LRTなら、使いようでクルマより便利に!





 今まで、「東西線」をはじめ仙台市ではLRTが市内鉄道として一番適切なのではないか、ということをお話ししてきました。他の都市でも多くの場合、同じようなことが言えるのではないでしょうか?
 うまく路線を設定することでリニア地下鉄なんかよりずっと便利で将来も必要に応じて拡張できる可能性が高いだろうことはもうお分かりと思います。
 安くて、乗り降りが容易で、地下鉄に近いぐらい早く着いて、バスやクルマなどと乗り換えがラクで・・・
 LRTで中心部へ行くのが、大分クルマの便利さに近づくと思います。
 しかし、人間は少しでも便利な方に傾きます。LRTがいくら便利になっても、クルマが「自由に」中心部に乗り入れることができる状態がまだ残っていると、クルマからの乗り換えは思うようには進んでくれないかも知れません。
 そうすると、最終目的の渋滞緩和、環境問題の改善にはあと一歩となるでしょう。クルマで「まっすぐ」中心部に「行くことができる利点」はまだ残っているからです。つまり、この「便利な」クルマを「ちょっとだけ不便」にし、「より便利になった」公共交通機関への乗り換えを進めるようにします。
 この考えを、ちょっと難しい言葉になりますが、「交通需要管理」
(略してTDM
:英語で Transportation Demand Management)といいます。聞いたことのある方は多いと思います。
 なんかちょっといかめしい名前に見えますが、自由なクルマの乗り入れをある程度規制することは、仙台市の場合は必要でしょう。ただし、TDMを行うために絶対に必要な条件は、
代わりになる「便利な」公共交通機関がある
ことです。それがなくただTDMを実行したとしても、車の渋滞はひどくなり、それこそ市民の同意は得られないでしょう。あるいは「郊外分散化」を進めることにもなりかねません。
 でもこう聞くと、「え?完全にクルマが使えなくなるの?」「こまるなあ。荷物を運ぶときはどうするんだよ?」「トラックやタクシーもかよ?べつに公共交通機関のメリットと関係ないのに。」という声もあるかと思います。
 確かに、全ての車種を一斉に、しかも24時間規制するのは不合理かも知れません。私個人としてはこの様に考えればいいと思うのですがいかがでしょうか?


 TDM(交通需要統制)の考え方の一例。

 公共交通機関が通っている郊外部B・Cから中心部に行く一般車は、まっすぐ中心部に行かずに一旦途中でう回させるようにする。トラック、タクシーなどはこの規制から外す。当然、一般車の利用者にとっては実際的にも心理的にも「不便」感が強くなり、より「便利」な公共交通機関への乗り換えが進むと思われる。

 もちろんこの公共交通機関はLRTなどのような「便利」な公共交通機関であることが大前提である。P&Rやバス連絡も充実させなければならない。さもないと、規制に対して市民の同意は得られにくいだろう。

 一方、郊外部Aには公共交通機関が通っていないので、この様な規制はかけられない。このような地域は、一見便利なようで、事実上クルマでしか中心部に行けなくなる。郊外部Aの人口が多ければ、渋滞や駐車場待ちとのつきあいになるので、結果的に不便な地域と言えるのではないか。



