LRTとクルマとのハーモニー





 パート1では、都市交通をクルマ中心にすることで考えられる弊害をクドクドとお話ししました。「それなのに上のタイトルはなんじゃい!?」とおっしゃる方もいるかと思います。
しかし私は、都市交通を考える上で「クルマを『中心に据えて』考えることは疑問」、と言っているだけで、「街を走ることは一切まかりならん」と言っているワケではありません。




 上の写真は、仙台市郊外の住宅地です。ご覧のように、広範囲に渡って一軒家が広がっています。そうすると当然人口密度が低くなるわけですから、これらの敷地に駅などをおいても、歩いたり自転車に乗って駅を使える人の数はごく限られてしまいます。
 これでは、いくらLRTといえども駅から遠い人を吸収することはできないでしょう。連絡バスを運行するにしても、採算性を考えるとそんなにあちこち路線を増やすわけにも行きません。
 ヨーロッパの多くの都市と違い、我が国では大都市の郊外がこのように広大に広がっていることが多いので、より広範囲の人に公共交通機関を利用してもらうように対策を強化する必要があるでしょう。
 ではいったいどうすればよいのでしょうか? このような時にこそクルマの出番でしょう。
といっても中心部にクルマをそのまま入れたら、パート1でお話ししたとおり中心部でいろんな方面からの車で渋滞になるでしょうから、そうならない工夫が必要です。どんな工夫でしょう?
 それは、郊外の駅のとなりに駐車場を設けて、そこに車を留めてもらって電車に乗り換えてもらう方法です。クルマを留めて電車に乗るので「パークアンドライド」(以下「P&R」と略)といい、外国ではよく使われている方法で、我が国でも試されてきています。
 なるほど、これならば中心部にクルマを入れなくて渋滞も解消できそうです。
 でも、いくらP&Rという「モノ」があっても、やはり「便利」でなければ、使ってくれる人は極めて少なくなるでしょう。市当局の皆様へ。私たち利用者の立場からは、P&Rが「便利に」使えるように、次の4点を要望します。
       
  1. (運賃と合わせて)利用料金が安く、乗り継ぎの公共交通機関が便利であること。

           

  2. P&R駐車場は利用者にとって「ラクだ」と思わせる場所に設けていただきたい。

       

  3. P&R駐車場の他には、「客寄せ」の施設を造らないでいただきたい。(つまりP&R専用駐車場だけを建設して欲しい。)

       

  4. P&Rは誰でも利用しやすい環境としていただきたい。
 まず、(1)についてですが、低運賃・料金がどんなに大切かは何度もお話ししたとおりです。駐車料金が高くついたり、乗り継ぎの公共交通機関が「不便」だったりすれば、やはり人はクルマに乗ったまま都心を目指してしまうでしょう。
 クルマで中心部に乗り入れるより「便利」と利用者に思わせるシステムを目指していただきたいと思います。その「便利なシステム」として、今後新規の路線を造るには、LRTは立派なオプションになると思います!
 次に(2)についてですが、利用者にとって「ラクだ」と思わせる場所にP&R駐車場を造れば、「ここにクルマを留めてLRTで(中心部へ)行こう。早くてラクだし」と利用者が思ってくれること請け合いでしょう。

 クルマの流れに沿わないところ、つまりわざわざ探したり迂回したりしなければならないようなところに造っても、利用者は少なくなるでしょう。

 「場所」の良いところには既に大型店などが建っているケースも多く、用地選定・買収が困難なこともあるかとは思いますが、よろしくお願いします。 (下の図)


 P&R駐車場と道路の位置と使いやすさとの関係を説明する模式図。
 例えば、郊外部Aから中心部へ行く道路の左側にP&R駐車場(以下「駐車場」)P1がある。クルマにとっては駐車しやすく、場所も良いので利用しやすい。こんなに「場所」の良いところには既に店舗が建っているケースも多く、用地買収は難しいことが多いと思うが理想のポジションであろう。

 それに対し、道路の右側にある駐車場P2は、わざわざ右折しないと駐車できないので利用しにくい。P5に至っては、わざわざう回するようになっているので、このような位置ではまず利用してもらえないだろう。

 郊外部Bは人口が多い(面積が広い)ので、駐車場が1カ所だけだとそこに集中してしまう恐れがある。その場合は2カ所以上に分散して設ける必要があるだろう。(P3・P4)LRTなら、このような「小回りの利く」配置もしやすいのではないか。

 郊外部CからP&Rを利用して中心部に行く場合は、中心部に行く最短道路よりもう回する形を採ることになるので、郊外部Cの人たちからは利用してもらいにくい。P&R駐車場や路線を配置するには、このような地区をいかに減らすかを工夫する必要があるだろう。



