LRTへの疑問にひとこと(1)
-「海の向こう」も同じ-





 いままで、LRTというモノは何か、ということとLRTのメリットについて長々とお話ししてきましたが、今まで我が国にないものだけにまだピンとこない部分は少なくないと思います。それは仕方がないのですが、中にはLRTについて話と聞くと次のような疑問を持たれる方も少なくないのではないでしょうか?
     
  1. ヨーロッパやアメリカでLRTが活躍しているのは、昔から「路面電車文化」が根付いていて市民の「環境意識」が高いから、受け入れられやすいからなんじゃないの?
    仙台や他の日本の都市ではそんなに簡単に受け入れられるの?

     

  2. LRTは路面では進路を「ひとり占め」にして、しかも交差点では優先通行させるわけだから、やっぱりクルマのジャマじゃないの? クルマと共存なんてできるの?

     

  3. 仙台では雪が降ることがあるから、LRTは雪に弱くはないの?
    地下鉄は天気に左右されないって言うから、地下鉄の方が信頼性があるんじゃない?

     

  4. LRTはクルマと同じ路上を走ることが多いから、クルマとの事故の危険性がある。だからLRTは「危険な乗り物」じゃないの?

 はじめてLRTの話を聞かれた方は、きっと上の疑問をお持ちになることが多いと思います。
 かく言う私でも、はじめの頃はこう思っていましたから。しかし、これらの疑問はどれも、我が国や「杜の都」でLRT導入を阻むモノとは思えません。
 これらの疑問は全て覆すことができると思うからです。これから一つ一つお話ししていきたいと思います。それらのお話に対し、皆さんはどうお思いでしょうか?
 まず(1)の疑問に対してお話ししたいと思います。
 旅行番組などでよく、路面電車がヨーロッパの古い町並みの中を走っている場面を見ることがあります。絵になる光景できれいです。ああいうのを見ているとヨーロッパに行って見たくなります。時間もお金もないのでなかなか叶わない願いですが・・・
 確かに、ヨーロッパでは古くから路面電車が走っている都市は少なくないでしょう。一方、欧米ではこの十数年で新たにLRTを導入したり、なんと、昔一度路面電車を廃止した都市でもLRTを導入しているケースも少なくないのです。
 アメリカや「路面電車の宝庫」のヨーロッパでも、1950〜1960年代は路面電車を廃止した都市が少なくありません。「クルマで街を便利にする。路面電車はジャマだ」とか言って。ちょうど仙台市でも、同じような理由で昭和51年(1976年)に路面電車を廃止したのは周知の通りです。
 ところが、そんな都市では路上にクルマがあふれ、非常に大きな交通問題を抱えてしまいました。仙台市や路面電車を廃止した他の都市も似たような問題を抱えているのはご存知の通りでしょう。
 そこで、それらの都市のいくつかでは、そんな交通問題の解決のためにLRTを導入しました。
 「電車が路上を走る」ことは「復活」しましたが、「高性能、低床による乗降容易性、電車優先通過、部分立体交差化、P&R」などは「新規導入」という形になりました。これで問題が大幅に改善しているケースが、多く見かけられます。
 「LRT」と聞くと、中には「一度路面電車が廃止になったのに、またそんなモノを導入する必要があるのか?」という声もあるのではないでしょうか? 特に、仙台市のように一度路面電車を廃止した都市では。
 確かに、路面電車を廃止した当時は、大多数の人にとってクルマと地下鉄だけで街中の移動が便利になる、と考えられていた風潮があったようですが、現状を見るとその考えは正しいとは言えないでしょう。
 みんながそのことを身をもって理解している現在、ヨーロッパなどで成果を上げているLRTを我が国に合う形で新規導入することは、充分に価値があることと思います。低コスト、高性能、使いやすさ、路線の拡張の容易さなどは、海の向こうも我が国もそんなに変わらないと思います。
 「オイシイとこ取り」しない手はないと思うのですが・・・
 「ヨーロッパや北米では環境意識が高いから受け入れられるだろうが、仙台ではそう簡単にはいかないだろう」という声もあるかと思います。でも、海の向こうでは「LRT導入大論争」のスゴさは我が国の比ではないようです。あちらの住民の方々は、我々日本人より税に対する「目」がずーっとシビアですから・・・
 先の「トランジットモール反対」を住民が唱えていた都市はもとより、米国でもLRT導入案が挙がっては住民投票で否決されて・・・の繰り返しの果てにやっと導入したという都市もあるのです。
 米国・ロサンジェルスのLRV。かつてロサンジェルスは巨大な路面電車網をもっていたが、自動車メーカーによる買収により姿を消していったという話は有名である。

 そんな経緯をもつロサンジェルスにも、1990年にLRTという形で生まれ変わった。このLRTも、先のストラスブールと同じように「難産」だった。

 LRT導入案が行政から示される度に住民投票で否決され・・・ ということを何度も繰り返したあげくにやっと導入されたという。

 ここロサンジェルスでも、LRT導入に大きな貢献をしたのは、市長はじめ行政のねばり強い広報・説得である。はじめは市民の理解が得られない、というのは欧米とて同じである。つまり、我が国においても、LRTの実現には努力が必要だがいずれはなし得る、といえるのではないか。

 当然、広報・説得には充分な情報公開・意見交換が必要なのは、言うまでもない。

写真:佐藤 茂 氏(仙台高速市電研究会)のご厚意により掲載

 だから、「海の向こうでは受け入れられやすいが仙台ではムリ」とは言えないのではないでしょうか?

 「海の向こうでは受け入れられやすい」ということもない、ましてや「路面電車文化が根付いている」とは限らないでしょう。

 また「仙台ではムリ」ということもないだろうし・・・ だいたい「杜の都」には昔「路面電車文化」があったじゃないですか! 昔の路面電車の使い易さや運賃の安さを懐かしがっている人は、私の周りでも少なくありません。
 第一私たち日本人は、ゴミのリサイクル、資源の有効利用、「環境配慮商品」の売れ行きの高さ、有害物質削減の動き・・・ など「環境意識の高さ」はそんな「海の向こう」にも充分に負けないレベルに達しつつあると思うのですが・・・
 それだけ立派な私たち日本人は、まだまだ捨てたモンじゃない、「外国でできても我が国ではムリ」などと簡単に決めつけちゃダメ!、と思うのですが・・・ いかがでしょう?
 仙台市主催のあるシンポジウムで、道路工学が専門のある先生が「欧米と違い仙台には路面電車文化がないからLRTはムリ!」旨の発言を、声を大にしてなさっていましたが、上にお話しした事項をご存知なのでしょうか?・・・
 ご存知でなければ「勉強不足」、ご存知の上でそんな発言をされたのでしたら、私たち一般市民を無知だと思っておナメになっているとしか思えません。




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