今は無名でもこれからの「スニーカー」・LRT





 今まで、LRTについて私の知る範囲のことをお話ししてきました。(リニア)地下鉄がLRTより有利なことは、最大輸送力が大きいことです。
 ところが輸送力に関しては、先にお話しした、市担当者の方から「東西線の需要見込みは仙台駅の東側で1時間で約1万人」※旨の、「輸送力はLRTで充分」と取れるデータすら提供されている程で、(リニア)地下鉄ほどの大きな輸送力が必要、という明確な根拠は示されておりません
※高橋秀道・仙台市都市整備局総合交通政策部長:平成11年7月17日「仙台高速市電研究会」定例会内での発言
 他の、普通に知られている鉄道のような交通機関、つまり新交通システム、モノレールなども、使いやすさ・建設費などで、仙台市では地下鉄と非常に似た問題を抱えているのではないか、ということもお話ししてきました。
 そこで、外国でここ十数年急に増殖し今なお増殖を続けているLRTは、今のところあまり知られていませんが、従来の交通機関にはないたくさんのメリットがあって、我が「杜の都」に一番合うシステムなのではないか、ということを長々とお話ししてきました。
 ここでLRTについてお話ししてきたことを、もう一度まとめてみましょう。
     
  • LRTは路面上に主に建設される。状況に応じて、部分的に高架や地下線にするとその分建設費が上がるが、それでも地下鉄よりずっと安くつくだろう。しかも工事が地下鉄よりかなり簡単なので、早期完成も充分に期待できるだろう。

     

  • 「軌道を敷くのに道路幅は27m必要」と言う声があるがその法的根拠ない。ということは、一般に言われているほど敷設条件が厳しくないので、路線設定の自由度が世間一般で言われているよりも高い。

     

  • 安くて敷設の自由度が比較的高いということは、敷設条件にある程度制限があるにしても、需要に応じて路線の延長・新設が比較的簡単にできたり安い運賃設定が容易にできたりするのではないか。

     

  • 路面上にホームがあるということは、地下鉄などのように何分もかけて登り降りすることなく、同じ路上で乗り降りできる。歩く距離も時間も短くてすむ。しかも車両は、入口と車内の間にはステップがなく完全に平らになっているので、健常者が楽なだけでなく、高齢者の方や体のご不自由な方にとっても大きな朗報となるだろう。

     

  • LRTは一見遅いように思われがちだが、実はLRVの走行性能はバスに劣らぬほど高く、路面軌道の占有化、交差点での優先通行システム、立体交差、郊外などでの専用線の採用で、所要時間は意外に地下鉄に劣らない。

     

  • 外国では、実際に地下鉄に劣らないような平均速度(出発点から到着点までの距離をその所要時間で割った速度値)を実現している例もある。(先の写真のロサンゼルスのLRT、表定速度は40km/時近く。現在の仙台地下鉄南北線(平均速度32km/時)よりも速い)
     更に、乗り降りの手間を考えると、近い距離の移動はむしろLRTの方が大きく有利になるだろう。

     

  • 車体が小型で高性能になっているので、急な坂を登ったり、急カーブを曲がったりすることが得意でリニア地下鉄に劣らず、加速度・最高速度もバスなどに劣らない。「路面上の電車は遅くて足手まとい」などという言葉は、このハイテクがはびこっている世の中では既に過去のモノとなっている。

     

  • 車体が小型で走行メカニズムも”普通の鉄道”であり、地下鉄のように「全駅空調」が必要なわけではないので、消費電力も少なくて済む。LRTが便利で、たくさんの人がクルマから乗り換えてくれて車の排ガスも減らせれば、環境問題面で「一石二鳥」となるだろう。

     

  • 道路や私たちが歩く面と同じ高さにあるため、トランジットモールが可能で郊外と目的地が直結でき、P&R、バスとの乗り換えも簡単にできる。しかも、LRTにかかっている経費が安いため、P&Rやバス乗り換え場に回せるカネが多くでき、これらの場所を増やすことも容易だろう。

     

  • これだけ便利になってくれると、たとえTDMがかかったとしてもクルマからの乗り換えが容易に進むことが期待できる。その結果、道路のクルマは減少し、結果として渋滞の緩和が期待できる。こう考えると、「路上を走る電車はクルマのジャマ」と単純には当てはまらないだろう。それが当てはまるなら、広島などはどうなるか?

     

  • LRTの恩恵と直接関係ないタクシーやトラックも、LRTなどで便利になれば一般のクルマが減少してその分道路のスペースが空くことになると考えられ、彼らにはTDMをゆるくするようにすれば、結果的に彼らも速く移動できることになるのではないか。仙台市など一般のクルマの割合が多い都市では、この考えで充分対策できるのでは?

