Part 5 「大きな事業」だからこそ「正しい情報」を


ねぇ、おしえてっ!





 ここ最近になって、我が国でも公共事業や行政運営で「情報公開」が大切である、ということが言われるようになってきました。「私たちが払う税金で行われる事業はどんなものでそれは正しいものなのか」や「税金は本当に適正に使われているのか」ということに、強い関心が集まってきています。
 公金を使った接待など「食料費」の問題や、公共事業の適正さの評価がクローズアップされてくることが、ここ数年で非常に多くなりました。みなさんも、テレビ・ラジオや新聞などでよく御存知のことと思います。
 ところで、このサイトで扱っている公共事業「仙台東西線計画」の場合、
「情報公開度」はいかほどのものなのでしょう? このパートでは、この点から「仙台東西線計画」を観察してみたいと思います。
 この「仙台東西線計画」について、市側はどんな方法で情報を発信しているのでしょうか。主な方法は、パンフレットや「市政だより」で紹介したり、シンポジウムを開いたりして「仙台東西線」の広報・宣伝をしています。
 パンフレット「21世紀のまちを育む仙台市東西線」(編集:仙台市都市整備局総合交通政策部東西線推進室、発行:平成10年11月)を見てみると、「仙台東西線」の整備により期待できる効果や鉄道が自動車に比べていかにエネルギー効率の良い交通機関であるか、が紹介されています。
 また、仙台市主催のシンポジウム「21世紀のまちを育む東西線シンポジウム」は、平成10年11月24日、平成11年7月10日、それに平成12年2月9日と、合わせて3回行われました。
 それらのシンポジウムでも「東西線」の必要性について説明したり、「東西線」に関する資料を渡したりしていました。確かに現在の仙台市内では「公共交通機関が不便」と感じることが少なくないですから、それら広報の言いたいことは分からなくもないのですが・・・
 「仙台東西線」計画の説明用に市側が配布している資料類。「東西線」の必要性や効能、建設費や収支予想などの情報は記載されているが、「お客様」として知りたい最も基本的な情報、そしてLRTを多少なりとも知る者にとって知りたい情報はこれらには記載されていない。なぜ?
 でも、それら広報を見聞きして疑問に思うこともあります。ここではそれについてお話ししたいと思います。
 まず、これらの広報を見聞きしても、「お客様」の立場からして一番知りたいことが、どこにも出てきません。みなさん、それはなんだかお分かりですか? モノを買ったりサービスを受けようとするときに「お客様」が一番気にすること、そう・・・
利用運賃
でしょう。みなさん、「東西線」について市側からいろいろな情報が発信されていますが、私の知る限り、利用運賃に関しては今のところ全く聞かされていません。
 上の写真にある資料「東西線計画の概要」には収支計画が記されています。収支計画は予想収入・支出額を基に計算されますので、予想収入が想定されているならば当然利用運賃が想定されているはずです。ところが、その利用運賃は今のところ公表されていません。
 公共交通機関の設備がどんなに優れていても、運賃が高ければ使ってくれる人は激減してしまうのはみなさんお解りでしょう。ましてや、現在のように不況であるときはなおさらのことでしょう。
 「東西線」がリニア地下鉄で建設されるとしたら、パート2でお話ししたとおり、「都営12号線」の環状部分のように収支計画が破綻してしまうほど建設費が高騰している前例の通り、この「東西線」計画も同じ道をたどらない保証はどこにもない、と言えると思います。
 もし建設費が現在の計画より大幅に上がってしまったら、当然運賃値上げという形で利用者に跳ね返ってくるでしょう。そうなったら、みなさんイヤですよね?
 リニア地下鉄は、駅が地下深くにあることによる乗降の不便さ、JR等の従来路線と走行方式が違うため直通運行ができないことによる他の路線との連絡の悪さ等、少なくない欠点があるのは、今までお話ししたことからみなさんお解りでしょう。
 これでさらに運賃が高くなってしまったら、喜んでみんなに使ってもらえる「お客様の足」として成功することはとても望めなくなってしまうでしょう。
 こうなったら、タダでさえ苦しい仙台市の財政の中で建設費がグンと上がってせっかく完成しても造った意味がほとんどなくなる、いや、巨大な借金が残っただけ有害と言える状況になるのではないでしょうか? どうでしょう?
ねぇ、おしえてっ!
 次に、選定機種として「地下鉄」であることの必要性についての疑問です。今までお話ししたとおり、地下鉄の利点は1時間あたりの最大輸送力が大きいこと、つまり「地下鉄」を新たな路線に導入するには、地下鉄にするだけの需要が見込めることが最低必要条件です。
 つまり、地下鉄ほどの需要が見込めない路線では、建設費がLRTよりずっと高い(6〜20倍)地下鉄は過剰投資となってしまいます。ですから、地下鉄導入が正当化されるには、予想される需要(ピーク時の1時間あたりの需要)が見合っていることが必要なのです。
 ところが、第1回シンポジウムでは、「路線は必然的に地下になる」というパネリストのコメントがあったり、基調講演をなさった新谷洋二先生(日本大学教授)は「東西線は幹線だから地下鉄は当然」旨のお話をされていました。
 一見もっともらしく聞こえるこれらの発言ですが、ここまでお読みになったみなさんは、地下鉄程の需要が見込めないのに建設・運営コストがLRT等よりずっとかかる地下鉄を導入することの「弊害」をよくご存知のことと思います。
