「人の先に立つ人」としての責任を





 それは、LRTを高く評価しているその運輸省からの出身である仙台市都市整備局総合交通政策部長(以下「部長」と略。前項の表のCの方)さんは、「機種等検討会」で機種が決まる前から「LRTは『東西線』にはダメッ!」ってバツを付けちゃってるんです。
 バツを付けている理由が、合理的でだれが聞いても納得の行くものでしたら話は分かります。でも、LRTのことをちょっとばかり知っている一市民のこの私が聞いても、部長さんが話されている理由は根拠のあるモノである、とはとても思えないのです。ここでは、それについてお話しましょう。
 部長さんは、平成11年12月14日の地元有力新聞への投書として「東西線」へのLRT導入に関するご意見をお話しされています※。この新聞で、市民からの「『東西線』にはLRTが一番合理的と考えられるので市当局は検討して下さい」旨の投書が時々見かけられますが、それらの声に対して、この部長さんは投書の中で・・・
※高橋秀道・仙台市都市整備局総合交通政策部長:H11.12.14河北新報「論壇」
 (LRTは)制約・課題多く非現実的と結論されています。その理由として挙げられているものをまとめてみますと・・・
     
  1. 「路面を走る電車」の法律の規制によって、速度・輸送力・登坂能力が足りないため  
  2. LRTの特性を活かすためには広い道路にする必要があるので、道路整備に多大な時間と費用がかかるため  
  3. LRTが走る道路では大規模な交通規制が必要となり、自動車の交通量が以前よりもはるかに多い現在では市民生活に多大な影響を及ぼすので、市民の同意が得られにくいため
 となります。ここまでお読みになったみなさんは、これらの理由は正しいものかどうか、もうお解りと思います。えっ?「ここまでの文章が長いからもう忘れちゃった」ですって?
 すみません。お話したいことをイロイロ書き並べると、どうしてもここまで長くなってしまうんですよ。では、忘れた方のために、もう一度復習です。
 まず、理由(1)について見てみましょう。パート3でお話ししたとおり、LRTが道路上を走るときの速度・輸送力を決める要素のひとつである電車の長さ・勾配について決めている法規にはちゃんと「抜け道条文」があり、安全性が説明できる範囲で規定の値を「越える」ことができる、という話がありましたネ。

→復習:「「古い手縄」からの「縄抜け」は、できるっ!」へどうぞ。このページに戻るには、ブラウザの「戻る」ボタンをクリックして下さい。

 この「抜け道条文」がある、ということは、先の「内閣答弁書」にもきちんと書かれています。つまり、理由(1)は根拠のない話であることが思い出していただけたかと思います。
 ところで、部長さんの投書の中には、LRTに関する「規制」の話は細かく載っているのですが、「抜け道条文」については何も触れられていません。「人の先に立つ人」である以上、LRTに関係する「抜け道条文」にもきちんと触れた上で、LRTに対するきちんとした評価をすべきだと思うのですが・・・
 それにこの部長さんは、平成11年7月17日「仙台高速市電研究会」主催の定例会では次の2つのデータを示されていました。
  • 最大需要:1時間で約1万人
  • 最大斜度(路線で一番坂が急なところ):現在の市のルート案で60/1000

(高橋秀道・仙台市都市整備局総合交通政策部長:平成11年7月17日「仙台高速市電研究会」主催の定例会における発言)
 上の2つのデータはいずれも、技術的にも法的にもLRTで充分に達成可能であることを、みなさんは思い出されたかと思います。「東西線」計画で問題となる輸送力・登坂性能について、LRTで充分に達成可能であるデータをこの部長さんが直々に明示されているのです。

→法的に「60/1000の勾配設定が可能である」根拠の復習:「「古い手縄」からの「縄抜け」は、できるっ!(2)」へどうぞ。このページに戻るには、ブラウザの「戻る」ボタンをクリックして下さい。

 それなのに、新聞の投書では「LRTは輸送力・登坂能力不足」とおっしゃっているのです。同じ方なのにまるっきり逆のことをお話になっていることと同じなのです。どういうことなのでしょうか?
 きちんとした根拠に基づいて言動し、中立・公正明大をモットーとするのが公務員の大原則のはずなのですが・・・
 つぎに、理由(2)について見てみましょう。「LRTの特性」というのはどういうものか、ここでちょっと思い出して見て下さい・・・
 そう、ある時は路上、ある時は専用軌道、またあるときは地下線に潜り高架線を駆け抜ける・・・と、イロイロなところを走る「忍者」でしたネ。

→復習:「LRTは「鉄道界の忍者」」へどうぞ。このページに戻るには、ブラウザの「戻る」ボタンをクリックして下さい。

 また、軌道には原則的にクルマを走らせないようにして、交差点では原則的にLRVが優先的に走れるように信号を設定することで・・・
     
  • 「速くて安くて便利な乗り物」にすることで「お客様」を呼び寄せる→  
  • 「お客様」が「喜んで」乗ってくれる→  
  • ラクに乗り降りができて、それでいてクルマやバスと違って渋滞に巻き込まれなくて済むという「便利さ」が分かってもらえば、「場所くい虫」であるクルマからの乗り換えが進む→  
  • 余計なクルマが少なくなる→  
  • 道路が空く。あるいは道路のスペースが少なくて済む
 というのが「LRTの効果」であることがお解りかと思います。「限られた道路のスペースを有効に使う」ためのLRTなのです。ヨーロッパなどでは、すでに多くの都市で上の理屈が成り立っています。ですから、「LRTを走らせるには広い道路が必要」などということはないのです。

