リニア地下鉄の信頼性は「ベスト」?





 「機種等検討会」は「東西線」にリニア地下鉄が選び出された理由として、「信頼性」の高さも挙げています。しかし、その「信頼性」を大きく揺さぶるエピソードが起きました。ここではそれについてお話しします。
 仙台市が機種などの検討を委託していた「東西線機種等検討会」(機種等検討会)の座長の先生は、「リニア地下鉄がベスト」とした理由として、つぎのようなことをお話しされていました。
 「・・・大阪市で営業運転が始まってからこれまでの10年間、トラブルが発生していない信頼性にも評価が集まった」
稲村 肇・東北大学教授の発言:河北新報H12.1.16記事より
 我が国で最初のリニア地下鉄である大阪市営・長堀鶴見緑地線が、トラブルが発生していないから信頼性が高く、だから「仙台東西線」には「リニア地下鉄」最適である、と座長の先生はおっしゃっています。「信頼性もベスト」、ということでしょうか。
 リニア地下鉄は、我が国では大阪の他には東京都営12号線があります。つまり、営業路線としてあるのは、まだ2路線だけなのです。
 その都営12号線で、「機種等検討会」のみなさんが高く評価している「リニア地下鉄の信頼性」を根っこから揺るがしかねないトラブルが発生しました。しかも、仙台市長さんが「東西線」の機種などを正式決定する前に。それは・・・
台車に亀裂 77カ所
※朝日新聞H12.3.15記事
 リニア地下鉄である都営12号線の電車の台車に、ヒビがたくさん見つかっていたことが公表されたのです。「台車」とは、みなさんご存知の通り、電車の車体を支えて走るための装置です。
 クルマで言えば、タイヤや車軸、それを支える足周りの部分に当たります。電車の車体を支える「足」が台車ですから、その「足」にヒビが入るということが非常に危険であるのは、簡単にご想像いただけるでしょう。
 台車にヒビが入った原因として、都営12号線を運営している東京都交通局は「溶接時の作業ミス」と説明しています※。
※朝日新聞H12.3.15記事より
 その一方で、専門家の方からは、「リニア地下鉄」の台車のヒビの原因として、次のような指摘があります。
 (リニア地下鉄は)従来の車両と異なる構造になっているため、台車への力のかかり方や車輪の大きさなど、新たに生じる問題が多く、設計不良の可能性も大いに考えられる
※曽根悟・東京大学大学院工学系研究科教授の発言:朝日新聞H12.3.15記事より
 (リニア地下鉄は)メーカーも使う側もこれまで経験したことのない、新しい方式を取り入れている。台車や車輪はとてもデリケートなので、当然、従来型の車両に比べて力のかかり方が違う。
※交通評論家・角本良平氏の発言:朝日新聞H12.3.15記事より
 つまり、リニア地下鉄の台車は今までの普通の鉄道の台車と構造が違う「新しい技術」なので、今まで予想ができないトラブルが起こりうるということです。
 このようなトラブルが起こったことが判った以上、その原因がきちんとした形で明らかにされて、一刻も早く改善されることが強く望まれます。そうしないと、また同じトラブルが起こり、やがて大事故につながる危険もあるからです。
 といっても私は、今回のこのトラブルを持って、「リニアモーター式鉄道」という新しい技術の存在意義そのものを否定するつもりは少しもありません。
 新しい技術というのは、設計段階では予想し得なかったトラブルが起こることが少なくありません。トラブルが見つかったらそれを改善して・・・の繰り返しがあってはじめて、新しい技術は成熟していくものだからです。専門家の方も指摘されているように、はじめから完全なものを造ることはできないのです。
 今回の東京都営12号線のトラブルも、やがては原因が解明され、問題点が改良され、「リニアモーター鉄道」という技術は成熟度を増していくことでしょう。成熟度を増して「信頼性」を得ることができます。
 「リニアモーター鉄道」という技術は、実用化がはじまってまだ10年強と、まだ新しい技術です。新しい技術ということは、技術的に未熟な点が改善し切れていない、ということです。
 ここで私が問題としたいのは、「リニアモーター鉄道」というまだ新しい技術が未熟な点を持っているにもかかわらず、「リニア地下鉄は信頼性もベスト」と結論付けていることです。
 「リニア地下鉄」の走行技術は「新しい技術」であり未熟な点が洗いきられていない、つまり、「信頼性がベスト」と言い切るのは問題であるということは、「専門家」の集まりである「機種等検討会」のみなさんが一番ご存知のはずです。
 それなのに、「新しくてまだ未熟な技術」を「信頼性がベスト」と言い切っているのは、いったいどういうことなのでしょう?
 しかも、「仙台東西線」に導入しようという「リニア地下鉄」と同じ機種で、安全性に大きく関わる部分に大きなトラブルが発生している現実があるのです。この現実を、「機種等検討会」のみなさんはどのようにご覧になっているのでしょうか?
 「機種等検討会」のみなさん、そして、「東西線」の機種等を判断する仙台市長さん。「リニア地下鉄」の信頼性を揺るがしかねない大きなトラブルが起こっている現実があって、しかもそのトラブルの原因すらよく分かっていない段階で、「仙台東西線」は「リニア地下鉄がベスト」と結論付けてしまっても良いのでしょうか?
 この問題は、鉄道という「公共輸送機関」に求められる「安全性」に大きく関わるのです。「機種等検討会」が「東西線」の機種を選ぶとき、安全性もポイントに入れていました。※それも踏まえて「リニア地下鉄は『東西線』にベスト」としていたわけです。
※河北新報H11.12.22記事より
 その「安全性」という点で、リニア地下鉄は問題が問われているのです。まだそんな段階なのに、このまま「リニア地下鉄」を「東西線」に導入することは、「安全性」も選ぶときのポイントにしているのにその「安全性」というポイントを無視したまま導入に踏み切ることになります。それは、明らかに矛盾です。
 やはり「東西線」についてはまだまだ議論の余地があると思います。それなのにここで「勇み足」になって「リニア地下鉄で行きます」と言っても、後になって多くのひずみが出てくると思います。少し待って多くの議論をおこした方が、結果としてスムーズに計画が進むと思います。
 いかがでしょうか? この「リニア地下鉄の台車問題」を機に、あわてずに落ち着いて考え直しても良いのではないでしょうか?いや、後で悔いを残さないように、考え直すべきだと思います。
 このまま考え直すこともなく「リニア地下鉄がベスト」と言い続けても、その発言はどれだけ信用できるものでしょうか? みなさんのご意見はいかがでしょう?




←もどる 目次へ つぎへ→