「古い考え」に入るヒビ






 ここまでお読みになったみなさんは、「『規制の壁』があるからLRTはムリ」ということはなく、むしろ政府・運輸省・建設省はLRTに前向きであることがお解りかと思います。
 それに、このニッポンでも、「路上を走る電車」にかかっている「古い考え」に、少しづつ「ヒビ」が入りつつあります。そんな動きをご紹介しましょう。
 下の写真は、平成11年6月より広島電鉄で運転を開始したLRVです。「路面電車は古い」というイメージをブチこわしてくれるほどカッコいいスタイルのこの電車、「型破り」なのはこのカッコいいスタイルだけではありません。
 平成11年6月より広島電鉄で運転を開始したLRV「グリーンムーバー」。これら2枚の写真は納入された時のもの。この車両は、ドイツの大手総合電機メーカーで製造された。

 我が国では、この斬新なデザイン故「型破りな路面電車」として大きな注目を浴びているが、「型破り」なのはデザインだけではない。我が国の「路上を走る電車」にかかっている「規制の壁」に風穴を開けるきっかけのひとつになっているのだ。

写真提供:元山 康夫 氏

 もしみなさんの街にこんなスマートな電車が路上などを走っているとすれば、どうでしょう? 「乗ってみたいなぁ」って思いません? ここまでカッコ良くなれば、「乗ってみたいなぁ」って思うのは鉄道好きの人に限らないと思うのですが・・・
 さて、この電車、デザイン以外にどんな風に「型破り」なのでしょうか? ここではそれをお話ししたいと思います。
 まず、「この車両の購入費の一部に国の補助金※が充てられている」ということです。このことは、一見大したことがないようで実は大きな進歩なのです。
※平成10年度鉄道軌道近代化設備整備費補助金制度:運輸省
 地下鉄やモノレール、新交通システムなどの公共交通機関を整備するとき、ある一定の割合まで国の補助金がつきます。しかし、「路上を走る電車」に関してつい最近までは、昭和40年代〜昭和50年代に「クルマのジャマ」ということで冷遇していた政策の継続によって補助金が充てられていませんでした。
 しかし「路上を走る電車」を廃止した都市では、渋滞が良くなるどころか逆にひどくなってしまいました。仙台市とてその例外ではありません。「場所くい虫」であるクルマに道路を明け渡したところで状況が改善できない理屈は、パート1でお話ししたとおりです。
 そこで、最近になって、「利用するお客様」にとって便利な「路上を走る電車」の有用性が見直されるようになりました。この「補助金制度」は、そんな「見直し」の流れの表れです。いままでの方針の大転換という「型破り」な動きが、この国でももう見られているのです。
 また、規制の面でも「型破り」が見られます。「規制」に対する「型破り」、それは何かと言いますと・・・
 広島電鉄のLRV「グリーンムーバー」。(営業運転前の写真で、フィルムにて車体がコーティングされている)

 この車両の「型破り」は、車両構造上の規制の面でも見られている。本来は「路上を走る電車」の最大長は原則30mとされていたが、この車両はこの点でも「型破り」である。

 この車両の長さは30mを越しており、なんと、「規制の壁」を見事に破っている。合理的な「規制緩和」の流れのひとつとして、高く評価したい。

写真提供:元山 康夫 氏

 この車両の公開されている仕様を見ると、車体の長さは30.52mです。ここで何かに気づきません? そう・・・
 前の項でお話ししたことを思い出してみて下さい。『「路上を走る電車」の最大長は原則30m』でしたね。ということは・・・
 「規制」よりも、な、なんと52cm も長いじゃないですかぁ!
 「規制の壁」破れたり!、といったところでしょうか? 
 しかも、平成11年6月4日に愛知県豊橋市で行われた「路面電車サミット」で、運輸省の方がこの「規制緩和」を「前例とする」とのこと※です。
※白取 健治・運輸省鉄道局技術企画課長の発言
 つまり、「後発が出てきたら認めますよ!」ということです。わずか52cm とはいえ、「古い規制」の打破には決して小さくない一歩と言えるでしょう。

 世の中のこの流れに、大拍手〜ぅ!!

 以上、「路上を走る電車」を見直す世の中の動きの一例を紹介いたしました。この動きを高く評価したいと思います。我が国でも、「路上を走る電車」に関して現在これだけの動きがあるだけでなく、国のレベルでもLRTを評価して「エール」を送っているのです。
 そこへ来て、我が「杜の都」を振り返って見てみると・・・
 この「エール」に答えようとする動きさえ、今のところは認められず、「法規制が厳しいから『東西線』にLRTはムリ」を繰り返しています。なぜなのでしょう? 輸送力、使いやすさ、低コストから考えると、LRTこそ「杜の都」にふさわしい交通機関と思うのですが・・・
 世の中の動きが少しづつ「LRT賛成」に動きつつある今、我が「政令指定都市」「百万都市」こそ、「古い規制」に風穴を開ける「大きな原動力」があると思うのですが、それがほとんど発揮されていない現状、非常にもったいないと思います。ここまでつき合って下さったみなさん、そう思いません?
 官民レベルでLRTの良さが理解され、我が国でも10年後は「エール」に応えて、欧米に負けないすばらしいLRTがあちこちの都市で活躍している可能性があると思います。
 目まぐるしい変化のこの世の中、10年後の日本なんて誰も予測できないし、それに、今の段階ですでに、上にお話ししたような「壁破り」の動きが見られているわけですから・・・
 こんな世の中の動きに目をやらず、「エール」にも応えようともせず、現在の候補のまま「リニア地下鉄」で「仙台東西線」を造ったとしたら、次のような話になるのでは・・・?
 莫大なカネをかけて、しかも工期が延びていつできるか分からなくなりながらも、健気にトンネルを掘り続けている「杜の都」。他の都市からは「まだ掘ってんの?」「いつできるの?」「いくら(カネを)かければできるの?」の笑い声・・・
 悪夢だ。愛する「杜の都」のためにも、そんな悪夢だけは絶対に避けたい。こう思うのは私ひとりでしょうか?




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