「全線地下」の路面電車やモノレールって??





 ・・・と、仙台の大プロジェクトである「東西線」計画について、疑問に思うことや、「『東西線』が『お客様』にとって便利になるにもっと計画を見直して下さい」ということを、市長さんにお話ししました。
 それに、「東西線」の計画を担当なさっている部署にいらっしゃる「推進室長」さんは、国がLRT整備に前向きであることを話している「内閣の答弁書」をもって「路上を走る電車に関わる『古い手縄』は適切、と国が言っているのでLRT導入はできない」とお話しされていましたので、「そうではありません」ということも市長さんにお手紙しました。
 そんな中、「東西線」の機種などを選んでいた「東西線機種等検討会」(「機種等検討会」と略、座長:稲村肇・東北大大学院教授)が、やっと機種を決めたとのことです。
 我らが「杜の都」の明日を決める「東西線」計画で、成功するかどうかが決まると言えるほど重要な機種の選び方ですが、この「人の先に立つ人」の集まりである「機種検討会」のみなさんが出された結果とは・・・
リニア鉄道がベスト 機種等検討委 全員一致で選定

※河北新報H12.1.12記事
 ・・・えっ? 私は、名もない一市民ながら「仙台東西線」計画をリニア地下鉄で進めることについて、思いつくだけの問題点を今までお話ししてきました。「お客様」にとっての利便性、建設費等コストなどで大きな問題があるのでは、と・・・
 そんな中、「交通問題の専門家」である「機種等検討会」のみなさんは、「『東西線』には『リニア地下鉄』がベスト」との結論をお出しになったとのことです。しかも、「全員一致」・・・ これはいったいどういうことなのでしょうか? みなさんと一緒に見ていきたいと思います。
 「機種等検討会」では、「東西線」でどんな機種にするかを決めるのに、次の3つの条件に当てはまるものをベストとして選んだ、とのことです。
     
  1. 一部を除き地下方式  
  2. ピーク時の需要は1時間あたり約9000人  
  3. 最大勾配は約50/1000

※朝日新聞H12.1.19記事より
 つまり、「人の先に立つ人」である「機種等検討会」のみなさんは、この3つの条件全てに当てはまる機種がベストですよ、とおっしゃっているのです。そして、候補として、次の8種類の機種をお示しになりました。
機種名 特徴 国内における採用事例
@ リニア地下鉄 板状のモーターで走る 東京都営12号線、大阪市営長堀鶴見緑地線
A LRT 路上の他に、専用線・高架・地下線も走る。レールの形はJR線等と同じ 新規採用はなし
B 標準鉄道 JR線のような、標準タイプの鉄道 JR線、仙台地下鉄南北線など多数
C 新交通システム ゴムタイヤで主に高架を走る ゆりかもめ、広島アストラムラインなど
D 跨座(こざ)式
モノレール
レールをまたぐ形で走るモノレール。高架を走る 東京モノレール、多摩都市モノレールなど
E 懸垂式
モノレール
レールにぶら下がった形で走るモノレール。やはり高架を走る 千葉都市モノレール、湘南モノレールなど
F HSST 磁石で浮いて走る。世間一般で言うところの「リニアモーターカー」 なし。(平成元年の横浜博覧会会場内で期間限定運行)
G ガイドウェイバス 専用線部分ではレールにより案内、
一般道路ではバスと同じように走る
名古屋ガイドウェイバス志段味線(平成12年度開業予定)
※機種は「機種等検討会」により示されたものを掲載。特徴・国内における採用事例は著者。
 今まで繰り返しお話ししてきましたが、機種の「品定め」は、できるだけ安いお金で便利な乗り物にするか、というのに非常に重要なのです。必要以上の投資をして「宝の持ち腐れ」にしたり、ましてや、カネをかけた割に不便なものになってしまうような「安物買いの銭失い」になることは、絶対に避けなければなりません。
 さて、我らが「杜の都」の「専門家」のみなさんは、ここに挙がったたくさんの機種の中からどういう理由で「リニア地下鉄」に決定なさったのか、いや、私は今まで、「仙台東西線」に「リニア地下鉄」を採用することの問題点をお話ししてきたので、なぜこのような結果が出されたのか、納得がいきません。
 これから、「専門家」のみなさんがどんな理由で、「リニア地下鉄」以外の機種は「東西線」にはダメとされたのか、決めていく過程がどれくらい正しいものなのか、みなさんと見ていきましょう。
 まず、Bの「標準鉄道」から見ていきましょう。これは、JR線や地下鉄南北線のサイズの電車(1両あたりの長さ約20m、幅約3m)が走る鉄道のことですが、これがダメとされた理由は・・・
トンネル断面が大きいために建設費圧縮が難しいため