 その「弊害」をかかえる危険性を考えると、仙台市にとって今後の街づくりの方向性が決まると言えるこの計画で、地下鉄導入の合理的な理由が説明されないまま、上のような抽象論だけでコトが決定されて良いのでしょうか?
 ちなみに新谷先生は、他の地方では、海外の実例を挙げてLRTの有用性を解説したり、海外のようなLRTを導入するための法規改正・規制緩和の必要性を説いている講演をされています。
 それなのに仙台では、なぜ合理的根拠も示さずに「幹線だから地下鉄は当然」「登坂能力からはリニア地下鉄」とお話をされたのでしょう? 海外のLRTの有用性・性能について、一般の人よりはるかによくご存知のはずなのに・・・
 また先生は、同じ基調講演の中で「LRTを導入するには法規を11ヶ所も改正しないとできない。法規の改正は着工予定年度(平成16年度)に間に合わないからLRTはムリ」旨のお話もされておりました。
 でも、ちょっと待った! 今までお話ししてきたことを考え合わせると、法規の「抜け道条文」によって工夫次第で諸外国なみのLRTが実現でき得ると思うのですが、どの法規をどういじらなければLRTができないというのでしょうか?
 「法規を11ヶ所もいじらなければLRTはムリ」だけで話が終わられてしまっても困ります。きちんと詳しく教えて下さらなければ納得できません。
 他の地方でLRTの有用性を解説されており、かつLRTの国内への導入を本気で願っているのなら、「11ヶ所の法規改正」を問題提起として時間を割いてでも具体的に解説されるはずなのですが・・・
 それに、「着工予定まで法規の改正が間に合わない」というのもなぜなのでしょう? LRTは、もう既に海外で多数の実績があり、「抜け道条文」も生かせる可能性があるわけですから、それらを踏まえて導入することは可能なはずです。
 それに、法規は所詮「人間の決め事」なのです。もし不具合があるのなら、合理的な方向に改正できないはずはありません。どの法規をどう改正すればLRT導入ができる、と言うのでしたら、「できない」で話を終えてしまう前に合理的な方向の実現のためにすぐにでも行動すべきではないでしょうか?
 それに、11ヶ所の法規改正をするのに「ひとつずつ」行わなければダメのでしょうか? 法規改正の必要性をお分かりである「人の先に立つ人」ならば、「できない」で話を終わらせるよりもいかに早く合理的な法規の改正を実現させるかに精を出した方が「人の先に立つ人」らしい振る舞いだと思うのですが・・・ いかがでしょう?
 確かに海外のLRTをそのまま導入するにはまだ課題があるでしょうが、以上の「努力」をすることもないまま、「法規改正」の必要性には触れつつも単に「法的にLRT導入は難しいからリニア地下鉄で」などと締めくくって良いのでしょうか?
 「街の移動が便利になるか、不便になった上に莫大な借金だけが残るか」の瀬戸際でこそしっかりとした情報が公開されて検討・議論されなければならないということを、ご講演下さった新谷先生ご本人は良くご存知であるはずなのですが・・・ いかがでしょう?
ねぇ、おしえてっ!
 第2回目のシンポジウムでも、LRT導入の提言に対しての回答として市側から、「LRT導入は不可能」と言う言葉だけが示されました。具体的な理由は何一つ示されませんでした。
 LRTが導入不可能と説明するには、不可能である理由が具体的データ・合理的根拠を持って示され、そしてその理由が大多数の人に納得されるものでなければなりません。
 もちろん、「クルマと競合するので市民の同意が得られないから」は理由になりません。「クルマ中心社会」からの脱却を目指すための「仙台東西線」計画で、LRTの多くの利便性を市民に知らしめる前からそんな理由はないからです。
 それに、平成11年7月17日「仙台高速市電研究会」主催の定例会では、仙台市都市整備局総合交通政策部長さんが次の2つのデータを示されていました。
  • 最大需要:1時間で約1万人
  • 最大斜度(路線で一番坂が急なところ):現在の市のルート案で60/1000
 ここまでお読みになったみなさんは、上の2つのデータはいずれも、技術的にも法的にもLRTで充分に達成可能であることがお分かりと思います。「リニア地下鉄」ほどの輸送機関が不要であるというデータを、市担当の方が直々に明示されているのです。
 同定例会の中で、「お客様」として一番知りたい「運賃」や「同じリニア地下鉄である都営12号線との建設コストとの大きな格差」そして
 「利用客数が予想を下回ったり建設費が予想より高くなった場合、採算の見通しはどうなるのか」という旨の質問も出たのですが・・・
その部長さんは納得のいくお答えを全くと言っていいほど下さいませんでした
 「利用運賃」すら公開されないというのは、私たち「お客様」に「値段が分からないままでモノを買え」というようなものではないでしょうか? 店に行くと、値段の表示されていない「オープンプライス」制度でも、店員さんに値段を聞けばちゃんと教えてくれるのに・・・
 それに、今までお読みになった方にはお分かりの通り、「利用客数はずし」も「リニア地下鉄の建設費の高騰」も前例があるのです。「仙台東西線計画では大丈夫」というのならば、納得のいく根拠がすでに説明されているはずなのですが、その説明もありませんでした。なぜでしょう?
 平成11年7月17日に「仙台高速市電研究会」主催の定例会が行われた。同定例会で、「仙台東西線」担当の市幹部の方々が「市仙台東西線計画」に関する質問に対する回答という形で説明をしていた。

