もっとあるLRTの「忍術」





 LRTの「使える忍術」のお話、もう少し続きます。こんなタイプの電車、みなさんの街にあったら便利そうで、「街中に行くにはクルマから乗り換えても使いたい」っておもいませんか?
 今までの話から、LRTが建設費が他の機種よりも安く、工事が地下鉄やモノレールなどより簡単にできる、ということは・・・
 そう。これからの需要に応じて、路線を延ばしたり新しく建設することが(地下鉄などより)比較的簡単にできたりすることです。これが地下鉄やリニア地下鉄なんかだったら、そう簡単に伸ばしたり新しく造るなんて芸当は、とてもできないでしょう。
 地下鉄南北線の延長問題や今の「仙台東西線」問題の難しさを見るだけでお分かりでしょう。みなさんがお住まいの都市でも、地下鉄などの延伸が問題になっているところがあると思います。
 用地買収の難しさもあるでしょうが、やはり建設コストの問題は大きいのではないのでしょうか。リニア地下鉄などの場合は、採算性を考えるとホイホイ延ばすことなんかできません。
 それがLRTならば、建設コストや採算性については地下鉄なんかよりかなりハードルが低いと思われるので、比較的簡単に「市民の需要に応じる」ことができるのではないしょうか。
 また、需要に応じて「枝線」も比較的簡単にできるでしょう。「うちの地区に路線を」と、他の地区と路線をめぐってケンカなんかする必要はありません。あちこちに迂回させる必要もありません。みんなで仲良く、中心地に早くアクセスです。
 この様な方式は外国では使われているケースがあります。


 LRTは、建設費が安く工事が地下鉄などより簡単にできることが多いので、需要に応じて路線を延長・新設したり、「枝線」も敷くことができよう。地下鉄のように予算上1本しか敷けない、ということはないのではないか。LRTは「育つ鉄道」と言えよう。
 「東西線」をリニア地下鉄で造ったら、予算がなくなってそれ以上の路線新設・延長などはままならないのでは?
 名付けて「分身・タコ足の術」
 将来「仙台東西線」がLRTで完成できて路線が増えるようになると、下のように商店街のど真ん中を走る路線を造ることだって、できるようになるでしょう。



 (左)アムステルダム(オランダ)、(中)ストラスブール(フランス)、(右)グルノーブル(フランス)のLRT。これらの路線は商店街の中に乗り入れている。これらの通りは、一般のクルマの進入・通行は厳しく規制されている。これを「トランジット・モール」という。

 郊外から直接商店街などの目的地に人を運んでくれる。利用者だって、電車を降りるとすぐ目的地に到着できるので、地下鉄のように長く歩くことはない。また、クルマのように駐車場を探したり駐車場待ちをする必要もない。クルマは意外に「ドアからドアへ」になっていないことが多いのでは?

 それに対し、LRTなら公共交通機関でも意外に「ドアからドアへ」に近い状態が実現できよう。しかも、渋滞に巻き込まれることなくスムーズに。 「ドアからドアへ」は、クルマだけの専売特許ではないのだ。

