どこにでもある「特別扱い」






 『どこにでもある「特別扱い」』・・・なんてタイトルを見て、「いったいどういうことなの?」なんておっしゃる方もいらっしゃるかと思います。
 『「抜け道条文」を使った「特別扱い」』と聞くと、一見よっぽどのことのように思われるのですが、鉄道建設では、この「特別扱い」を受けている実例が多く見られているのです。ここではそれについてお話ししたいと思います。
 海外のLRTと同じようなLRT路線を我が国で計画・建設する時、「路上を走る電車」の「時速40km/hまで、長さ30mまで、勾配40(67)/1000まで」という「手縄」が持ち出されることがあります。
 言い換えれば、これらの「手縄」を外そうとするときは、法規中の「抜け道条文」を使う「特別扱い」をしてもらわなければならない、ということになります。
 しばしば、『「抜け道条文」をアテにしたLRT計画はできない』という声が聞かれることがあります。仙台市が「仙台東西線」の機種などの検討を委託している「東西線機種等検討委員会」という会の座長の先生も・・・
最初から特例を当てにするわけにはいかない

※稲村肇・東北大大学院教授の発言:河北新報H12.1.16記事より
 と、『LRT計画では「特別扱い」してもらうことをアテにできない』旨のことをおっしゃっています。でも、「抜け道条文」という「特別扱い」は、本当にアテにはできないのでしょうか?
 先にお話ししたとおり、JR線はじめ大部分の私鉄や地下鉄等の路線の「鉄道」は、「鉄道事業法」という法律の管轄になっています。この法律の中には、次のような条文があります。
鉄道線路は、(中略)道路に敷設してはならない

※鉄道事業法第61条より抜粋
 この条文を見ると、『当たり前でしょ。JR線や私鉄線ほどの「長い電車」が道路を走れるわけないんだから』とおっしゃる方が多いと思います。確かに、当たり前といえば当たり前なのですが・・・
 しかし、ここでひとつ注目すべきことがあります。それは、ここで言う「道路」というのは「路上」に限らない、ということです。つまり、ここで言う「道路」とは、「道路の上の空間」や「道路の地下の部分」をも指しているのです。つまりこの条文は・・・
鉄道線路は、道路上の空間や道路の地下の部分にも造ってはいけません
 と言っているのと同じことになります。もしこの条文が厳密に当てはめられたとしたら、どういうことになるのでしょうか?
 我が国の地下鉄の大半は、「鉄道事業法」によって建設・運営されています。「仙台市営地下鉄南北線」もそのひとつです。
 「仙台地下鉄南北線」はじめ我が国の地下鉄路線の大半は、道路の真下を通っています。つまり、「鉄道路線」が「道路の地下」に造られている、ということになります。ということは、このままでは・・・
道路の地下を走っている地下鉄は、みんな「法律違反」になってしまう
 
 ことになります。「法律違反」ならば、即刻営業停止です。「法律違反」の鉄道路線には、電車を走らせることができないからです。そうなれば困りものです。どうしたらいいのでしょう?
 でもご安心下さい。「鉄道事業法」のなかにも、「抜け道条文」がちゃ〜んとあるのです。それは・・・
ただし、やむを得ない理由がある場合において、建設大臣の許可を受けたときは、この限りでない

※鉄道事業法第61条より抜粋
です。「抜け道条文」を使う「特別扱い」を受けているおかげで、「仙台地下鉄南北線」はじめ「道路の地下の部分」を走る「鉄道事業法」を受けている全国の地下鉄は、「法律違反」にならずに済んでいるのです。めでたし、めでたし。
 ところで、「やむを得ない理由」って、いったいなんでしょう?「やむを得ない理由」がなければ道路の下に地下鉄を造れない、という言葉を厳密に守ろうとすれば、よほどのことがない限り「道路の下に地下鉄を造る」ことができなくなる、ということになります。でも、実際はどうでしょう?
 仙台市営地下鉄南北線。

 この路線は「鉄道事業法」の管轄下にあり、路線の大半は「道路の地下の部分」を通っている。この路線に限らず、「鉄道事業法」管轄下の路線の大半の部分もやはり「道路の地下の部分」を通っている。

もし「鉄道事業法」中の「例外規定」を使うという「特別扱い」がなければ、これらの路線は全て「法律違反」となって即営業停止、ということになる。

しかし、「南北線」はじめ全国の「道路の地下の部分」を走る沢山の地下鉄路線は、「特別扱い」のおかげで「法律違反」にならずに済んでいる。「特別扱い」は、鉄道建設の世界では多く見られることの実例である。

 仙台市の航空写真。「仙台東西線」の路線として候補に挙がっているのは上の黄色い線。

 この路線の大半も「道路」を通っている。例え「リニア地下鉄」でこの路線を建設するとしても、「鉄道事業法」中の「例外規定」を当てにしなければ、道路の地下の部分には1mたりとも路線を造れないことになってしまう。現在の仙台市「東西線」案でも、やはり法規中の「例外規定」適用が前提となるのである。

 しばしば、『海外並みのLRTを計画するには、法規の「例外規定」を当てにしなければならないので非現実的』という声がある。しかし、地下鉄を道路の下に造るにしても、どのみち法規の「例外規定」を当てにしなければならないのである。

 つまり、同じ「例外規定」を適用するのに、地下鉄ならば可能だがLRTでは無理、と言っているのと同じことである。「法の下の平等」が大前提の我が国において、この声は正当たり得るものであろうか?

 写真出典:「仙台市政だより」1998年11月号 P4〜5 より抜粋し、一部を加工

 「地下鉄南北線」はじめ我が国の地下鉄の大半は「道路の地下の部分」を通っています。つまり、これらのような路線を計画するためには、「鉄道事業法」の中の「抜け道条文」を使う「特別扱い」を受けることをアテにしなければ絶対にできない、ということができます。
 現在仙台市が計画している「東西線」も、大半の部分が「道路」を通っています。つまり、今の「東西線」計画だって、「鉄道事業法」の中の「抜け道条文」を使うという「特別扱い」をアテにしなければ、計画すらできないのです。
 以上からお話ししたいことは、「特別扱い」をアテにしている実例は鉄道建設の世界では多い、ということなのです。ちょっと難しい話かもしれませんが、お解りいただけましたでしょうか?
 しばしば、『海外並みのLRTを計画するには、法規の「抜け道条文」を使う「特別扱い」をアテにしなければならないのでそんなことは非現実的だ』という声が聞かれます。しかし、この声は・・・
同じ「抜け道条文」という「特別扱い」を受けるのに、地下鉄ならばOKだけどLRTはダメ!
 と言っているのと同じことなのです。「法の下の平等」が大前提の我が国です。そんな中では、この声というのは正しいのでしょうか??「あっちはOKだけどこっちはダメ」というのは、『「法の下の平等」に反している』と言えるのではないでしょうか?
 今までお話ししたことから、「法の下の平等」が保証されている我が国では、「抜け道条文」を使う「特別扱い」をアテにしたLRT計画もできる、と言えます。「特別扱い」の前例はたくさんあるわけですから・・・
 ですから、「仙台東西線」でも、「特別扱い」をアテにしたLRT計画を心おきなく行っていただきたいと思います。もちろん、ルートと言い運賃と言い「お客様にとって使いやすい形で」計画を立てなければならないのは、言うまでもありませんが・・・
 ・・・と言っている間に、このニッポンでも「路上を走る電車」にかかっている「今までの古い考え」に、少しづつ「ヒビ」が入りつつあります。そんな動きを次にご紹介しましょう。




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