     

  • 日本では、欧米と違い電車が路上を走るのが受け入れられにくい風土がある、という声があるがそれは疑問。欧米でも市民によるLRT反対論の末、行政の説得でやっと導入され、結果的に市民がLRTの良さに気づいて喜んだケースも少なくない。税金の使途に対する市民の目は我が国よりずっと厳しく、市民の議論・反対論はむしろ我が国より強いのでは?

     

  • それどころか、仙台市などでは昔路面電車が走っていた。その乗り降りの便利さや路線の分かりやすさ、クルマに近い移動時間の短さ、運賃の安さを懐かしがっている人は少なくないはず。

     

  • だから、仙台市や我が国に「路面電車文化がない」というのは大ウソにすら聞こえる。
    その良さを含んだ「オイシイとこ取りの新システム」・LRTを、「なじまない」とかでバッサリ切り捨てるのはナンセンス!

     

  • 雪などの悪天候やクルマとの事故の可能性は地下鉄より不利、という議論については、LRTの有用性を全て切り捨てて地下鉄にしても得られるメリットの差はごくわずか。
    そのわずかの差の引き替えに、「大きな不便を毎日強いられる」意義はない。

     

  • 諸外国の実績、推測される必要最大輸送力から、仙台市ではLRTでも充分ではないか。リニア地下鉄ほどの輸送力は不要。それこそ「4人家族に8人乗り高級リムジン」を買うようなモノ、過剰投資つまり「『贅金』のムダ遣い」ではないか?

     

  • 「路上を走る電車」を規制している法律が時代遅れであると言われているが、「軌道法」下の規則には「抜け道条文」と言える例外規定があり、LRTを導入するその路線ではなぜ制限を越える必要があるのかということや、制限を越えても安全性が保たれる、ということを合理的に説明できれば、規定によらないでLRT導入の可能性が出てくると言える。

     

  • その説明には決して少なくない努力が必要とはなるだろうが、税金の効率的な使用、利用者本位の公共交通整備、交通技術の発展には避けて通れない道である。幸い、欧米諸国はじめ海外には「良いお手本」が多数ある。それらも参考にした上で考えていくことも可能である。海外でできているのだから、海外の多くの技術を自分達の生活にうまく取り入れてきた私たち日本人に、できないはずはない。

     

  • 車両の高加減速性能・交差点における優先信号などにより、LRTの速達性は実用上問題ないレベルまで確保できると考えられ、さらに乗降の容易性を考えれば、トータルの移動時間は地下鉄より有利な場合が多いだろう。特に、電車による移動距離が短いほど「路上を走る電車」は有利となる。

     

  • 「お客様」の立場に立った整備を徹底することにより、この国に欧米に負けない便利なLRTが爆発的に増える可能性は小さくない。官民レベルで、LRTの良さは現在少しずつ認められつつあるから、10年後はそうなるかも知れない。そんな動きに逆行した過剰投資の地下鉄建設は、将来必ずや禍根を残すことになるだろう。

     

  • 遠い将来やってくるのは、高齢化、就労者人口の減少、全体人口の減少、デフレ経済、それらによる税収や運賃の減収と、過剰投資には何一つ良い材料は見あたらない。「仙台東西線」では、LRTとリニア地下鉄を比較すると、結論としてLRTに軍配が上がるのではないか。同様のことは、中〜大都市の大部分の新規基幹交通計画でも言えるのではないか?

 以上をまとめると・・・ 

 仙台市など大部分の中〜大都市では、「渋滞緩和の・・・ ええい、もう「渋滞緩和」だけなどとみみっちいこと言わないで、もう一歩大きく出よう! ・・・環境・高齢化・福祉問題改善に大きく貢献し採算もとれる、これからの将来を見据えた計画」に一番近い道で、21世紀にジャストサイズと言えるみんなの「スニーカー」とは・・・

LRT is Best!!
 もう一度、各国のLRTに登場いただく。
 我が国では今のところ、「路上を電車が走るのは時代遅れ」とか「クルマのジャマ」とか、第一印象で「チンチン電車」のように見られがちなこれらLRTだが、本当はそんなことは決してない。これからの乗り物・気軽な「スニーカー」だと強く信じている。本文中でお話ししたように、これからの街に求められている姿すなわち「人や環境に優しい街」づくりに最も沿っている交通手段だと思うからである。1日でも早く、我が国でも「便利な形で」大ブレイクして欲しいものである。
 (世界中でたくさんのLRTが走っており、ここに挙げたのはほんのごく一部です。他の都市のLRTについてさらに知りたい方は、あとで「リンク集」でご紹介する各サイトを参照下さい。)

写真:
(左上)(右上)(左下)佐藤 茂 氏(仙台高速市電研究会)のご厚意により掲載
(右下)「平成10年度運輸白書」(運輸省編集) P129より抜粋

 今はまだ無名でも、みんなの力で育つことでしょう。これからこれから!!




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