「エール」を活かすのは私たち






 今までお話しした中からでも、我が国の政治の最高責任者である内閣総理大臣名義で出されている「答弁書」(内閣参質一四五第二八号:「官報」号外平成11年10月12日号P12)は、LRT等路面電車についてかなり前向きに捉えていることがお解りかと思います。この「国からのエール」と言える見解は、他に次のような「エール」も私たちに送っています。
  • 「トランジットモールについては、中心市街地の活性化、道路空間の再構築等の観点から、近年、その重要性を認識し、導入のための検討を進めている。」

  • 「LRTを含む路面電車のための補助制度として、運輸省においては低床式車両の導入等のための近代化補助、建設省においては路面電車走行区間改築事業及び都心交通改善事業を実施している」
 と、トランジットモールやLRTに関する各種補助制度についても前向きな姿勢であることが分かります。そして、この「答弁書」のトドメと言える「お言葉」は・・・
「今後とも御指摘のLRTを含む路面電車の整備の促進を図ってまいりたい」
 で閉めくくっています。「法規でLRTができない」どころか、我が国の政府もLRTには前向きじゃないですかぁーー!! おどろきだーー
 ちなみに、LRTに対して前向きなのは政府だけではありません。LRT等「路面電車」に関係する運輸省や建設省も右に同じです。
 「答弁書」が出される前から、両省庁が共同で「路面電車活用方策検討調査報告書」(平成10年3月)を作成して、その中でLRTをしっかり研究していたのです。この報告では、諸外国のLRT事例などからLRTをこれからどう整備・位置づけるか、今の段階では導入するには何が問題なのかが綴られています。
 運輸省は「平成10年度運輸白書」の中で、LRTについて、

     
  • 「欧米の各都市において、都市内の交通渋滞緩和やこれに伴う環境問題の解消を図る上で有効な公共交通機関として導入されている」  
  • 「加速・減速時の低騒音や低振動などの優れた特性を有している」  
  • 「大規模な駅施設や垂直移動施設も不要であるためコスト面からも優れており、高齢者・障害者にとっての利便性が高く」  
  • 「我が国においても、新しい公共交通システムとして多くの都市への導入が期待されている。」

と高い評価をしています。

 「宣伝」なら建設省だって負けちゃいません。建設省では、「路面電車の活用に向けて」という パンフレットを発行しており、その中で、LRT等路面電車の輸送能力や、クルマから路面電車への乗り換えを促進することで道路渋滞を減らす、という「効能」等が綴られています。
 「霞ヶ関」のお役人さんはきちんと「外の世界」を見ているんだ。これらの「エール」を受け止めて、LRTが便利で合理的な形に育って、私たちの住む街が便利になるように期待しています。
 大拍手〜っ!
 (左)「平成10年度運輸白書」(運輸省編集)の表紙。表紙を、熊本市交通局が新規導入したLRVが凛々しく飾っている。
 運輸省は同書の中で、LRTについて、低コスト・静粛性・「バリアフリー性」について高い評価をしており、欧米では、交通・環境問題を解決するために有効な手段として導入されていることなどを紹介している。

 (中)建設省パンフレット「路面電車の活用に向けて」表紙。この中で、LRT等路面電車の輸送力(右上、「仙台東西線」の予想需要より大きい!)やクルマから路面電車への乗り換えを促進することで道路渋滞を減らす、という「効能」(右下)等が綴られている。「霞ヶ関」のみなさんは、ちゃーんとお解りなのだ。

 これらを見ても分かるとおり、LRTへの前向きな認識は我が国でも徐々に高まっている。この気運が広まり、「使いやすさ」で欧米に負けないLRTが我が国でも普及して欲しいものである。

