LRTへの疑問にひとこと(3)
-リニア地下鉄のメリット、「意味がある」とは限らない-





 つぎに(3)、(4)の疑問についてです。「悪天候に強いこと」と「自動車との事故の可能性はない」というのは、リニア地下鉄の利点とは言えるでしょう。
 確かに、LRTでは大雪などには確実に動いてくれないことがあるかも知れないし、路上を走る以上、自動車との事故の可能性はないとは言えない・・・ それは分からなくもありません。
 しかし、LRTにするのをやめてリニア地下鉄にするということは、いままでうるさいほどお話ししたLRT独自の利点、つまり・・・
 建設費が安くて路線設定や新設、延長、枝線拡張が地下鉄などよりかなり容易で、乗り降りがしやすくて、乗り降り場の位置も分かりやすくて、安い運賃が設定できて、P&Rやバスとの乗り換えがし易くて、乗り降りがし易いから全体の移動時間も短くできて・・・
 これらの利点をぜーーーーーんぶかなぐり捨てて上の2つの「リニア地下鉄の利点」を手に入れることに他なりません。上の「リニア地下鉄の利点」は、そこまでしてでも手に入れるだけの意義が果たしてあるのでしょうか?これからそれを見ていきましょう。
 まず、「悪天候の強さ」について見てみましょう。
 仙台市に大雪が降りました。外では、JR線のダイヤが大幅に乱れています。バスは大渋滞に巻き込まれて、にっちもさっちもいきません。人を送り迎えしたり街中を移動する車も動かずあちこちで道路は駐車場と化しています。
 そんなときでも地下鉄南北線はそこそこ動いていて、ほぼ全線が地下で雪に触れることのないリニア地下鉄東西線はほとんど定刻通りダイヤが動いています。おお!すごい!
 でも、ちょっと待てよ・・・ 確かにリニア地下鉄は順調なのだが、それから乗り換えるバスやJR、迎えの車が動いてくれなかったら、いくらリニア地下鉄ばかり順調でも家に帰れない・・・
 そりゃあ、駅のすぐ近くに家がある人はいいよ。歩いて帰れるんだから。雪が降っていたら、自転車やバイクは危なくて使えないから、ちょっと遠くの人になるとやっぱり帰れない。そうなったら、ほとんどの人にとっては、地下鉄だけが時間が正確だって何の意味もないよ・・・
 なんてことになるでしょう。つまり、沿線のごく近くに住む人以外の大多数の人にとっては、リニア地下鉄のこのメリットは意味がないのではないでしょうか。南北線が共に動いていたとしても、このメリットの恩恵にあずかれる人は、仙台市の中でもごく一部でしょう。
 だいたい、そんな悪天候の時は全体が乱れますから、外に出る人などあまりいません。通勤・通学などでやむを得ず外に出る人も、他の連絡が悪くなっているので、結果としてリニア地下鉄のこのメリットにありつける人はごく少数でしょう。
 第一、それだけのひどい悪天候なんて年に数回もありません。極めて少ない頻度の事態のために、しかも万が一あったとしても他の連絡交通手段が乱れて大部分の人がこのメリットの恩恵に浴することができないのに、あえてLRTをやめてリニア地下鉄にする意義なんかあるのでしょうか?
 それに、LRTなど路上を走る電車は雪などの悪天候に弱いでしょうか? それを考えるのに、札幌市電など、仙台市よりずっと多い雪が降る都市の路面電車について見てみましょう。
 札幌市電では、レールの雪を除くのに「ささら電車」という除雪車を使います。「ささら」という羽根がグルグル回って路面の雪を払います。テレビで、冬の入りになるとこの「ささら」電車が出動するのを、冬の入りの風物詩として紹介されるのをご覧になったことのある方は多いと思います。
 クルマと違って、(普通のレールの)鉄道は雪でスリップしません。もしスリップするのなら、冬のJR北海道線なんて恐くて乗れないのですが、そんな話は聞いたことがありません。
 ということは、雪さえ払えばいいのです。札幌市電などは、雪の日になる度に運休に追い込まれる、という話は聞いたことがありません。
 しかも、仙台市は札幌市などよりずっと雪が少ないのです。しかも降る日数だってずっと少ない。
 つまりLRTでも雪対策は充分できると考えられ、あえてリニア地下鉄を導入して、LRTのたくさんのメリットを殺すことがあるとすれば、ナンセンスでしょう。
 えっ?「台風や大雨の時は?」ですって? そんな時はだれも外になんか出ませんでしょう? しかも、JRやバスなど他に連絡する交通機関も停まっているからリニア地下鉄に乗れる人がほとんどいないでしょう?
 だから、東西線一本や南北線ばかり動いていてもしょうがないんじゃないですか?
 台風の直撃をよく受ける那覇市でさえ、「地下鉄必要論」がほとんど聞こえてこないじゃないですか? 悪天候が理由で必要、というならとっくの昔にできているんじゃないですか?
 那覇市内では、現在モノレールを建設中です。モノレールは高架を走りますから、当然台風の影響をモロに食らうでしょう。それなのに地下鉄にしていないというのは、いくら公共交通機関と言えども、たとえ莫大なカネをかけてまで、極端な悪天候時にでも動かせるようにしたとしても、得られるメリットがほとんどない、と考えている表れなのではないでしょうか。
 いくら台風の時でもきちんと動かせるようになったとしても、それによるメリットはほとんどないでしょう。悪天候の時にでも使う人はほとんどいないわけですから。したがって、建設費・維持費が莫大になってしまう地下鉄をあえて導入する意義はないでしょう。
 あえて地下鉄にしなかった発想は、それはそれで合理的だと思います。
 でも、那覇市でもLRTの方が良かったような気はしますが・・・




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