→復習:「LRTへの疑問にひとこと(2)」へどうぞ。このページに戻るには、ブラウザの「戻る」ボタンをクリックして下さい。

 こう考えると、上の理由(2)も合理性がないということがお解りかと思います。
 もちろん、LRTが走れるのは路上だけではありませんから、街の中心部の大通りやバイパスなどLRTと道路をどうしても分けなければならないところでは、何のことはありません、立体交差にすれば良いだけの話です。部長さんがお話になっているような「大規模な交通規制」等というモノも、必要ないのです。
 (左上)「都市間バイパス」といえる「仙台バイパス」、(右上)はその交差点。「仙台バイパス」は、中心部に入って来るクルマの他に、「中心 ― 郊外」間の「人」の移動とは無関係なトラックなどの通行もかなり多い。この他にも、市街地の中心部などLRTの流れと無関係な交通が集中する部分では、LRTによって他交通の流れが切られることは問題かも知れない。このような場合は、地下線・高架線の立体交差にすることで大幅に解決できる。
(国道4号線仙台バイパス・箱堤交差点で撮影)

 (左下)仙台市の「仙台東西線」路線案に挙がっている道路。「中心 ― 郊外」間を結んでいる「主道」となっている。もしここにLRTを走らせるとすれば、「横丁※」のクルマは現状より極端に「不便」になるだろうか?

 ※横丁:表通りから横へ入った町筋。また、その通り。(小学館「大辞泉」より)

 (右下)この道路と交差する「横丁」。この交差点の「横丁」が「青信号」である時間は、現在のところ、平日の日中で約30秒。「横丁」の「青信号」の時間が極端に長いと「主道」の流れに大きく影響するだろうから、あまり長くできない。せいぜい1分以内なのではないか?

 言い換えれば、「横丁」の流れがLRTにより「平均1分程度〜数分ごとに1度切られて」も、「流れ易さ」は現状より極端に不便になる、とは言えない。しかも、LRTに人が移って「主道」の交通量が減少すれば、かえって「主道」に入りやすくなることも期待できよう。
 (中)(右)県道荒浜原町線・大和町4丁目交差点で撮影

 こう考えると、「部長」氏の示す「LRTを導入には大規模な交通規制が必要」なる発言には根拠がないと言える。

 ここでお話ししたことをまとめますと、部長さんが「『東西線』にLRT導入はムリ」としている理由(1)〜(3)は、どれも根拠がないということです。LRTについて誤解をなさっていらっしゃるものと思われます。
 「人の先に立つ人」である部長さんの「LRTに対する誤解」はこれだけではありません。部長さんは、投書の中で、LRTについて次のように説明されています。
 LRT=車両性能を向上させた新しいタイプの路面電車
 LRTについては、近年、低床化され乗り降りが容易な近代的車両が開発され(中略)広島市などで使われ始めている・・・

※高橋秀道・仙台市都市整備局総合交通政策部長:H11.12.14河北新報「論壇」
 つまり、単に「LRT=路面電車の車両が新しくなったもの」と説明されているのです。しかし、これは違います。LRTというのは、今までお話ししたとおり・・・
路上軌道はじめ状況によっていろいろなタイプの軌道を組み合わせることなどで、乗り降りをできるだけラクにしながら速く便利に移動できるようにしている鉄道の「システム」
 なのです。「LRT」という言葉は、決して「新しい路面電車車両」そのものを指しているわけではありません
 広島電鉄のLR「V」である「グリーンムーバー」。この車両は、斬新なデザインと高い走行性能、オール低床式の床で高い注目を浴びている。

 世間ではしばしば誤解されるが、「LR『T』」という言葉は、この「高性能路面電車」そのものを指しているのではない。路上軌道の他にも状況に応じて様々なタイプの軌道を組み合わせること等で、乗降の容易性の確保や速達性をもって利便性の向上を目指している「システム」を指す。このことについては誤解が多いので、しっかりとご理解下さればと思う。