 この回答の中からは「リニア地下鉄」導入の合理性を示す説明はなく、むしろ、発表された輸送力・登坂性能のデータからは「LRTが最適」と解釈できるくらいである。
 また、「お客様」の立場としてもっとも知りたい「想定運賃」や「納税者」の立場として知りたい「同じリニア地下鉄「都営12号線」との建設費の格差」「利用者数や建設費が予想外になった場合の採算性」に関する質問に対する明快な回答は、ついに示されなかった。

   (写真)仙台市都市整備局総合交通政策部東西線推進室編集のパンフレット「21世紀のまちを育む仙台市東西線」の裏表紙。『市民との「協働※」により進めます』とある。この計画で「市民との協働」を実現するには、本来ならば「利用客」「納税者」である市民に充分な情報公開をした上で市民と正当な議論を行うことが必須であるはずである。ところが、市側から「本当に知りたい」情報がほとんど出てこない現状では、このパンフレットに書かれている「決意」の達成度はいかほどのものであろうか?

※協働:同パンフレットでは、「共同の担い手として、適切な役割分担のもとに責任と成果を共有し協力して働くことを意味します。」と説明している。

 後世の批評に耐えうる交通機関に仕立てるためにも、更なる「情報公開」が要求される。「情報公開」が極めて乏しいままこの事業が進められ、「21世紀のまちを『育む』」はずが「21世紀のまちを『蝕む』」などということになったら、それはだれの責任なのか?