 上の図のように、「便利」な公共交通機関が通っている郊外部B・Cから中心部に向かう一般車は、主要道路の途中でう回させます。
 う回させるとそれだけ不便になるわけですから、より「便利」な公共交通機関に乗り換えてくれる人が多くなり、中心部の混雑も結果として楽になるのではないでしょうか。
 郊外部Aには公共交通機関が通っていませんから、もちろん郊外部B・Cのような規制はかけられません。一見便利なようで、実際はクルマでしか中心部に行けないわけですから、結果的に不便な地域と言えるでしょう。
 この規制対象は、仙台市では走っている割合の多い一般乗用車だけで、トラック、タクシーなど公共交通機関と関係ない車両は規制を緩めるようにします。また、規制時間も、とりあえずは24時間とする必要はないかも知れませんが、最低でも混雑が見込まれる時間帯を中心にする必要はあるだろうと思います。
 人間は、なるべくう回を避けて便利で近い方に向いたいという心理があります。少しう回させるだけで、「クルマは不便だ」という心理が働いて、より便利な公共交通機関に向かう可能性があるのではないでしょうか。
 もちろん、荷物の運搬などどうしてもクルマで行きたい場合は、少し不便な思いをしてう回していただくことになるでしょうが、大多数の利便性のためにはある程度の「ペナルティ」的なモノは仕方がないでしょう。そうしないといつまで経っても交通・環境問題は解決しませんから。
 諸外国の公共交通機関の発達している都市では何らかの形でTDMが行われており、公共交通機関+TDMがセットになって交通問題を改善しているケースが多いです(特にヨーロッパ)。
 しかも、P&Rを(使いやすい体制にした上で)半強制的に使わせる体制にしたり、中心部への乗り入れがどうしても必要なクルマだけに限りやすくするように、高い「乗り入れ料金」を払わせたり・・・
 我が国ではあまり想像が付かないほど厳しいTDMを強いているところも少なくありません「クルマだけでは動きやすい街はムリ」ということを、試行錯誤で身につけた結果でしょう。我が国でも、一刻も早くこのことに気づいて欲しいものです。
 「外国でできるとしても我が国ではできるワケないよ」という声もあるかも知れませんが、逆に言うとなぜできないのでしょうか?「我が国ではできない」という「日本特殊論」を唱えている限り、良い方向に進む可能性はいつまで経ってもないと思うのですが・・・
 ま、「東西線」では、LRTを中心に公共交通機関を先に「便利」にしないとTDMなんかできないでしょうから、そっちを先に考えることにしますか?
 地下鉄じゃTDMをしようとしても、少なくとも大部分の市民は賛成しないでしょう。仙台市ではLRTより使いやすさ・運賃などの面で不利な場合が多いでしょうから。
 地下鉄は、オマケに真上の道路は完全にスカスカになって、クルマに「自由に乗り入れてくれ」と言っているようなモノです。地下鉄は、道路を完全にクルマに明け渡している状態になっているので、言い換えればクルマに遠慮した発想のシロモノと言えるでしょう。
 「クルマより明らかに便利」という周辺環境や大量の需要がない限り、本気に渋滞を解決しようとして地下鉄を導入するのは、「ライバルに本気で勝とうとしてライバルに遠慮しているスポーツ選手」という、なんだかワケの分からない存在のように思うのですが、そう思うのは私ひとりでしょうか?
 クルマにとって「中心部に自由に乗り入れる」状態を残すことは、TDMの実行には不利ではあっても、決して有利なことはないと思うのですが・・・
 以上で言いたいことは、公共交通機関が便利であってはじめてTDMができる、TDMはクルマだけで移動する場合には若干不利だが、みんなが便利な公共交通機関に乗り換えてくれると、全体として、結果的に便利な方向に向かうのではないかということです。
 よくよく考えてみると、「ドアからドアへ」が売り物のクルマだって、街中の移動では今現在の状態でさえ不便なことが多いのではないでしょうか?渋滞や駐車場待ちには巻き込まれるし、駐車場探しにウロウロすることもあるし、苦労して駐車場にとめてもそこから結構歩くことも多いし・・・
 意外にクルマは「ドアからドアへ」になっていないことが多いのではないでしょうか?
 仙台市中心部の駐車場入口(左)と、その付近で見られた駐車場待ちのクルマの列(右)。

 クルマはよく、「ドアからドアへ」と言われ「交通手段の王道」ともされている向きがあるが、実際は、中〜大都市では駐車場待ちや駐車場探しに時間や手間がかかったり、運良く留めることができても目的地までかなり歩いたり・・・ と、そんなに「ドアからドアへ」になっていないことも多いのでは? オマケに、燃料のムダにもなって排ガスで空気をムダに汚してしまって、いいことなんかなし!

 LRTを上手に使えば、このような問題も大幅に解決できるのでは?
 トランジット・モールと比較すると、あなたにはどちらがいいでしょうか?

 え? 「彼女(彼氏)と一緒で楽しいから関係ないや」ですって? まあ、ここでは都市交通問題を、「大部分」の「一般的な人」の目線で取り上げているわけでして、そのような「幸せな方々」(ごく一部?)のことまでは考えておりません。 悪しからずーー

 こう考えると、都市部では、乗り降りがし易くて、目的地が目の前にあることが多くて、バスなどとも乗り換えも楽なLRTは、クルマに負けず劣らず「ドアからドアへ」の状態に近くなっているのではないでしょうか?
 公共交通機関が便利でクルマより街の移動がラクになれば、みなさんもそれに越したことはないでしょう。もしこれがリニア地下鉄になって、今の南北線のように高い運賃になって我が「杜の都」に残るモノは・・・
 カネがかかった割に空気だけ運んでいる地下鉄。地下鉄をつくった莫大な借金。そして、そんな「高くて不便」なモノに見向きもしない市民がたくさん中心部に乗り入れてつくる渋滞。
 つまり、3つの「負の遺産」。こうなってしまうような気がするのですが・・・




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