※河北新報H12.1.12記事
 つまり、「トンネルが小さくできないから建設が安くできない」ということなのです。でも、今までお話ししてきたとおり、「トンネルが小さい」からといって「建設費が安くてすむ」と言えるでしょうか?
 市や「機種等検討会」は、「リニア地下鉄」を想定した建設費を約190億円/kmとしています。しかし最近は、同じように「トンネルが小さいリニア地下鉄」である東京都営12号線や神戸市営海岸線の建設費は300億円/kmを越してしまい、「リニア地下鉄東西線」の値段よりずっと高くなってしまっています。
 つまり、単に「トンネルが小さい」からという理由では「建設費が(今の公表額のまま)安くすむ」とは言えないのです。「なぜ相場よりずっと安くてすむのか」という理由が納得の行くように説明されなければ、「お隣さんよりずっと安くできますよ」と言われても、信用できません。
 もちろん、「他の都市のリニア地下鉄の値段まで上がるという保証がないから、今発表している値段で仙台ではできますよ」なんて言葉も信用できません。
 だいたい、隣の家と同じような家を建てるのに「お隣さんと同じ値段まで上がるという保証がないから、うちはずっと安くすませますよ」なんて説明されたら、みなさんは信用できるでしょうか?
 家だったら、お金を払って建てる人の問題ですから、極端な話どうなっても他の人は困りません。でも、「仙台東西線」は莫大な市民の税金が遣われます。この事業で「予定よりずっと余計に出費してしまった」なんて話になったら、たまったものではありません。「機種選び」はきちんとしてほしいのです。
 つぎに、C〜Fの新交通システムモノレール、そして磁石で浮いて走るHSSTという機種はどうしてバツをつけられたのでしょうか。「機種等検討会」によりますと・・・
     
  • いずれも営業運転実績がない  
  • 地下式にした場合に建設費が高額になる
    ※河北新報H12.1.12記事
 確かに、HSSTは今のところ、平成元年に行われた横浜博覧会で限定運行された実績しかないのは事実です。全線地下の新交通システムやモノレールも、「機種等検討会」の言うとおり営業実績はありません。
 でも、新交通システムやモノレールは、高架線ならば多くの営業運転実績があります。「リニア地下鉄」よりもずっと多くの実績が。
 といいますか、新交通システムやモノレールというものは、そもそも高架線を走らせることを大前提にしている機種なのです。それなのに、なぜ「ほぼ全線が地下」が前提条件としている「東西線」計画で候補に挙がってくるのか、「専門家でない一般市民」の私には分かりません。
 (左)新交通システム(ゆりかもめ)、(右)モノレール(誇座式)(東京モノレール)。これらのシステムはいずれも、高架を走行させることを大前提に設計・建設されている。

 それなのに、「ほぼ全線が地下」を条件としているのになぜこれらの機種が候補として挙げられるのか、「専門家」ではない一市民ながら大いに疑問である。

 (左)ドイツ・ヴッパータールの懸垂式モノレール。レールにぶら下がった形で空中を走る。もちろん、全線が高架線であることが設計の大前提となっている。

 (右)レールにぶら下がって走るこの「懸垂式モノレール」のほぼ全線を地下線にした時の想像図。レールの分だけトンネルの断面積が大きくなってしまう。

 というよりも、全線がトンネルなのに、なぜわざわざ電車をトンネルの天井にぶら下げておく必要があるのだろうか?トンネルには必ず「底」があるから、そこにレールを敷いて電車を乗せれば済む話ではないか?

 「機種等検討会」が示した「ほぼ全線が地下方式」という前提条件も正論ではないが、候補機種の選定過程、それ以前に候補として挙げた機種自体に無理があると言わざるを得ない。このような前提条件・過程で選定された「リニア地下鉄」は、「『東西線』に最も適した機種」とはとても言えない、と言わざるを得ない。

