「短い電車」は「小さな巨人」





 我が国の「古い決まり事」は一見「がんじがらめ」であるかのように見えますが、実は「抜け道」条文をうまく使えば、LRT実現への道が開けてくるほど「やわらか」であることがお解りいただいたでしょうか。
 幸い、欧米をはじめ諸外国には良い「お手本」がありますから、それらも参考に入れた上で「お客様に喜ばれる足」をみんなで考えていきましょう。
 ここまでお話になっても、まだ「『基幹』交通にするにはどうも・・・」という方もいらっしゃるかと思います。「仙台東西線」で、LRT導入論でよく問題にされるものの一つが「輸送力」です。「LRTは1つの編成が長くできないからたくさん乗れない。だから輸送力がない」旨の「LRT否定論」を耳にされた方も多いと思います。
 でも本当にそうでしょうか? 確かに「30m電車」は、JR山手線のように「長い電車(長さは約220m。ダッシュしたら疲れそうなほど長い!)が走っている路線」と比べれば、「少ししか運べなくて、頼りないなあ」という感じがしないでもないでしょう。
 では、この「短い電車」を使ったとしても、どのくらいの輸送力が出せるのでしょうか? ここではそれについて考えてみたいと思います。もちろん、需要を満たすだけの数字が出れば、「輸送力がない」という言葉は消えてなくなる、ということは言うまでもありません。
 まずここで質問です。「30m電車」には(定員ではなく)実際にどれくらいの人が乗れるのでしょう?
 40人? 100人? それでなければ何人? さあ、何人でしょう?
 この答えを一概に言うのは難しいと思いますが、ここでは下の図の条件で計算します。電車内の客室の大きさ、運転席の奥行きは下のように仮定します。また、人ひとりが占拠するスペースなどは下の図の条件で計算します。
 「30m LRV」の「実際の」乗車人員、というのはいろいろな条件によって違うので、ここでは上の図の条件で計算してみる。

 車両の大きさ、客室の広さ、座席数は上図の通り設定した。また、立席の人ひとりの専有面積は、先の「『40×40cm』タイル」より実際の一般成人の体格に近づけてみた。座席の人ひとりの専有面積は、実用上問題ないと判断した寸法としたが、これらの条件でもまだ余裕があると思われる。

 この条件で計算してみると、「実際の」乗車人員は400人と算出される。実際は、一人あたりの専有面積はこの条件でも少し広いと思われるので、実際はもう少し乗車できると考えられる。

 この条件で計算すると、実際乗車できる人数は400人となります。こうしてみると、「短い電車」でも意外に結構乗れるモンなんだなーー
 ところで、「仙台東西線」で必要なピーク時の輸送力はどのくらいでしたでしょうか? 思い出してみると、先の市当局の方のコメントから、最高でも1時間あたり1万3千人と考えてよさそう、ということでしたネ。
 ですから、「1時間でこの輸送力を生み出すのに必要な400人乗りの電車は何本か」を計算すると、13000÷400≒33本となります。これだけの本数を1時間で走らせると、電車は約110秒つまり約1分50秒ごとに発車する、という計算になります。
 「30m電車」でどれだけ運べるかを表した図。上の計算から、1編成で約400人、「仙台東西線」の需要を1時間あたり1万3千人とすると、33本の電車が必要となる。この本数を1時間で走らせるとすると、列車間隔は約1分50秒となる。

 我が国の基準だった「30m電車」でさえ、これだけの輸送力が出せるのである。今後「30mより長い電車」が導入されれば、もっと輸送力を大きくしたりもっとゆったりとしたダイヤを組めることになるだろう。

 この計算で、「基幹交通」である「仙台東西線」でも、「30m電車」でも充分裁けると考えられる。「短い電車」だからといって、必ずしも「輸送力不足」とはいえないことがお分かりいただけると思う。

