その道路の種別により細かく決められています※が、それを見ても、LRT軌道を敷くのに必ずしも「道路幅が27m以上なければならない」とは書いていないのです。それに、「抜け道条文」だって使える可能性もありますし。
※軌道建設規程第8条・第9条
 なーんだ、軌道を敷く道路の条件は言われているほど「がんじがらめ」でもないじゃないですか?
 仙台市郊外の新興住宅地内を走る道路。この道路では路線バスが運行されている。「道路の種別によっては10m程度の道路でも路線が敷ける」というのなら、この類の道路には軌道を敷けないのだろうか?

 「道路」とは「車道」も「歩道」も意味する。だからこの「道路」の幅は約10mである。LRT路線の開通後、この道路は、この道路経由でないと目的地に行けない車両・沿線住宅に用務がある各種車両・路線バスを除く車両の通行は、原則として厳しく制限するようにする。

 もちろん、車道と歩道が分かれているから、歩行者・自転車の安全性は確保できる。路線バスの運行実績があるから、それと同程度の走行性能・それ以上の静粛性をもつLRVが走行しても実用上問題ないと考えられる。

 住宅地は人口密度が低いことが少なくないので集客力が問題となるかも知れないが、仙台市のように各所に新興住宅地が点在している形態の都市では、部分的にこのような考え方を取り入れても良いのではないか。もちろん、LRTの利便性向上に注意を払わなければ集客力が望めないのは、言うまでもない。

 沿線住民の人にとってもメリットが大きいのではないか?中心部等とのアクセスはラクになるだろうし、道路には余計なクルマが走らなくて済むだろうし・・・

 つまり、ここで言いたいことは、「LRTの軌道は広い道路でないとできない」ということはない、ということです。都市交通を考える上では、「場所くい」であるクルマからLRT等の公共交通機関にどうやって「お客様に喜んで乗り換えていただくか」という観点からいろいろ考えていく必要があるのは、言うまでもありません。
 えっ?「『軌道法』って、道路を走る路面電車のための法律だから、外国のLRTみたいに地下や高架や専用線も走るようにできるの?」ですって? では、これをご覧下さい。
 (左)大阪市営地下鉄・長堀鶴見緑地線。大阪市営地下鉄は、都市計画道路と一体となって整備する、という観点から全線が「軌道法」の適用を受けている。

 (中)新交通システム「ゆりかもめ」、(右)新交通システム「広島アストラムライン」。これらの路線は主に高架線を走っているが、「軌道法」部分と「鉄道事業法」部分が混在している。

 また、路上軌道・高架・地下線等を組み合わせて活用することは制度的に可能である旨の見解が内閣「答弁書」に記されている。

 つまり、LRTに高架・地下線等を走らせる場合も同じく「軌道法」で対処可能と考えられる。  

 上の写真の路線はいずれも、全線または一部が「軌道法」の適用を受けています。「道路を走る軌道」を主な対象にしている「軌道法」は、道路「上」だけではなく道路の「上の空間」や「地下」を走る路線も対象にしています。
 つまり、LRTが「軌道法」の適用を受けるからと言って、「高架・地下線ができない」ということはないのです。それどころか、「路上軌道・高架・地下線等を組み合わせて活用することは制度的に可能である」旨の見解が内閣「答弁書」に記されているくらいです。
 もちろん、補助金が出るとは言っても「高架・地下線」は建設費が路上軌道よりずっとかかりますから、どこを「高架・地下線」にするかは慎重に検討する必要があります。
 また、「軌道法」路線が「道路」以外の部分を走っている実例もあります。その1例は下に挙げる路線です。
 都電荒川線。この路線は、全線が「軌道法」の適用を受けているが、併用軌道部分(左)と専用軌道部分(右)が混在している。

 「軌道法」路線は「道路」以外の部分を走ることはまかりならん、ということはないことを示す好例と言えよう。「軌道法等の法規は事案に応じ適切な運用を行っている」旨の見解が内閣「答弁書」で示されているので、柔軟な運用が期待できると言えよう。

 上に挙げる路線「都電荒川線」は、全線「軌道法」が適用されていますが、「道路」を走っていない専用軌道の部分も多く見られます。また、全線「軌道法」が適用されていながら「道路」を走ることがなく、全線専用軌道である例もあります。(東急世田谷線)
 「軌道法及び同法に基づく命令については、事案に応じた適切な運用を行っている」と内閣「答弁書」にありますが、その「お言葉」は、「『抜け道条文』という軌道法等に基づく命令も、事案に応じた適切な運用を行いますよ」と言っているに等しいのです。
 カタカナ混じりの「古い決まり事」って、意外に「やわらか」なんだなーー ビックリしちゃった。




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