 つぎに(3)になりますが、こう言われると普通は「なぜ?」と思う人が少なくないのではないでしょうか?「駅の周りを開発して沿線人口を増やして・・・」と言って。実際、地下鉄南北線の北の終点・泉中央駅はこの考えで「発展」した地域の一つです。
 それはそれで良いかも知れませんが、P&R駐車場と「発展」が絡むととんでもないことにもなるのではないでしょうか? それはこういうことです。
 駅の周囲を総合開発すると、駅の周りにたくさんの店舗ができ、その地区の周囲では人口が増えるでしょう。そうなると、それらの店舗を目指して周囲からたくさんの人がクルマでやって来ることになります。
 その結果、駅周囲は大渋滞!クルマがうまく動いてくれません。当然、P&R駐車場に留めて電車を利用しようとするクルマも、その渋滞に巻き込まれてしまいます。渋滞に巻かれてまで電車を利用したいと言う人が、果たしているでしょうか?
 P&Rを使うのに渋滞に巻かれるくらいならば、中心地までクルマで乗っていくのではないでしょうか?
 それだけでなく、だいたい電車に乗り換えて普通の買い物をするくらいならば、その駅周囲の店で済ませてしまいます。パート1でお話しした「郊外分散構造」を助長することにもなり兼ねないでしょう。
 P&Rが機能しないばかりか、郊外分散化を進めてしまうのではないでしょうか?その弊害として考えられることについては、パート1でお話ししたとおりです。
 つまり、原則としてP&R駐車場以外のモノを設けない方が良いと思うのは、只今お話しした考えからです。いかがでしょうか?
 最後に(4)についてお話しします。

 仙台市は、平成11年1月18日より郊外大型店舗と提携して、その駐車場の一部(128台分)を借りて「P&R」を開始しました。「脱クルマ社会」への第一歩として、「おお、ついに」と思いました。

 しかし、つぎにその「P&R」の使用条件を聞いてみると、「定期券とその大型店の1万円分の商品券を持っていること」だそうです。しかし、この様な条件を満たす人は限られるのではないでしょうか?
 それに、この店に向かう多数のクルマと見事にぶつかってしまうのではないでしょうか?
 第一、その店の商品券を持っている人は、地下鉄に乗る前にその店で買い物を済ませてしまった方が早いと思いますが・・・ 上の(1)や(3)に抵触するような気がしないでもありませんが・・・
 確かに、安くない代価を払ってでも朝の渋滞を避けようという人には「使える」制度かも知れませんが、利用者の立場から言わせていただくと、(1)〜(4)全ての条件がそろってはじめて「便利」になると思います。「我が市ではこれがP&Rの形態だ」とこれで終わずに、だれでも気軽にP&Rを使えるように、さらに研究をお願いしたいと思います。
 また、平成11年11月に、「杜の都の交通大作戦」と銘打った「交通実験」を、仙台市とその周囲の地域で行いました。
 その内訳は、郊外部の駐車場から鉄道やバスに乗り換えて(特にバスに乗り換える場合は「パークアンドバスライド(P&BR)」という)中心部まで行けるようにし、JR仙台駅からは都心循環バスを運行しました。
 この試みは、「『クルマ中心主義』では限界」ということに気づいてなんとか「脱クルマ社会」へ向かおう、という行政の姿勢が表れており、その姿勢は評価したいと思います。
 しかし、今回はまだ「試験的」ということで、P&R(P&BR)はモニターのみが対象だそうです。(「都心循環バス」は誰でも利用できる(利用料金1乗車100円、プリペイドカード利用不可)とのことです。)
 「実用化」はもう少し先になると思われますが、今回の「実験」を元に、クルマだけで中心部に行くよりもP&Rの方が「ずっと便利」と利用者に思わせる「理想の」形態に向かってがんばって欲しいと思います。
 その「理想の」形態ができるための絶対条件は、繰り返すようですが、上の(1)〜(4)を全て満たすほかに、「中心部の目的地に向かうのに、公共交通機関でいかに速くラクに安く行けるようにするか」ということです。
 これらを考えずにただ「P&R」という「言葉」を踊らせただけでは、「お客様」が付いてくれないでしょう。 それだけではなく、もし「P&Rが我が地域では失敗だった」などと片づけられてしまうことになれば、せっかくの「脱クルマ」の気運に冷や水がかかってしまうことになりかねません。
 そうならないように、行政も、そして私たち市民も、みんなで「便利な方向」に向けるように、チエを絞って「本当の」P&Rを作っていかなければなりません
 現在の動きは、「大多数の人にとって便利」な方向に向かうためのはじめの1ステップに過ぎないとは思いますが、老婆心ながら申し上げさせていただきます。
 もう一つ言わせていただくと、P&R駐車場は、有料道路のインターチェンジなどトラックなどがひしめく所も避けた方が良いのではないでしょうか?トラックとクルマでは性格が違いますので(人の移動か物資の運搬か)、お互いが混ざって混雑したら、お互いにとって損な話になるでしょう。
 トラックにとっては、P&Rなど用がないのにそこに向かうクルマに巻き込まれるし、クルマにとってはP&R駐車場に行きたいのに、そこと関係ないトラックに巻き込まれるし・・・
 やはり、これら二つの車種は棲み分けが必要でしょう。
 ここでまとめると、P&Rも「あればいい」というモノではなく「どうしたら『公共交通機関を中心』にして、クルマとうまく調和するか」を「利用者の身になって」お考えいただきたいということです。
 しかも、ここでつき合う相手は、クルマという「どこでもドア」。間違ったP&Rの使い方では、「どこでもドア」に乗ったままP&Rを使ってくれなくなってしまうでしょう。

 私なんか横着者ですから、なおさら・・・





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