 へーっ、「短い電車」だって、これだけたくさんの人を運べるんだーー 意外だなーー そう思いません? みなさん。
 えっ? 「そんなに頻繁に来られたらクルマが渋滞するんじゃないか?」ですって? 確かに、電車間隔が「1分50秒」というのは一見「短い」感じがしないでもないですが・・・
 しかし、逆を言えば1分50秒に1本しか一方向に向かう電車が来ない、ということです。ただLRTが複線だと、ある1カ所の交差点での通過頻度はその2倍となりますから、その地点での電車の通過間隔は、ピーク時で平均55秒、ということになります。
 つまり、LRTと交差する道路は、平均55秒間隔で「流れが切られる」事になるわけですが、この間隔が「クルマの通行にとってジャマ」なほど「頻繁」なのかどうかは、交差する道路の性格により異なるでしょう。
 確かに、都市間バイパス等のように「郊外〜中心の流れに沿わない大道路」の場合は、このくらいの頻度で「流れが切られる」と確かに「ジャマ」と言えるとは思いますが、その場合は交差部分を立体交差や地下線にすれば解決するでしょう。
 一方、LRTと交差する道路の交通量が比較的少ない「横丁※」の場合はどうでしょう? 身の回りを実際見てみると、「横丁」が「青信号」になっているのは、私の経験上の話ですが、多くの場合30〜40秒、長くてせいぜい1分以内でしょう。言い換えれば、多くの場合は55秒より短い場合が多いだろう、ということです。
※横丁:表通りから横へ入った町筋。また、その通り。(小学館「大辞泉」より)
 そんな「横丁」の場合は、その「平均55秒間隔の電車」の合間を縫って「青信号」にするようにすることで、たとえLRTが導入されるとしても、LRTのない現状より極端に不便になるとは言えない・・・
 言い換えれば、「横丁」のクルマの交通はLRTができたことで障害される、ということは、実は、一般に考えられているよりもかなり少ないのではないでしょうか? 
 (左上)「都市間バイパス」といえる「仙台バイパス」、(右上)はその交差点。「仙台バイパス」は、中心部に入って来るクルマの他に、「中心 ― 郊外」間の「人」の移動とは無関係なトラックなどの通行もかなり多い。この他にも、市街地の中心部などLRTの流れと無関係な交通が集中する部分では、LRTによって他交通の流れが切られることは問題かも知れない。このような場合は、地下線・高架線の立体交差にすることで大幅に解決できる。
(国道4号線仙台バイパス・箱堤交差点で撮影)

 (左下)仙台市の「仙台東西線」路線案に挙がっている道路。この付近は片側3車線であり、「中心 ― 郊外」間を結んでいる形となっている「主道」と言える。もしここにLRTを走らせるとすれば、「横丁」のクルマは、現状より極端に「不便」になるだろうか?

 (右下)この道路と交差する「横丁」。この交差点の「横丁」が「青信号」である時間は、現在のところ、平日の日中で約30秒。「横丁」の「青信号」の時間が極端に長いと「主道」の流れに大きく影響するだろうから、あまり長くできない。せいぜい1分以内なのではないか?

 言い換えれば、「横丁」の流れがLRTにより「平均55秒ごとに一度切られて」も、「流れ易さ」は現状より極端に不便になる、とは言えないのではないか?しかも、LRTに人が移って「主道」の交通量が減少すれば、かえって「主道」に入りやすくなることも期待できよう。
 (左下)(右下)県道荒浜原町線・大和町4丁目交差点で撮影

 こう考えれば、「55秒に1本の電車」は、LRTと交差する車の通行を極端にジャマする、とは考えにくいのではないでしょうか?
 しかも、LRTの流れに沿った人の移動はかなりの割合で、「場所喰い」のクルマからLRTに移っているわけですから、全体的なクルマの交通量の減少も期待できるでしょう。
 しかも、現在の「30m電車」でさえこれだけの輸送力が出せるワケですから、今後「もっと長い電車」や最高速度の向上が導入されるようになれば、もっと輸送力を増やしたりもっと余裕のあるダイヤを組むことだって夢ではなくなるでしょう。
 もちろん、ここでお話しした「1時間で1万3千人必要」や「55秒間隔」は、予想乗客数が当たればの話です。もし「南北線予想」と同じことが再び繰り返されることがあれば、「ダイヤ」も「電車の間隔」も余裕が出てくる、ということは言うまでもありません。
 さらに、先の平成11年7月17日「仙台高速市電研究会」主催の定例会の中で、先の仙台市都市整備局総合交通政策部長さんが、「東西線の需要見込みは、仙台駅の東側で1時間で約1万人というお話をされていました。
 ということは、ここで検討した「1時間で1万3千人の輸送力」よりもかなり少ないわけですから、LRTの電車間隔は「55秒」よりもっと余裕が出てくることになります(計算すると約1分10秒間隔)。
 えーーーっ!? それならばなおさら、なんでリニア地下鉄ぐらいのモノにこだわらなければならないのか、なおさら分かんなくなっちゃったよーーー
 この項でお話ししたいことは、輸送力の面から見ても「仙台東西線」にLRT導入は十分可能であると考えられる、ということです。他の都市ではいかがでしょうか? 地下鉄などに比べれば低コストで、これだけの輸送力を出せるわけですから、導入できる都市は決して少なくないと思います。
 しかも外国では、このクラスの輸送力は技術的には以前から確立されています。「ハイテク先進国」を名乗る我が国に、できないはずはありません。
 我が国では、現在のところ「忍者」の長さはまだ短いですが、それでもこれだけの仕事ができるんだから、「小さな巨人」といったところでしょうか。




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