 文献や「路面電車サミット」をはじめいろいろなメディアでLRTの有用性・利便性が言われ、しかも世の中が「路上鉄道」に関して少しづつ規制緩和の方向に向かっているのに、なぜ市側からはこれらの動きが市民に伝えられていないのか
 そして、「リニア地下鉄」などの「全面地下鉄道」を合理的とする明確なデータが示されていないのに、仙台市では「不便で高い」手段と言える「リニア地下鉄」案が前面に出ていて、LRTは不適とされているのか・・・
 さらに、「東西方向の・・・これらの路線では、仙台圏の人の動き、採算性から見て、南北線のような容量の大きい乗り物は必要ないだろう。・・・欧米ではLRTが都市交通に導入・・・」※と、以前から地元の学者の方の指摘があったのになぜLRTの「正しい」情報が市側から未だ持って広報・開示されていないのか?・・・
※福田 正・東北大学工学部教授(当時):平成4年7月14日河北新報「ゆとり持った都市計画を」の記事、文章は一部中略。
 ちなみに仙台市内では、『「路面電車」と聞いて思いつくのは「旧仙台市電」が78%』※と、大半の仙台市民にはLRTに関する認識が薄い、ということを裏付けているアンケート結果があります。
※大内秀明・東北科学技術短大教授ら調査結果:読売新聞(平成10年3月16日)記事より
 この結果は、市のLRTに関する情報公開不足の一端を示すものと言えるのではないでしょうか? 国内でもLRTの有用性が認められつつ動きがあるのに、我が「杜の都」では、市民がLRTについて認識が低いままで良いのでしょうか?
 今後の仙台市の運命を左右するほどの出費を強いられるかどうか、「クルマから乗り換えたくなるほど魅力的な『足』」になるかどうかの瀬戸際というのにこのままで良いのでしょうか?
 以前からLRTに関する話が仙台市内でも言われているのに、この数年間、なぜLRTに関するデータなど具体的情報が市民にほとんど与えられてこなかったのか、なぜ市側は具体的なデータを公開しないまま「LRTは『仙台東西線』にはムリ」と断言できるのか・・・
 ここまでお読みになったみなさん、不可解だと思いません? 「便利でコスト安」が大いに期待されるLRTが不適で、「不便でコスト高」が大いに危惧される「リニア地下鉄」が前面に出ているなんて、なんでーーー?
ねぇ、おしえてっ!
 といっても、だれに訊いたらいいんでしょう? 困りますねぇ。あ、そうだ! 我が「杜の都」には、こんな疑問に答えてくれる制度が
あるんですっ
 それは、今からお話しする「まちづくり提案制度」です。仙台市では、市役所などに行くと下の写真に示している、中に便せんの入った封筒が置かれています。
 仙台市の「まちづくり提案用紙」。市区役所などに置いてあり、これに市政についての質問・意見を書いて提出すると、数週間以内に回答するのだとか。しかも、封筒の宛先は仙台市長になっている。「市民の声」を聞いて行政に活かそうとする市側の態度の表れとして、この制度を高く評価したい。

 せっかくこのような制度があるんなら、活用させていただかないテはない。上の疑問の数々を市長さん宛に差し上げたら、どんな明快なお答えを下さるのか、とくとお待ちすることにしよう。

 この用紙に市政に関する質問・意見を書いて提出すると、数週間以内に回答するのだそうです。
 この封筒の宛先は仙台市長さんご本人! 「仙台東西線」の担当者の方に訊いても分からないことが多いのですから、上の疑問の数々を市長さんご本人にお伺いすることにしましょう。
(具体的質問文はこちらをクリック!)
 かつて汚職事件が起こってその時の市長が捕まったということもあった仙台市、そんな暗い過去を一掃して「市民の声」を行政に吸い上げようと一生懸命になっている市側の態度の現れとして、この制度を高く評価したいと思います。
 市長さんは、「仙台東西線」に関する数々の疑問に対してどう明快で納得のいく御回答を下さるのか、お待ち申し上げたいと思います。今後の「杜の都」のためにも、これらの疑問にははっきりとケリをつけるべきであると思います。
 私は、「何が何でもLRTを!!」と言っているわけでは決してありません。ただ、今まで知った情報やデータ等を勘案したら、この計画ではLRTがベストであるという結論にしかたどり着けないだけなのです。
 市長さんからの御回答が、「仙台東西線」計画における情報公開の「頼みの綱」と言っても過言ではないと思います。何卒宜しくお願い申し上げます。
 今まで長々とお話ししたとおり、「公共交通機関整備」の必要性が前面に出てしまって、「利用者」や「納税者」に知られるべき情報があまり知られないまま進行されようとしている一例と言えるのが、この「仙台東西線」計画です。
 みなさんの街では、「事業の必要性」の影で「真に議論されるべき問題」が見えにくくなっている事業などはありませんか? その事業の「情報公開度」はどうですか? 「あとで間違いに気づいたときには手遅れ」なんてコトにならないよう、よくチェックしてみましょう。




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