 もちろん、「仙台東西線」をはじめ「杜の都」にも・・・

 そのような方々に今更申し上げていいのかは分かりませんが、質問です。今までのような、運営事業者が独自の収入だけで運営費や設備投資費をまかなおうとする制度(これを「独立採算制」という)では運営に限界があるでしょうから、欧米のように建設費などを手厚く保護するなど補助政策を更に進めることも必要なのではないでしょうか
 これからは、公共交通は、金を稼ぐ手段である「事業」という考えでなく、道路や下水道、公園などと同じように、街の中の「装置」(インフラ)としてとらえる必要があるのではないでしょうか?
 今までのような事業者任せでは負担があまりにも大きくて設備投資もままならないでしょう。このままでは諸外国のような公共交通の発達はないと思います。
 また、地方の中〜大都市の場合は、大金をかけて広い幅の道路を整備するより、LRTなど「都市の『器』に見合った」な交通機関を中心にカネをかけた方が、結果として都市交通対策にかかるコストも使用スペースも小さくて済んで、高いサービスを提供できるような気がするのですが・・・
 国家財政が苦しい折り、地方都市にカネのかかる地下鉄などをこれ以上増やすのは問題ではないでしょうか?
 と、話は少しそれましたが、LRTの「良さ」が我が国でも国家レベルで認識されていることがお解りかと思います。
 この「国からのエール」を活かすのは、私たち市民や地方行政のやる気の問題でしょう。LRTは使いようにより「客」をクルマから奪還できる可能性が充分にあると思います。乗り降りがラクで、建設費が安いから運賃が安くできて、路上ではクルマより優先通行するからクルマより速くできて・・・
 「公共交通機関がクルマより便利に」なる環境づくりは、(ある程度強引に行っても)「クルマ中心主義による弊害」からの脱却に絶対に不可欠な条件でしょう。
 もちろん、こう言うと、「クルマが不便になるからできない」と言う声があるでしょうが、「クルマ中心主義」で今まで来た結果が、私たちの目の前に今あるたくさんの大きな弊害でしょう。
 今まで長い間、我が国そして私たち住民は、「クルマを徹底的に便利にする街づくり」の発想で来ました。ところが、その方向では一向に改善の兆しが見えてきません。物理的に限界がある理由は、パート1でお話ししたとおりです。
 欧米では『都市交通を考える上では、「クルマ中心主義」は限界』と言う言葉は常識で、イロイロと公共交通機関に乗り換えさせる政策を行って久しくなっています。
 と言っても、我が国では、『「クルマ中心主義」からの脱却』をすぐにたくさんの人に理解してもらうのは今のところは難しいでしょう。『「クルマ」=「常に最も便利」』の公式が頭の中にベッタリとこびりついている人は、未だに少なくないでしょうから・・・
 でも、LRTの実現までには難しいことが少なくないかとは思いますが、「無理」ではないのです。「難しい」から「無理」などと言って、便利なシステムをみすみす捨てることがあれば、ナンセンスだと思います。
 第一、ここまで「宣伝」をやっちゃっている「霞ヶ関」のお役人の方々が、「古い法規があるからLRTはダメ!」なんてムゲに突っぱねたりするでしょうか?「何でもあり」とまでは行かなくとも、LRT導入・運営の妥当性や周囲交通との安全性を合理的に説明できれば、実現のめどがあるのです。
 その説得には努力が必要とは思いますが、そんな努力もなく、「何倍も高くて不便な買い物」の選択肢しかないと言い切ってしまうのは、あまりにも理不尽な話です。
 今まで挙げた項目はいずれも、外国ではかなり確立された技術ばかりです。ですから、我が国のようなハイテク先進国でできないはずはないと思います。
 ここでも我が国は欧米に遅れをとっているのが現状ですが、逆を言うと、欧米には「お手本」がたくさんあるわけですから、それらを活かさない手はないと思います。いろいろ工夫して「お客様に喜んで乗っていただける」「クルマから乗り換えたくなる」公共交通の一手段としてのLRTを、みんなで考えていきましょう。
 えっ?「『抜け道条文』って、言ってみれば『特別扱い』なんだから、『特別扱い』をアテにしたLRT計画なんて、できるの?」ですって?
 言われてみれば、一見そんな感じもします。でも、「抜け道条文」を使って「特別扱い」してもらっている鉄道の例って、以外にあちこちで見られるんですよ。それを次にお話ししましょう。




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