 旧来のいわゆる「路面電車」と、この部分で一線を画することを理解することが、LRTを理解する第一歩なのではないかと、私は思う。

写真提供:元山 康夫 氏

 LRTという「システム」が持つ効果、利点、LRTにまつわる「抜け道条文」を含む法規、それ以前に、LRTがクルマ「中心」交通の問題を解決する「しくみ」をきちんと研究し、理解し、私たち市民に合理的理由を持って説明して情報を公にするのが、本来の「人の先に立つ人」のあるべき姿なのではないでしょうか?
 それなのに、部長さんの投書を読んでみますと、「人の先に立つ人」自身からLRTに対して誤解なさっていると、言わざるを得ません。誤解から出される情報は、正しいはずがありません
 「交通行政の先頭」に立つ方からして誤解なさっているのでは、この「都市整備局総合交通政策部長」さんが所属なさっている「機種検討会」においてLRTは公正明大に評価されるのでしょうか?
 「杜の都」の「総合交通政策」の部長さんからしてそんな状況では、LRTに関する「正しい」知識が市民の間に広がってくれるのか、疑わざるを得ません。いや、この投書を読むと、「LRT」という言葉をおぼろげながら聞いたことのある程度の市民の人ならば・・・
     
  • 「LRTは安くて便利な乗り物だ、って聞いたことがあるんだけど、法律があるからダメなのかぁ」  
  • 「LRTが便利なのは聞いたことがあるんだけど、大きな交通規制がかかるんだったら、できないな」  
  • 「LRTを入れるには道路を広くしないとダメなのか・・・ LRTがいいと思ってたんだが残念だな」
などと誤解をする恐れも充分に考えられます。それはそうでしょう。発言しているのは、私のような一市民の「小さな存在」と違って、たくさんの市民の人たちから「都市交通のプロ」「鉄道整備の専門家」「公明正大で地位のある公務員」として厚い信頼を受けている仙台市当局の方直々なのですから・・・
 「人の先に立つ人」というのは、市民から信頼されている以上、公の場における自分の発言がどれだけ周りに影響するのかということをしっかりと把握する必要があるのではないでしょうか?
 市民が「人の先に立つ人」を信頼する以上、その信頼に応えるような行動をとるべきなのではないでしょうか?ましてや、市民に正しい判断を狂わせたり誤解を与える情報を流したりするようなことは厳に慎むべきなのではないのでしょうか?
 いわんや、苦しい仙台市の財政の中、これからの仙台の街づくりの方向性が決まってしまう大事業である「東西線」ならば、正しい知識の把握、正しい情報の啓蒙が必要なのは、なおさらでしょう。
 第一、部長さんの投書が新聞に載った時点では、「機種等検討会」は、イロイロな機種について検討中でまだ結論が出されていないのです。
 まだそんな段階なのに、その「機種等検討会」に所属する「中立・公明正大」が大前提の公務員であるこの部長さんはすでに、ある特定の機種である「LRT」に対してだけ、バツを付けているのです。これって、「公明正大」と明らかに矛盾するのではないでしょうか?どうでしょう?
 LRTと関係する法規の「抜け道条文」が使える可能性がある、という事実すらお話にならずにある特定の機種だけを、根拠のない理由をもって否定することは、「公正明大」がモットーである公務員のすることでしょうか?
 部長さんが書かれたこの投書は、おそらく他の都市にも影響するのではないでしょうか? 現在、LRT導入を検討している都市は全国にありますが、それら検討している都市の中には、この投書の情報を耳にして
 「『政令指定都市』の仙台市の都市計画の方が『LRTはムリ』と言っているくらいだから、うちでもLRT導入は難しいな
 などとあきらめるケースも今後出てくるかも知れません。ここまで極端ではないにしても、何らかの形でLRTの普及に影響する可能性は、否定できません
 LRTが活躍できる可能性は我が国でも小さくないはずです。我が国の財政が苦しい中、合理的な公共投資の必要性が叫ばれている今ならば、その可能性をどう活かすか真剣に考える動きが進んで当然です。この動きに冷や水がかからないか、心配です。
 それに、この部長さんが所属している「機種等検討会」で、部長さんが発するLRTに関する間違いの情報がもとで「カネがかかる割に不便なシステム」に決まってしまい、予想よりはるかに高い建設費などで仙台市の財政が破綻なんてことになったら・・・
 あ、そうだ。忘れてました。我が国には、鉄道を造ったり運営しようとするとき、それらが適切かどうかを見極めて、許可を出すかどうかを決めるお役所がありましたね。それは・・・
 運輸省です。このお役所が、鉄道の建設や運営の許可申請を受け取って、許可を出すかどうかを決めているのです。「採算性」も、事業許可を出すかどうかを決める基準の一つです。
 「リニア地下鉄東西線」は、建設費が他の都市の「相場」よりもずいぶんと安く公表されています。しかし、なぜ「相場」より安く済むかについては、納得の行く説明が行われていません。このままでは、今の公表価格よりもずっと高くなってしまうことは明らかです。
 「ふところ」にとって悪いことはこれだけではありません。「東西線」の沿線の人口の伸びも、初めの予想より悪いことがすでに言われています。「建設費がうんと上がった上に乗客が減った」ら、どうなるでしょうか? いや、このままでは、「リニア地下鉄東西線」がこうなってしまうことは、ほぼ決まりだと思います。
 運輸省のみなさんにお訊きしたいと思います。こんな状況でも、事業許可をお出しになるつもりはありますか? 念のためにお訊きしますが、仮にあるとしたらそれはなぜでしょうか? 「人の先に立つ人」の最高峰として、賢明なご判断およびご指導をよろしくお願いします。




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