 電車は、トランジットモール内ではすぐ止まれるようにゆっくり走っている。しかも、電車運転の有資格者が運転しているので、一見危険なようでかなり安全は保たれている。

 この便利な芸当は、路面上を走るLRTの専売特許である。

写真:
(左)佐藤 茂 氏(仙台高速市電研究会)のご厚意により掲載
(中)(右)建設省パンフレット「路面電車の活用に向けて」(平成10年1月発行)より


 えっ?「電車が歩道の真ん中を走って危ない」ですって? ゆっくり走ってすぐ止まれる速度ですから大丈夫です。それに、クルマみたいにどこ走るか、どんなヤツが運転しているか分からないようなシロモノじゃあるまいし・・・
 この通りは、もちろん一般のクルマは原則通行禁止です。この様な方式を「トランジット・モール」といいます。郊外から電車に乗って降りた目の前にはもう商店街の店々!これはどう見ても、「不便」という人はまずいないのではないでしょうか。
名付けて・・・ 思いつきません。術名を大募集! 誰か考えて〜!
 わが「杜の都」では、中心部等の商店街にこれを入れたらかなり便利だと思いますが、いかがでしょうか? 名掛丁・中央・一番町商店街のみなさん! 駐車場増設なんかよりよっぽどたくさんの、しかもより幅広い層のお客さんに来てもらえるのでは?・・・
 えっ?「でも、商店街の真ん中に電車を入れたら、荷下ろしのトラックはどうなるんだよ?」ですって? 確かに、トランジットモールの話題になるときに問題として挙がる話で多いのが、この問題です。どうしたらいいのでしょうか?
 一口に「市街中心部の商店街」と言っても、道路の幅や周囲の道路の構造等が商店街によってまちまちですので、解決法はこれ、と一概に言うわけには行かないと思います。しかし、次のことは言えると思います。
 トランジットモールを組み合わせたLRTは、(もちろん、使いやすく「魅力的な商品」に仕上げることで)郊外部からたくさんのお客さんを商店街に呼び寄せる効果が期待でき、実績も、上の写真の都市をはじめ海外に多数あります。
 言い換えれば、「荷下ろしのトラックのジャマだからトランジットモールはダメ!」と言っていることは、トランジットモールが運んできてくれるはずのたくさんのお客さんを荷下ろしの都合のためにわざわざ逃している、ということになります。
 お店にとって、1人でも多くのお客さんに来てもらうことに越したことはありません。そうですよね。お店のみなさん。
 確かにトランジットモールを導入するとなると、条件によって、物品搬入の時間帯・トラックの駐停車場所や時間が制限されたり、トランジットモール外の道路から荷物を下ろすという手間が発生したり、トラックの駐停車場所の整備が必要となることもあるかと思います。
 しかし、その商店街が荷下ろしの都合でトランジットモールを導入するかやめるかという問題は、1人でも多くの客を取るか荷下ろしの自由度を採るかの問題と同じであると思います。
 「お客様」のためにある商店街のみなさん、みなさんの都市では、1人でも多くのお客さんに来てもらうにはどうすればよいですか? もちろん、中〜大都市では「駐車場をいっぱい造って商店街を活性化しよう」などという考えは、パート1でお話ししたとおり集客数・利便性等の点で不利ですので念のため。
 トランジットモールについて議論する際は、「荷下ろしのトラックのジャマだからトランジットモールはダメ!」言っていることがトランジットモールが運んできてくれるはずのたくさんのお客さんを荷下ろしの都合のためにわざわざ逃していることをしっかり頭に入れた上で議論すべきと思うのですが、いかがでしょうか?
 ご参考までに、外国でもこんな話があるといいます。(フランス・ストラスブール(EU本部があり、上の写真(中)のLRTがある街)での話)
 新しくLRTを導入した都市で、中心商店街にこの「トランジットモール」を導入したところ売り上げが急増して、店の人はホクホク顔。
 ちなみに、はじめLRT導入に一番強硬に反対していたのは、「クルマで来るのが不便になって売り上げが落ちる」とか「昔の乗り物を今さら何で」などと言っていた彼ら商店街の人達自身だったとか。
 そんな彼らを、「これからの街のため、市民のため」といって必死に市民達を何度も説得して、やっと開通にこぎ着けさせたのは、その市の市長さん。
 いやあー 先見性のすごさに拍手! この様なバイタリティーと先見性を持った行動、我が国でも是非見倣っていただきたいものです・・・

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(ファイルサイズ約57KB)
 我が国で、「LRTのお手本」として良く登場するフランス・ストラスブールのLRT。建設省も「世界のライトレールトランジット」としてその特長を紹介している。我が国ではあまり知られていないが、この「LRTのお手本」は意外に「難産」だったという。

 このLRT導入案が示されたとき、商店街をはじめ市民から「クルマが不便になる」「19世紀の乗り物を今更なぜ?」という疑問や反発の声も強く、特に商店街は、開業直前までLRT反対運動を盛んに行っていたという。

 ところがいざ開業してみると、それら市民はLRTの有用性・利便性に気付き、大半の人はLRTを受け入れ、現在は路線延長も行われているという。この「街の装置」を実現させたのは、LRTの有用性・利便性を市民に何度も説得に説得を重ねた市長はじめ行政の熱意と先見性によるところが大きいと言えよう。

 我が国では「LRTなどクルマのジャマになるものの話をしても市民は受け入れてくれない」と言う声を耳にすることが少なくない。LRT導入に難儀したのは欧米とて同じことである。「なぜLRTなのか」ということを懇切ていねいに、論理的に説明すれば我が国でも受け入れられる道は開けるだろう。私たち日本人は、欧米人に比べ理解力に乏しいということは決してないと思うからだ。

 我が国においても、LRT導入においては、行政が熱意と先見性を発揮することが期待される。

資料出典:建設省パンフレット「路面電車の活用に向けて」平成10年1月発行 


 どんなシステムにしても、毎日使うのも税金で造るのも私たち市民。だから、できた結果で泣くのも笑うのも私たち市民。
 毎日使って半永久的に我が街に残るシステム。私たちが自分の家やクルマを買うときに死ぬ気で必死に考えて選ぶように、「仙台東西線」も同じ「高い買い物」(どれだけ高いかはパート2でお話ししたとおり)。 何がベストか、みんなで考えていきましょう。
 LRTにした場合、今述べたように路線を増やしたり延長したりするのが思ったほど難しくもないのではないでしょうか? いや、それどころか、諸外国の実例を見ていると地下鉄なんかよりもずっと簡単でしょう。LRTは「育つ鉄道」と言えるでしょう。
 これが、「リニア地下鉄」などのカネのかかって建設期間も長くなる手段にしたら、一度造ったらそう簡単に育てることはできないでしょう。いや、「リニア地下鉄」にしてしまったら、今後LRTを新設したいと言っても、今の仙台市の財政状況を見るとそれはできない相談になる可能性が極めて高いのではないでしょうか?
 「ふところ具合が悪くなったからもう延ばせません」とか、「もうお金が回せなくなったから新しい路線ができません」いうことになったりして・・・
 でもみなさん、ここまで聞くと、「何で我が国では今までこんなタイプの電車がなかったんだ?」とか「我がハイテク大国ニッポンともあろうものが、なんでこんなところで遅れをとっているんだろう」って思いませんか?
 そーでしょー?この我らが誇る「ハイテク大国」でですよ。
 それはなぜか・・・ これまでは、あの忌まわしい言葉「理不尽な規制」が「忍者の活躍」を阻んでいたのです。




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