 左写真:佐藤 茂 氏(仙台高速市電研究会)のご厚意により掲載

 もっと分からないのは、懸垂式モノレールを「全線地下線」の候補に挙げていることです。レールにぶら下がって走るこのタイプのモノレールを全線地下にしたら、トンネルが大きくなってしまって、建設費が高くなりすぎてしまいます・・・
 といいますか、全線がトンネルで、なぜわざわざ電車をトンネルの天井にぶら下げておく必要があるのでしょうか? 空中を走るときと違って、トンネルには必ず「底」があります。ですから、「底」にレールを敷いて電車を乗せて走らせれば済む話じゃないですか!
 どうして「ほぼ全線が地下」という前提でこの「懸垂式モノレール」が登場してくるのか、私は「専門家」でない一市民ながら非常に疑問に思います。
 つぎに、Gの「ガイドウェイバス」はどうでしょうか。「ガイドウェイバス」というのは、専用線部分では、新交通システムのようにレールに案内されながら走るバスのことです。専用線だけではなく、一般道路を普通のバスと同じように走ることもできます。
 この機種については、「機種等検討会」は、「輸送力が小さい」ことを理由に対象外としました。ガイドウェイバスは、道路を走る部分では自由に路線を設定でき、専用線を走る部分では路線がどこを走っているのか分かりやすい、という利点はあります。
 その反面、専用線部分は高架線にする必要があることが多く、その分建設費が割高になって駅での乗り降りが大変になる、路上を走る部分では普通のバスと同じように路線が分かりにくい、排気ガスを出すといった欠点も持ち合わせています。
 どのような条件ならばガイドウェイバスは最も良いのか、ということは簡単には言えないと思います。しかし、「機種等検討会」が前提としている「ほぼ全線が地下」という条件では、この機種は普通、登場してくることはありません。ではなぜ機種の候補にあげたのでしょうか? これも分かりません。
 最後に、私が「東西線」の機種として、便利さや建設費の安さ、輸送力など各条件から最適としたLRTについては、「専門家」である「機種等検討会」のみなさんは・・・。
 「連結車両の長さ制限で輸送力に限界がある」などの理由※で対象から外されてしまいました。えっ? なぜ? どうして? 「国はLRT整備に前向きで、法的制限の『抜け道条文』も状況に応じて柔軟に対処する」という「内閣の答弁書」まであるのに、なぜ「規制の殻」に自分から閉じこもったままなのでしょうか?
※河北新報H12.1.12記事より。
 ・・・というよりも、「ほぼ全線が地下」である鉄道は「LRT」とは言いません! 「地下鉄」と言います!!
 「専門家」のみなさんによるこの評価の方法を見てみますと、それぞれの機種の特徴・意義をしっかりと踏まえた上で評価されたものである、と言えるのでしょうか?私には疑問に思えてなりません。
 「東西線」は、莫大な額の税金を遣って、しかも、できあがったものは「杜の都」の街にずっと残っていくものです。みなさんだって、家を買うときのような「一生もの」の買い物をするときは、少しでも使いやすくて「身の丈に合う」ように、一生懸命になって考えるでしょう。
 それと同じように、この「東西線」計画だって、使いやすくて「身の丈に合う」ように計画を練り上げなければなりません。機種だって、どの機種はどんな特徴を持っていて、どう使い分けたら良いか、ということをきちんと知る必要があります。
 この「東西線」計画では、機種を決める大きな要素の一つである1時間あたりの最大輸送力は高々1万人未満です。この輸送力ならばLRTで充分対応できます。ですから、前提条件として「全線地下」にすることは、建設費の面、利用者の利便性などから考えると明らかに不適当であると言えます。
 道路1車線分をLRTに占有させることで、「場所くい」であるクルマから「便利な」公共交通機関に乗り換えてもらえてその分道路を走るクルマが少なくなってくれて、1車線で運べる人の数をクルマだけで運ぶよりもずっと多くすることができます。
 基本的に、1車線分のスペースを目一杯クルマに使わせても運べる人数は高々数百人なのです。たったそれだけの人を運ぶためにクルマに1車線分を明け渡しても限界であり、LRTなどの公共交通を便利にするために1車線分を占有させる方が合理的であることを、この「機種等検討会」のみなさんはどれだけお解りになっているのでしょうか?
 それだけでなく、なぜモノレール、しかも懸垂式モノレールやガイドウェイバスまで「全線地下」の条件の中で候補に挙がってくるのか、「専門家」の集まりである「機種等検討会」のみなさんは、それら機種について正しく理解された上で検討されたのか、この検討過程を見ると疑わざるを得ません。
 といいますか、トンネルを掘って中に電車を通す以上、「地下鉄」としての莫大な建設費がかかってしまうのは当たり前です。「全線地下」が前提条件となっている中では、上のような機種選定は、ハッキリ言って「どんな種類のゲタにするか」の議論を越えたものではありません。
 そんな検討過程の中で選び出された「リニア地下鉄がベスト」という言葉は、どれだけ信用できるものでしょうか? みなさんのご意見はいかがでしょう?
 「東西線」の機種とルートを平成11年度末までに決める、と仙台市長さんはお話しされていますが、その前の段階になって、「機種等検討会」がベストと結論とした「リニア地下鉄」の信頼性を大きく揺さぶるエピソードが起きました。それは・・・




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